書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)33

「学園には一口に平民の富裕層や貴族がいると言っても、貧富の差は大きいわ。下手をすれば下級貴族より平民の富裕層の方が財力だってあるの。同じ富裕層でも急に生家の家業が立ち行かなくなる場合もある。だから学費の減額、免除や生活の援助を認められているわ。ただ、それには学園に何かしらの貢献を求められるの」
「貢献内容は学業での成績を優良にするか、有益な研究成果や将来性を見込める魔法に関する論文の発表、有益な魔法具の開発、優れた情報統制力等を見せてヒエラルキーの上位者に足るに相応しい能力を社会にアピールする、だよね」

 キャスちゃんは前々世のベルジャンヌの時にも一緒に学園にいたから詳しいのよ。

「ふふ、相変わらずキャスちゃんてば学園を良く知ってるわ。それが難しいなら奉仕活動という名のタダ働きね」

 Dクラスで何かしらの支援を受ける学生の大半は奉仕活動を選ばざるを得ないの。

「でも奉仕活動を選ぶしかない学生は貢献度が低いと判断されて、援助のうち幾らかは返済の義務を負わされる」
「義務教育と言うくせにそこは返済させるんだから、ぼったくりじゃない?」
「そうねえ。でもそれがこの国の国民の義務としているし、利子をつけているわけでもなく完全に全額返済でもないわ。非道徳的とも言い切れないのよ。高位貴族になるほど個人で事業を興す学生もいて、学園に寄付もしているもの。けれど寄付者がそれを笠に学園へ何かしらの権力の誇示や要求を表立ってするのは許してはいないでしょ?」
「隠れてやる人は一定数いるけどね。そういう部分は王立の強みかな」

 キャスちゃんの言葉に思わず苦笑してしまったわね。

「特権なんてせいぜい学生寮のグレードが高いお部屋を優先して借りれるくらいよ?もちろん部屋代は見合った金額を支払ってもいるし、それに寮に部屋を借りる必要がある場合だから可愛いものよね。当然そんな彼等は能力が低い者を下には見るわ。でも義務を果たして学園の運営資金にも貢献しているのが同じ学生なんだもの。直接的な圧力や暴力がない限り見過ごされるのもある意味仕方ないわ。この学園は正真正銘の貴族社会の縮図だもの。嫌なら自分の能力を伸ばして学園に寄付をするなりして立場を強くする術を身につけるしかないのよ」
「ラビのいた日本と違ってこの国は身分社会だからね」
「ふふふ、ゆとり教育なんて無縁の、義務と権利がはっきりした国よね」

 ふむ、とキャスちゃんは考えてから一言。

「Dクラスは肩身が狭いね」
「そうね。でもそんな彼らだから良かったのよ」
「確かに。頭でっかちが集まるクラスじゃ出来なかったよね」
「あらあら。彼らは頭脳派で、産まれた時から指示する教育を施される立場だっただけよ」

 ヒエラルキーの上位の立場になるほどある意味プライドでご飯を食べて、下位の立場になるほど実利でのお金でご飯を食べるの。

 平和な世界ではないからこそ成り立つ均衡で、実はどちらの立場も必要よ。

 そう、だから。Dクラスは立ち回りの下手な平民の富裕層と、プライドでは食っていけない生家の家業を手伝う下位貴族が多いって事ね。

 それに親の立場は多種多様。点と点の彼らの生家の事業を線で結んでいけば、ぶっちゃけ身銭という補助金を切らなくても潤う事は多いわ。

 まず孤児院への食材調達は1年と4年のDクラスの男子達が担う。魔獣駆除の奉仕活動という名の課外授業を教師にお願いして、学園の名前で食材を寄付よ。もちろん付き合ってくれた教師の名前も研究発表の資料に記すわ。元々Dクラスって将来冒険者や傭兵、兵士希望も多いの。最終学年の生徒の指導演習も兼ねているから、ついでに成長記録をつけて4年生の実績になったわ。1年生は翌年の専攻科を選択後の成績にも繋がるし、卒業後のコネクションや在学中の冒険者アルバイターにありがちな怪我や死亡リスクの軽減にも繋がるじゃない。

 食材の調達をしない主に女子達は現地での塩分濃度の測定ね。もちろん1年生と4年生の合同よ。ついでに孤児達に読み書きと計算を教えて2年後には頻繁に出向かなくても良い仕組みを作りつつ、これも学園の名の下に奉仕活動の一環として行うの。

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