書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)23

「お茶会に招かれたのはもちろん名家と呼ばれる家々のお子様達でしょうね。皆侯爵家以上、もしくは伯爵家とはいえ代々続いて侯爵家に次ぐ家柄ばかりじゃないかしら? 30名ほどが参加したみたい」

 大人しく耳を傾けてくれているキャスちゃんに話を続けるわ。

 余談だけれど、前々世の私にはそういうの無かったのよ?

 お陰で立場は王の子供ではなく愛妾が産んだ庶子扱い。側室なんて、言葉だけの体裁に過ぎなかったわね。

 もし当時の私がその手のアピールができていたら、王女も母親である側室も、随分立場は違っていたのは間違いないでしょうね。そういう後ろ盾アピールはあんな見栄だらけの世界でこそ真価を発揮するのよねって、しみじみしてしまうわ。

 ふふふ。あの時代の王妃の蟄居の理由の1つが説明つかないっていうのはこういう時に思うのだけれど、私の被害妄想かしら?

「もちろん王妃も側妃もちびっ子王女と年の近い四公の子供達も何人かいて、それぞれの派閥の子供達も入り乱れていたんだと思うの。派閥といっても王妃と側妃が表立って派閥争いをしていると聞いた事はないのだけれど、そこらへんはどうなのかしらね?」
「どうって?」

 キャスちゃんは聖獣なのもあってこういう所は比較的疎いの。

 コテリと首を傾げる白いもこもこにもふりつきたい衝動を抑えるのが大変よ。

 でも家庭内別居阻止の為にも頑張る!

「本当のところは私にはわからないっていう意味よ。でも王妃の息子である第1王子は王位に拘っていないみたいだし、第2王子が学園を卒業した1年後に正式な立太子を発表するとは公言しているわ。さすがに第3王子の卒業までは待てないようだけれど」
「ふーん。あの馬鹿である意味扱いやすそうなラビの形だけの婚約者より第1王子はマシなの?」
「うーん……私はお城には行かないし、絡みに来ない限りあの婚約者とすら関わらないからよく知らないのよね」

 今世の自分の情報収集能力の低さに苦笑しちゃう。

 第1王子は正式な発表までの間、成人した王子としての範囲で政務に関わっているというのは風の噂よ。立太子はある程度の公平性の下に選ぶから、式典なんかがなければ彼が第2王子のいない場に単独で表立っては出てこないんですって。

 これは現国王が健康体でその周りの臣下の勢力も健全な形で均衡が取れているからできる事に他ならないわ。前々世の堕ちた異母兄が国王だった先代の頃とは全く違って、世情的にも焦っていないの。

 そう考えるとベルジャンヌの甥にあたる現国王は、よほどできた王なのでしょうね。

 それにまだまだ働き盛りの40代後半。この世界の平均寿命も70代後半くらいだし、後継者が数名いるのだから立太子そのものを焦る必要性がないと判断するのも頷けるわ。

 もちろん稀代の悪女の一件で団結した四公の先代当主達の頑張りもあるでしょうね。現在の当主世代もしっかり機能して支えているし、昔のように国王に権力が集中して崩れかけたワンマン王政ってわけでもないわ。

 あの当時を知る私としては、王位を巡って王妃と側妃の何かしらがあるんじゃないのかと邪推もしそうになるけれど、よくここまであの王家が持ち直したものねと感心もしちゃうの。

 なんて、稀代の悪女ベルジャンヌだった私が思うのもおかしいかしら。

 とはいえ他人事で情報に疎いのが今世のラビアンジェ=ロブールよ。今みたいな時はこの状況に苦笑もするけれど、詳しい内情まではあえて把握したくもないの。

 そもそもそれを知って巻きこまれたくないじゃない?

 もちろん無知は罪よ。権力を行使するのならば知らなかったで済まされない事も多々あるわ。これでも元王女だもの。そんなの百も承知しているの。

 なれど無才無能と広く周知される今世の私、ラビアンジェ=ロブールにとっては権力から逃走する最強のカードね。

 お陰で第2王子の婚約者とは名ばかり、逃げ癖と無能なせいで妃教育ができないとして、登城命令も途絶えて久しいわ。自他共に認める無知、最高!

 ああ、でも婚約が決まった時に1度だけ招集には素直に応じたのよ。最初からこうではなかったの。一応公女だし、当時は代わりになりそうな従妹で義妹もまだ出現していなかったもの。

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