【太夫、傾国の娼妓(やり手爺)ときて今世悪妃とは、これ如何に?】第51話

「特に私、他の貴妃や嬪に喧嘩を売っております。誰かさんの純愛とやらの為に」
「ふぐっ」

 食らえ罪悪感、とばかりに言葉を続けます。

「少なくとも盾にするか、何かの異常に警告を発するできる護衛は、今この時からでも必要なのです。陛下もここに居続けたり、逆にここを出てすぐに私が襲われ、話せぬ仏になれば困るのでは? せっかく最愛の妻を引き留める光が差したのですよ?」
「ふぐっ……腹黒い小娘め。どうあっても、その者を手中に収めると言いたいのか」

 腹黒とは失礼な。自分の価値を高めた上で欲しい物をおねだりするのは、駆け引きというのです。

 丞相はにこやかに幼馴染の顔を眺めて成り行きを見守るようです。

「ええ。とはいえ、中途半端な情と後ろめたさから、陛下がお持ちの兵や駒を寄越そうとはなさらないで下さいね」
「ぐっ」
「図星でしたか。釘を刺して正解ですね。これでも不特定多数への餌です。完璧な護りでは、この者のような素敵な駒を得る事は無かったでしょう」
「わざと隙を作って誘い出すと?」
「ええ。しかし何より問題なのは、今朝拝見した陛下と皇貴妃、それぞれのお付きの方々です。半数の者達が信を置くに値しない、私欲の光を目に宿らせておりましたね。寄越して頂くのは構いません。しかし私の手の者が、こちらに来てからにして下さい。大方、四公の方々が推薦した者達も混ざってらしたのでしょう?」
「ふぐっ……政とはそのような家門同士の繋がりや謀りなくして進まんものだ」
「何をキリッとした顔でそれらしい事を仰っているのです。皇貴妃のお付きの者との摩擦を、無駄に助長してらっしゃっているではありませんか。故にそうした者も排除しようとお考えなのでしょうに」
「ふぐっ……何故あのひと時でそこまで……」
「人は怒れる時こそ、本性が出るものです。しかし気に入らぬ者が苦境に立つのを間近にした時にも出るものですよ」
「ふぐっ……もう何も言えぬ……」
 ふぅ。項垂れた陛下に、幾らか溜飲が下がりました。

「良い顔になりましたね」

 良い顔とは、陛下と私のどちらに向けた言葉なのでしょう?

「それで、貴女の言う四神相応の地とは?」「四神相応の地とは、背に山を、左手に水流を、右手に通りを、目の前に澄んだ池を持ってくるのが基本です。そしてそれぞれの四神の司る意味もなぞらえます。玄武は始まりであり山。山から川が流れて龍が宿ります。山の木を切り倒して道を拓き、人が行き来する事で金が循環して白虎が凶を抑える。正面の池に良質な気を宿らせて鳳凰を呼び、それら四神に力を漲らせる事により、中央に富を還元する。それにより時に中央には麒麟や黄竜が宿り、子々孫々反映をもたらします。少しばかり噛み砕いておりますし、細かな意味は色々ございますが、ざっくりそんな感じです」

 殿方二人の感心した顔から、やはりこの話は伝わっていないと確信します。

「しかしこの後宮は既に始まりの玄武からして機能しておりません。更に言うなら、この北の宮は皇城全体で捉えた時、ほぼ中央に位置します。麒麟も黄竜も後宮と皇城のどちらにも招けません。それ故に城の内側は荒廃していくでしょう」

 今度は難しいお顔になりましたね。心当たりがあるようです。

「ですから宮を1つ廃宮するなら、貴妃を配置転換して西の主を北に移し、それから西の宮を壊して更地にすべきだったのです。更地にして通路にでもすれば、嫌でも人はそこを通りますからね」
「貴女は何故金の延べ棒を使っていたのです?」
「破落戸達の、どすこい共演の時のお話でしょうか? あの場所、実は少し前に子猫についた泥んこ情念汚れを洗い流した場所でした。立ち入らないよう石で囲っておりましたが、あの破落戸達には見えていなかったようです。面倒ですしほぼ勘の為、経緯は割愛しますが、子猫は西の宮で生まれたと見受けます。白虎は金気を持ちますし、西で生じた子猫の泥んこ情念汚れです。試しに金の延べ棒で叩いて、正気を取り戻せば良いなと思っただけですよ」
「泥んこ情念……」

 何か言いたそうな顔で陛下は私を見ましたが、言ってやりたいのは私の方ですからね?

 子猫を水でベショベショにしたのは、五行相生を狙ったからですよ。

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