書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)30

『お義姉様ったら、淑女科をお断りされて平民の多い魔法具科に入ったんですってね? 残念ですけれど、無教養なのですからお断りされても仕方ありませんよね。でもせっかくお兄様から常々諭されている教養を身につける機会でしたのに。お兄様はお怒りですし、シュア様も呆れてらっしゃったわ』
『ふふふ、そうなのよ』
『あら、そろそろシュア様に誘われて入った生徒会役員の歓迎会だわ。お義姉様は気にしないで。無才無能過ぎて生徒会に入れないお義姉様に代わって、ふつつかながら私が全力でシュア様のサポートをするから』
『まあまあ、頑張ってね』
『ふん、余裕を見せられるのも今のうちよ!』

 あの子、言うだけ言うといつも通りにドアをバタンと勢いよく閉めて行ったのだけれど、そんなのでは私と逆の意味で淑女科の方からお断りされてしまうのではないかしら?

 お兄様はシエナの言う通り、もちろんお怒りだったわ。

『何故断った? 公女として学ぶ機会を自ら棒に振るとは。お前がすべき事は魔法具作りではないだろう』

 わざわざ淑女科を専攻するよう言いつけておいたのに、気を利かせてくれた教師に私が直接お断りをしたのだもの。そりゃ怒るわよね。

 でも今世は前々世に無かった魔法具科を専攻したかったのだもの。仕方ないじゃない?

 でも平民が多い魔法具作りそのものを否定はされなかったの。思っていたよりお叱りの言葉も大した威力がなくて、あの時は少し不思議だったわ。シエナのように平民てワードを出して責めると思っていたから。

 今にして思えば、私の表向きの魔力の少なさを魔法具でカバーしようとしていると勘違いしたのかもしれないわ。さっきも魔法の才能については何だか微妙なお顔で言葉を濁されたし、気の毒に思っていたのかしら? それで強く出られなかったとか?

 というわけで、私は魔法具科の人とグループを組んで研究に携わるわ。

 公女な上に現状ではまだ王子の婚約者である私は、平民ばかりのグループでももちろん浮いた存在なのが少し心配だけど。でも今世こそ4年かけて馴染むわ。実際はもう3年を切っているけれど。

「学園祭の売り上げや評価は、最終学年で修めなければならないクラス全体の卒業研究に割り振られる研究資金にも影響を与える。これはキャスちゃんも知っているわね?」
「昔からの伝統だね。ベルジャンヌの時の上の学年のDクラスが確か空前絶後の補助金0になったんだっけ?」
「そうよ。あの時の彼らは運が悪すぎたわ」

 過去のDクラスではそんな事もあったから怖いわよね。

 根本的な回避方法の1つは個人が学力を底上げして上のクラスになる方法かしら。DクラスとCクラスではあらゆる状況が全く違うわ。だってDクラスは学園内ではヒエラルキーの最下位。最下位がいるからこそ上位は特権階級的な身分に相応しい扱いを受けられるの。ある意味Dクラスはスケープゴートね。

 とはいえ勉学にだけ励める人が少ないのがDクラスの学生が抱える現実だから、抜け出すのも難しいわ。

 生家を何かしら手伝っていたり、お金が必要で学生冒険者としてそこそこ本気のアルバイトをしていたり、とある理由で奉仕活動を余儀なくされる人がとにかく多いもの。

 稀に次の学年でCクラスになる人もいるのよ。でもついていけなくなって、結局翌年にはまたDクラスに舞い戻る人ばかり。それなら最初からDクラスにいる方がマシだと更に学業に身が入らない悪循環もこのクラスにはあるのよね。

「Dクラスは他のクラスからすれば学力の弱い労働階級扱いなのだけれど、そもそも彼らの抱える諸事情が学園の基本理念にそぐわないのだからどうしようもないのよ」
「義務教育にするならそこを考えればいいのにね」
「王立だから国の身分制度が強く影響されがちなのは否めないわね」 

 キャスちゃんの言葉につい苦笑してしまうわ。

 まあそれでね、学園祭の為に早くから自分達の肉体労働で何かしらを補填する必要が補助金が少ない1年Dクラスにはあるの。

 そこで【綿花をタダでゲット&卒業研究の準備もしよう作戦】よ。

 目をつけたのは昨年度卒業した当時の4年Dクラス。塩害地域の下級貴族を中心に卒業研究をしていたの。土壌をどう塩抜きして塩害対策をするのかがテーマだったわ。

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