書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)5

「そうそう、アッシェ家」

 忘れていたわ。四公の内、残るアッシェ家はどうなのか。

 当時の王妃の生家である為に、その血筋と王家がそれ以上の縁を持つ事はなかったの。

 当時の王妃は血が繋がらない亡き平民の側室が産んだ娘であったとはいえ、王女を育んだ者としての責任の重さを痛感したのですって。

 そしてただ1人の世継ぎだった王太子の惨状。その心痛が重なって早々に蟄居したらしいわ。自らを咎人として城の奥にあった王女とその母が過ごしていた離宮で晩年を過ごし、その時の代のアッシェ家当主も早々に次へ代を譲ったわ。

 そうして四公の次世代、つまり今世の私の祖父母世代ね。彼らは現在の王、つまり私の両親世代が育って当主を代替わりするまで、それはそれは親身に王家に尽くしたようよ。

 現王は学園の最終学年中の19才という若さで即位し、父王と先々代の祖父王は名実共に蟄居。その数年後、執政が彼の代で上手く機能するのを見届けたかのようにそれぞれ没した。

 何て素晴らしいお話かしらね。

「ふふふ、事実は小説より奇なりね」

 真実は違うわ。私こそがその証人。

 でも良いの。今なお悪の権化のように語り継がれる前々世ベルジャンヌだった私は、前世で心から癒やされたもの。

 そう、私には王女と公女の間にもう1つ生きた人生記憶があるの。

 色々ハードモードな一生で刺激が過ぎた前々世の人生の最期に願ったのは、穏やかな来世。

 死ぬ直前に契約していた聖獣に魂を抜き取らせ、運に任せて輪廻の輪に滑りこんで自分を転生させたわ。

 次の生が産まれたのは異世界。全くの予想外。地球と呼ばれる星の日本という国。

 前世王女だった事を思い出したのは普通に物心つく頃だったけれど、魔法の無い世界なのに科学や技術が進んでて、不便どころか便利過ぎて愕然としたのが懐かしいわ。

 両親からは普通に一般的愛情を注がれてぬくぬく育ったの。そのままJS、JC、JK、JDと学生生活をエンジョイ。もちろん女子小・中・高・大学生の略よ。久々に使いたくなっちゃった。

 JD卒業後は普通に就職して独身貴族を謳歌した後、マッチングアプリで性格の合いそうな男性を適当に見つけて結婚。32才くらいだったかしらね。

 前世では政略結婚なんて当たり前の世界で過ごしていたからか、惚れた腫れたは特に感じる事もなく、あくまで性格の相性を重視したセルフ政略結婚だったと思うの。

 少し味気ないのかしら?

 でもお陰で大きな波風もない新婚生活を経て、37才までに女児1人と双子の男児を出産したんだから悪くない選択よ。

 まあその後なんやかんやありつつも、振り返れば思いのほか穏やかな生活を過ごし、夫と数年の差で最期は孫や曾孫にも囲まれて一生を終えたわ。享年86才。当時の平均寿命くらいよね。

 今思えば来世、つまり今世へのインターバル期間だったのかと思うほどにただ愛を受け、怯える事なく心からの愛を誰かに与える事のできる穏やかな一生。

 何だかんだで色々と傷つきまくってギッスギスのトゲトゲ王女として短い一生を終えた魂は、すっかり癒やされてしまったわ。

「けれど元お婆さんは思うのよ?何も再び前世、あら、違うわ。前々世の王女だった自分を稀代の悪女呼ばわりするこの世界に戻って自分の元婚約者の孫やら、あれこれを押しつけた人達の身近な場所に転生しなくても良かったんじゃないのかしらって。
「あら、うっかり独り言」

 年を取るってやあね。ついお口が緩んでしまったわ。まあ今世はまだ16才なのだけれど。

 しかも今世は公女となった挙げ句に最期はそれまでの腹いせ含めてボロクソ、ごほん、完膚無きまでに叩きのめした前々世の異母兄の孫(第2王子)の婚約者だなんて。

 それに王子は魔法を使えない、頭の悪い、無才無能で嫌な事からは逃走するのを良しとして義妹を虐めているらしい婚約者を心から毛嫌いしているわ。

 あらあら?

 義妹を虐める云々はさておき、それ以外は当然といえば当然ね? それに彼は腐っても出自は責任ある王子だったわ? 2番目だけど。

 従妹で義妹も本来は庶子なのだけれど、伯父様があの元婚約者の息子だったからかしら。

 外見と学力はなかなか、魔力と魔法はそこそこ、中身はダメ子、合わせて割ればレベルは四公とはいかないまでも高位貴族並み程度の実力を持つロブール公爵家の養女シエナ。

 彼女と私との婚約者差し替えを申し出ているのも、まあ頷けるわ。

※※後書き※※
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こちらの作品は数年前に思いつくがまま、他サイトに投稿し、運良くカドカワBOOKSの編集者様に拾われた作品です。↓

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