書籍化・WEB版【稀代の悪女、三度目の人生で……】(一章)53〜ミハイルside

「報告書では離れで反省しろとお前に言われてからずっと使用人もつけずに小屋で1人暮らしをしていると……」
「は?! 暮らしている?! 1人暮らしって何だ?!」

 予想外の報告にこの部屋に来て1番の大声を出してしまった。

 そもそもがお祖母様が息抜きに使う為に使っていたあの離れと呼ぶ小屋は俺がそこで過ごせと言った時点でかなり古い。

 せいぜい1週間程度で邸の方へ戻っていると思いこんでいた。

 謹慎を命じて以降、邸で顔を合わせないのも俺が父の領主や当主としての引き継ぎを始めて忙しくしているせいだと、そもそも俺との時間が合わないし、何より広い邸だ。妹も俺や母と無闇に顔を合わせないよう避けて生活していれば、そんなものだと思っていた。

 使用人達に時々様子は尋ねていたが、誰もが変わりなく過ごしていると言っていたし、学園や月に1度の夕食会では特に変わりも無さそうだった。

「やはり知らなかったのか。私も流石に驚いた。もう、色々と……」

 何となくその色々に引っかかりを覚える。何とも言えないような顔をしているが、何だか嫌な予感しかしない。

「色々、とは? その報告書、今から見る事はできるか?」

 王子はしばし考えてから机の中から報告書らしき紙の束を差し出した。


「お前は側近、いや、側近候補ではないし、申し訳ないが他言無用の上でここで読むに留めておいて欲しい」
「無論だ」

 そう言いながらも、数日前と比べて憑き物が落ちた様子に少々驚きながら書類を受け取る。

 側近と側近候補の違いを認識した?

 何があったのか気にはなりつつも、今は報告書を優先しようとすぐそこのソファに腰かけて目を通す。

 ……愕然とした。

【邸には月に1度の家族の集まりの際に入るのみ。それ以外の平素は離れでくらし、自ら料理や身支度をしている。食材は懇意にする料理長や使用人から時折差し入れを貰う以外、野山で自ら山菜や茸を摘み、獣を狩っている。通りがかりの冒険者に捌き方や罠の張り方を教わった模様。自給自足生活を楽しんでいる】

 何だ、この報告書。2度見した。

 これ、うちの妹の報告書だよな?! どこぞの遊牧民族の生活じゃなかったよな?!

 何故影に食べられる野草とか聞いている?! 影も教えるな! 喜んでくれました、とか感想つけるな!

 ……うちの妹が逞し過ぎる。

 服を使用人達から譲って貰うって何だ?! 使用人伝手に広げた街の知り合いって、平民だろう?! 物々交換やら店番して譲って貰うって、妹が着ている服か?!

 だがデザインは最新の物が多く、シエナの服と比べても遜色は無かった。

 この学園には他国の学園のような制服はない。ただし絹等1級扱いの上等素材以外を使った生地で、色は黒、濃紺、濃灰色、白のみで構成されたものと決まっている。

 例外は入学・卒業式、予め学園が認めた式典の場でのみドレスコードが別に指定される。

 だから公女も下級貴族や富裕層の平民も服の生地は大体が似たような等級になる。

 細かく言えば男子はブレザー、詰襟服、襟付きシャツに長ズボン以外は認めない。

 女子は上の服は襟付きの物、ワンピースやスカートは裾が大きく広がらず、長さはくるぶしから膝丈まで。

 男女共に学生に相応しく、華美にならず、ドレスのように鎖骨や二の腕等を露出しないものが条件で、靴に大きな規定はないが、ヒールが高くなく、動きやすいものとしている。

 違いはデザインくらいだ。

 女子と一部の男子に人気なのは、確か月影とかいうデザイナーがデザインする服だ。

 確か昨年度の4年生と1年生の合同研究と1年生の学園祭の売り物のシュシュに関わっていた。誰かからの知り合いの伝手らしいが、誰の伝手だったかはわからないように秘匿されていた。

 月影自身が表に出るのを良しとせず、専属契約する名うての商会に囲われているから、それも仕方ないのだろう。

 その商会から月影がデザインするドレスやタキシードを購入した学生だけに、学園向けの服を売ってくれるらしい。

 他にも月影が専属契約している商会が最新の庶民向け服を売り始めてから、そのデザインの一部を専属のお針子に真似させる貴族もいるとか。

 ある意味庶民からの流行の発信となる。

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