1993年 しゃかりきに働いていたら突然の電話
父の事
この年の1月に父が他界しました。
会社の事を書く本なのに、あまり私的な事を書くのはどうかと思うのですが、この時は社員が2人だけで、2人は姉妹だったので、やはり、会社としてもとても大きな出来事だったのです。
しょうもなくも、えげつない姉妹喧嘩が少し減りました。そして何かがここで確実に変わった気がします。それに父は、私達が会社を立ち上げたことをおもしろがっていたので、この後も、あの世から、いろいろ根回しして助けてくれているみたいです。
あの頃はたいへんじゃった
こういう悲しみはどうしようもありません。とにかく仕事をいっぱいしました。社員2人が2人ともそんな状態なので、しゃかりきの二乗です。
お店を回って御用聞きをして、商品の発注をもらって商品をつくる。巾着やアクセサリーなどは発注をもらってからつくり出すので、たくさん注文をもらえると嬉しい反面、きゃー、たいへん、な気持ちになりました。
ポストカード、レターセットなどの袋詰めもバカにできません。何百枚何千枚とPP袋に入れていきます。FMラジオを流しながら無言で単純作業をこなしていきます。
会社に泊まりこむ事もしばしばでした。部屋のすみにたてかけてあるマットレスを倒し、ふろしきに包んであるふとんを引っぱり出してきて仮眠をとりました。変な事務所です。
出来た商品は東京等遠方は宅配便で、大阪市内だと直に持って行きました。ロフトの商品は納品センターという倉庫に持っていくのですが、1回の商品量も増えてきて大きなダンボールにいっぱいという時もありました。これを担いで行くのです。地下鉄、JRを乗り継いで(アランジ号は大阪市内の駐車場代が高いため田舎で待機)。あんまり重いので、電信柱ごとに荷物を置いて。「山岳部か何かの訓練みたいだなー」と空をあおぎながら納品していました。
この時期の事を書くと、どうしても年寄りの苦労話になってしまいます。
たまちゃんひよちゃん
父の誕生日にその電話が鳴りました。福武書店(現ベネッセ)の人からで、新しい雑誌のキャラクターを描いてみてくれないか、というお話でした。カッパのポストカードを見て(こんなこともあろうかとカードの裏には全て電話番号を印刷してあった)気に入ってくれたらしいのです。電話をくれた女の人はなんだかとてもパワフルで感じのいい人でした。
「すごいねー」「すごいねー」と、まだ採用されてもいないのに社内(2人のみ)騒然です。
はりきってキャラクターづくりを始めました。どうやったらいいのかわからないので、とにかくベストをつくせ!です。一所懸命丁寧に仕上げました。が、子供の描いたらくがきのようです。大丈夫かな。ときどきわざと下手っぽく描いていると思われたりしますが、精一杯きれいに仕上げようとしてもああなります。
とにかく、たまちゃんとひよちゃんはめでたく採用になりました。突然の電話でつながった縁でした。
『たまごクラブ』『ひよこクラブ』は好調に売れて、本屋さんや、テレビCMでひよちゃんたちを見かけるのは嬉しくて不思議な感じがしました。
鴨ねぎ
東京の卸し先に都内に何店鋪か雑貨屋をチェーン展開している会社がありました。
店員の女の子がアランジの商品を気に入ってくれてお取り引きが始まりました。店員の女の子は、みんな親切でかわいい人達で、「よいお店だなぁ」と思っていました。ひとつ気になるのがそこの会社の上司の男の人達です。上司といっても若くて多分20代だと思うのですが……軽いのです。「わっかりましたー」 東京の人はみんなこんなしゃべりかたなんだろうか? 不安になります。
最初しぶしぶといった感じで仕入れてくれていたのですが、結構売れるとわかると「もーっと、商品つくりませーん? 売っれますよー」「ライターとかミラーとかつくるところ紹介しますよー」。軽いだけで別に悪い人ではなさそうなので、お願いしてみることにしました。が、軽い上に悪い人達だったのです。
ある日、東京の知らない雑貨屋さんに入ると、おやおや、アランジのライターが。そうです、不正に商品をたくさんつくって、勝手に他の雑貨屋に卸してたのでした。つまり私達は騙されたのです。当然ですが腹がたちました。頭に血がのぼります。
その会社のお店に行ってみました、明らかに納品した数よりも多いライターがそこに並んでいました。「なーんだ、いい人だと思ってたお店の女の子もグルだったんだ」。当然ですがショックでした。顔面蒼白です。店を出るとすぐ、本社に電話をかけました。平静を装いつつも怒りで震える声で。「今からそっちへ行く」。私達がいってもあまり怖くありません。ああ、こんな時私達にやくざの叔父さんがいたら、と思います。
もう、夜の9時を回っていました。会社のシャッターの前で、中から人が出てくるのを武者震いしつつ待っていました。シャッターをにぎりこぶしでドンドン叩きたかったのですが、あまりに芝居がかってる気がしてそれはやめました。
商品を全て引き上げ、不正につくった分の書類を提出してもらい、正当なロイヤリティを請求。こんなことはもうしませんという念書をとって、一切の取り引きを停止しました。
今思うとそんなに悪い人達だった訳ではなく、私達の用心が足りなかったんだなぁと思います。騙される事がある、という考えがまるで念頭になかったのです。契約書やその都度の確認がてきとーにおまかせでした。騙されないように用心するのも礼儀なのかもと思うのでした。
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