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テレビに生きた男 ~追悼:飯島敏宏監督~

 『ウルトラマン』で知られるTV監督・飯島敏宏氏が17日に他界された。

 つい先日も、ウルトラシリーズ及び特撮繋がりではイデ隊員の二瓶正也氏が亡くなられたばかり。特撮を支えた方々が次々と鬼籍に入り、どんどん昭和が遠くなっていくと感じるのは寂しい限りだ。

 訃報を伝える新聞記事では「バルタン星人の生みの親」とある。実際にバルタン初登場の回「侵略者を撃て」の監督は飯島氏で、脚本の「千足北男」も飯島監督のペンネーム。つまりあの回は丸々飯島監督の作品だとしても過言ではない。

 監督曰く「バルタン星人は今よりも科学や経済が発達した人類の未来の姿を映した反面教師である」。初登場時の設定では、母星が狂った科学者の核実験によって壊滅し、たまたま宇宙旅行中で難を逃れた一行(総勢20億3千万)が地球への移住を求める……という悲劇的な面がある。しかし結果として彼らの行動は武力行使と同じになり、地球側からすればサブタイトル通り「侵略者を撃て」状態になってしまったのは皮肉だ。
 その後彼らの残党が再度地球を、いやウルトラマンと科特隊に復讐するが如く侵略行為をすすめる『科特隊宇宙へ』もやはり脚本・監督は飯島氏である。それだけ思い入れが強かったのだろう。

 もっとも設定事態は『地球防衛軍』(1957年)のミステリアンと類似してるが、バルタン星人の分身能力、人間の頭脳を介してコンタクト、生命という概念が理解できないといった設定は実に不思議でかつ神秘的である。それらを恐怖感たっぷりに描き、人間と全く違う姿形をしながら、我々に勝るとも劣らぬ知能を持つ策略家だと認識させる演出は飯島監督の腕だろう。
 加えて「侵略者を撃て」は、眼の周りにアザが出来たイデ隊員が
「なぜこんなになったか、君にだけ教えてあげよう。おっと友達には内緒だぜ?」
 と冒頭で視聴者側に語りかけ、随所にコミカル要素を挟み込む回想形式をとっていた。この回は放送第2話だが製作順だと第1話で、つまり飯島監督は本格巨大特撮ヒーローの第一歩を任されたのだが、そのプレッシャーを跳ね除け恐怖とコミカルを両立させてしまうエピソードを作った、と考えればその素晴らしさも伝わると思う。

 一方で劇場用映画の作品は少ない。銀幕デビューとなった『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』は設定や登場人物の面白さはあれど、発明おじさんのハッスルぶり等々はやや外した感がある。心温まる怪獣映画を作りたい意図は伝わるが、挟み込まれるギャグはドタバタ要素が強すぎて逆に笑えず、特撮を駆使した劇場用映画として肩の力が入りすぎたのでは? と思えてしまった。決して駄目な映画ではないゆえ、勿体ない作品である。
 監督自身も「ゴジラには勝った」と自負していたが、同時上映だった宮崎駿原案・高畑勲監督のアニメ映画『パンダコパンダ』に驚愕したという。氏が再び映画のメガホンを撮ったのは21世紀に入ってからだった。何か思うところがあったのか、今となっては分からない。

 それでもテレビが「電気紙芝居」と格下に見られていた時代から第一線で活動を始め、やがてTV特撮界、いや日本の映像技術史に歴史を残す作品を生み出し、ついにはメディアの中心となっていった業界で活躍し続けた功績は揺らぐことはないし高く評価されるべきだろう。
 とりわけTBSから木下プロに出向後、数々のドラマを時に演出もしつつプロデュースし続け、題名を聞けば「ああ、あの!」という作品を世に送り出し一大旋風を巻き起こしてきた。80年代の『金曜日の妻たちへ』や『毎度おさわがせします』は自分も再放送で観た記憶があり、後者は「そういえば、観ていてなんかドキドキしていた覚えがあるなぁ……」と思っていたが、内容を知って納得であった。企画が飯島敏宏氏だと知ったのはそれからずっと後、21世紀に入ってからだった。そんなところにまで飯島氏にハートを掴まされていたとは……

 最後にその姿をお見かけしたのは『チコちゃんに叱られる!』の「スペシウム光線はなぜこの形なの?」の解説者としてだった。作画合成の飯塚定雄氏と合わせての登場で、一特撮中年としては感涙モノの回である。監督がお元気だった……それだけでも嬉しかった。
 テレビ一筋に生きた演出家、そして企画者としての功労を称えつつ、改めて哀悼の意を述べたい。

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