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カンテレ奏者・あらひろこさん逝去

 いちガルパンおじさんとしては、あまりにも残念な訃報だった。なおヘッダー画像は北欧のお菓子・ラスキアイスプッラです。

 『ガールズ&パンツァー劇場版』では既存のキャラと戦車に加え、新キャラ及び新戦車を出してこれでもかこれでもかと戦車戦を描いた。全編120分のうち2/3くらいは戦車バトルという展開でありながらも、キャラクター同士の交信や戦車内でのやり取りを描くことで、それぞれの個性と活躍っぷりをしっかり見せてくれた。鑑賞後に
「ガルパンはいいぞ」
としか言えなくなる、まさに圧巻、そして奇跡の一本だった。

 そんな中で新キャラ(※ただしOVA版で存在は示唆されていた)である継続高校の面々は実に奇矯なポジションにいた。廃校撤回を掛けて結成された大洗連合チームにおいて、自走砲BT-42たった1台で応援に駆けつける。各高校が仲間同士でも連携する中で、ただ一人風来坊的な立ち位置におり、隊長・ミカが発する戦車道への意味深な台詞も相まってか、何とも不思議な雰囲気を持っていたのである。
 その雰囲気作りに一役買っていたのはやはりミカの持っていた楽器・カンテレだろう。大洗連合チームは「廃校撤回」という重い使命を負った中、大学選抜チームの隠し玉ともいえる兵器で劣勢に追い込まれるも、ミカ達は
「彼等の決断を信じよう」
と自らが演奏するカンテレをBGMにして反撃を開始する。その際に演奏されたのはフィンランド民謡『Säkkijärven polkka』であった。

 第二次大戦中における「継続戦争」において、フィンランド軍はソ連軍相手に奮戦するも、一都市・サッキヤルヴィを奪われてしまう。その街への想いを、古くから伝わる民謡に乗せて歌い上げたのがこの曲である。
 軽快な演奏と共にBT-42が大地を駆り、次々と相手戦車を撃破するさまは実に痛快であり、また曲自体も映画のテーマである「廃校撤回=母校を取り戻す」とのダブルミーニングも相まって、本編でも屈指の名シーンと相成った。かつて尼崎・塚口サンサン劇場で開催された「マサラ上映(※クラッカー等も使用可能のド派手な応援上映)」でも、ここが反撃の口火となる場面だけあってか、カンテレの音色に合わせて手拍子や歓声が響き、たいそう盛り上がったものである。

 そんなこともあってか、『Säkkijärven polkka』及び楽器のカンテレは、日本においてたちまち知名度が上がった。公開された翌年あたりにはコミケで「カンテレ演奏本」なる同人誌まで頒布されるほどだ。ただし現地だと楽器で演奏する際はアコーディオンを用いることが多く、フィンランドの伝統楽器・カンテレで弾く場合はここまでアップテンポにはしていないという。
 あらひろこさんはそれをリズミカルに、かつ「故郷を取り戻したい」という願いも込められた曲を、かくも美しく軽快に演奏してみせた。奏者としてのテクニックはもちろんだが、ただ技巧的なだけではあのような支持は得ていなかっただろう。何より兼ねでる音色の良さもあったはずだ。

 2018年には大洗町の町民センターであらひろこさんのカンテレコンサートが開催された。キャラ生誕祭との同日開催だったが、それでも2回公演というのは異例だったろう。その後も商店街でたびたびミニコンサートが実施され、大洗でもおなじみの演奏家として知られるようになっていた。それゆえ、現地でもその急逝を惜しむ声は絶えない。

 『ガールズ&パンツァー 最終章』では大洗女子が準決勝でその継続高校と戦うこととなり、第三章ではその行方が全く予想も付かなくなる展開で幕を閉じた。試合はまだ序盤であり、さらに激戦が予想されるとなれば、当然BGMとしてあらひろこさんによるカンテレの音色が再び映画館に響くものと思っていたが……正直なところ、本当に残念である。

 改めて調べたところ、実は2017年に卵巣ガンが発覚していたそうだ。手術は成功したが、その後も闘病生活は続いていたのだろう。

 御本人も、まさか一本のアニメ作品に携わったおかげで、自らがその音色に魅了された楽器とともに注目されるとは思ってもいなかったはずだ。

 作品世界を彩ってくれたあらさんに改めて感謝すると共に、そのご冥福をお祈りしたい。


(2023/10/06追記)

 最終章・第四話を鑑賞した。
 劇中では、やはりカンテレの調べがあった。
 そしてエンドクレジットには

「カンテレ演奏 あらひろこ」と。
 
 既に収録を終えていたようだ。
 あらさんが最後に残した音色と旋律は、大迫力の映像と共にありました。
 本当に、ありがとうございました。どうか安らかに。

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