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松平ケメ子から「アングラな音楽たち」を改めて辿ってみた。

 2/24の「伊集院光とらじおと」でOAされたアレコード。1曲目の「その時わたしはTAXIを止めた/天馬ルミ子」は年間大賞候補曲クラスで実に良かったが、4曲目の「問題はネ、ハートだよ/松平ケメ子」に思わず

「あれ、この曲って確か……?」

 そして所持CDの山から引っ張り出した一枚が、コレ。

 この17曲目に収録された「僕も男の子/本間正彦とアイドラーズ」の曲解説には、

後者(筆者注※僕も男の子)は松平ケメ子のシングル「問題はネ、ハートだよ」(68年7月)とほとんど同じ曲である。

 と記されている。なお発売はアイドラーズ版が2ヶ月ほど早い。大昔に買ったCDの解説書にある一文を、10ウン年経って元号も変わった今になって思い出すとはね……

 なら「問題はネ、ハートだよ」は「僕も男の子」のカバー曲かというとさにあらず。テーマはどちらも「問題はハート」だが、ケメ子版は女子の視点で「見た目が何さ、もっと自身を持って!肝心なのはハートよ!」とパンチを効かせてるのに対し、アイドラーズ版は男子の視点で「さえない僕だけど、ハートは熱いんだよ」とホンワカした曲調で、全く対照的だ。

 で、調べてみたらケメ子版は前年にリリースされたヘンリー・ドレナンちっちゃな胸の女の子」を改題して楽曲提供されたもの。つまりこちらが正規のカバーで、アイドラーズ版はドレナンのメロディーを元にして内容をまるっと変えた曲だったのだ。2ヶ月後にケメ子版がリリースされたのは偶然なのだろう。
 ヘンリー・ドレナンといえば谷啓が歌った「ヘンチョコリンなヘンテコリンな娘」の作者。「ヘンテコリンでも心がステキならボクは構わない」てな歌だ。その流れを汲んだ曲なわけですな。

改めて「アングラ・カーニバル」を聴いてみる。

 話をアングラ・ソングの方に戻そう。

 CDの解説を参考にまとめると、1967年の末(12/25)に発売された「帰って来たヨッパライ」の影響で、翌年には音楽業界にアングラ・ソング=テープ速回しを使用したコミック・ソングブームが巻き起こったとか。実際68年の1~2月にかけてそんなアレンジが加えられた「ケメ子の歌」と「受験生ブルース」がヒットを飛ばしたうえ、GSブームのピークも同年とされているので、そういった楽曲も出てくる土壌が出来てたのだろう。

 この「アングラ・カーニバル」はテイチク(現・テイチクエンタテインメント)がユニオンレコードのレーベルで発売した同名のアルバム盤収録の12曲に加え、ケメ子や受験生に影響を受けて作られた楽曲を出来る限り集めたコンピレーションCDだ。

 ……そのブームの影響は非常に強かったらしく、本来は至って普通な歌謡曲やGSサウンドを、速回しや遅回し等々のアレンジを加えて無理矢理アングラソングに仕立てられた作品もある。
 例えば18曲目の「好きだったペチャ子/ザ・イーグルス」は本来24曲目に収録された同グループの「あの日の恋」(※未発表曲)をアングラ風にしたもの。原曲が正統派GSなだけに「それっぽくすれば何でもええんかい!」とツッコミたくなる点も、本CDの珍盤ぶりに輪をかけている。

 一方で、先に挙げた「僕も男の子」とは真逆の女性感を描いた「女の子は強い」、さらにそんな女子とはハナから勝負しない人生を選んだどうしても女に勝てなかった悲しい男の唄」あたりはちゃんとしたコミックソングだ。昨今言われる男女同権とは別物の「おしとやか?そんなの蹴っ飛ばしてやる!」てな勢いが女子にあったのかな、と想像してしまう。

 そういえば女子の理想で「家付きカー付きババア抜き」てな言葉が産まれたのもこの頃だが、対して「親が天国行くにはまだ早い」と冷めた感じで返したり、勉強や花嫁修行をしろと言われても「何事も見解の相違でございます」とスルーする「昭和二世」もなかなか面白い。

 受験をテーマにした曲も、きっかけとなった「受験生ブルース」の〆が「こんなのばっかり歌ってたら来年は『浪人のブルース』を歌ってるだろう」だった影響か、歌が始まった時点で既に浪人なものが多い。しかも一浪どころか二浪目に突入してたり、悲壮感たっぷりな曲や開き直ったようなモノまで。自分も浪人経験あるので苦労は分かるが、ここまで来るとなw

 そしてアングラ・ソングは変な方向に行き始める。先に紹介した「僕も男の子」はB面曲(曲解説の”後者”もそのため)で、A面は『タコにゃ骨がない』という、タコの妻が戦死した夫の遺骨を待つ(でも骨がないから帰ってこない)というナンセンスな一曲。

 極め付けが「サイケ・カッポレ/ザ・レンチャーズ」。作詞は何とあの川内康範だが、前奏・間奏・後奏部に入る「富士山に現れた怪獣親子が原爆攻撃に喜んでたら、空気が何かヤバくなってきてテンションダダ下がり」という不思議な寸劇は誰が考えたのやら。まさかここも康範先生じゃないですよね……?

 こうしてナンセンスな方向にいったアングラ・ブームは、きっかけとなったフォーク・クルセダーズの解散、フォークソングの台頭、そしてGSブームの沈静化によりあっという間に終焉の時を迎えたそうな。
 コミック・ソングの持つ「世の中を笑う・皮肉る」というスタイルもフォークとの相性が良かったせいか、わざわざアングラ化する必要も無くなったのだろう。乱獲されて絶滅、あるいは肥料を撒きすぎて土地がダメになったような感じか。ブームってヤツはなぁ。

 せっかくだから、ヘンリー・ドレナンのオリジナル版「ちっちゃな胸の女の子」もラジオで紹介されてほしい。他のアングラ・ソング達も含めて。

 アングラ・ソングのレコード、略せば「アレコード」。ちょうどいい。


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