しゃべるピアノ|#完成された物語
その男は毎日のように路上でピアノ演奏のパフォーマンスをしていた。
彼の演奏はそれは素晴らしく、観客たちから毎回のように多くの投げ銭による収入を得ていた。
しかし、ある日のこと急に演奏が止まってしまった。
演奏中に話しかけた男がいたからだ。
「超科学研究所のオオタです。あなたのピアノがしゃべるとの連絡がありました。調査させてください」
―やめて!
我慢できずにピアノがしゃべった。
「本当にしゃべるとは! 50万円で譲ってくれませんか?」
―やめて! 懇願するピアノに、彼は言った。
「実は、今週までに親からの借金を返せなければ、音楽を辞めることになってて、すぐに金が必要なんだ。ごめんな」
すると、その様子を見ていた観客たちが、続々と投げ銭をし始めた。
「このピアノで音楽を続けてくれ!」
「元気をもらってます!」
「少しだけど……」
気付けば、50万円を優に超えた投げ銭が集まっていた。
◆
「犯行状況は、こんな感じね! オオタってのも彼が雇ってて、借金もウソって聞いたわ。人とピアノを騙すなんて最低ね!」
観客たちを騙し、投げ銭をさせた詐欺事件の重要参考人として取調べを受けたピアノは、黙秘を続ける彼がやったことを、警察に全部しゃべったのだった。
了
お読みいただき、ありがとうございました。
冒頭の企画に参加しています(再掲)!
実験的にやってみよう! というのが趣旨であり、皆さまにおかれても、余裕があるときに、気軽に書いていただければ幸いと存じます。
私としても、いつもとは違う頭の使い方で新鮮でした。前半が決まっていて整合性を取ることが難しかったです。また、字数がなかなか厳しい……。
私も、追って「お題」を投稿してみようと思いますので、こちらもお時間のあるときに、試しに書いていただければ、大変嬉しく思います。
必ず拝読いたします。
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