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三日坊主の経験から学んだ、「楽しさ」を糧にするものづくり|エンジニアインタビュー

「プログラミングは、絵が好きだった自分の筆の代わりになってくれました。PCと対話をしながらスケッチをすると、想像もしていなかった作品ができあがる。その偶発性が面白いんです」

物腰の柔らかさと、内に秘めた「いいモノづくり」への情熱を併せ持つ、クリエイティブデベロッパーの可児 亘さん。

仕事やプロジェクト以外にも、Daily Codingを通じて毎日のアウトプットを欠かさないといいます。その裏側には、過去に三日坊主になってしまった苦い経験と、継続するための工夫を身につけた過程がありました。

自分の“好き”を表現するツールとして、仕事・プライベート問わずプログラミングを楽しむ可児さんが実践する「いいモノづくり」を続けるための工夫について伺いました。

可児 亘(かに わたる)/クリエイティブデベロッパー
名古屋造形大学大学院 造形専攻修了後、2016年にアクアリングへ入社。
学生時代にメディアアート/インタラクティブアート作品の制作に打ち込み、その経験を生かしてインタラクティブコンテンツやWebサイトの構築に携わる。


自分も他の人に負けない武器が欲しい。プログラミングとの出会い

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──まず最初に可児さんがプログラミングを始めたきっかけを教えてください。

大学2年生のとき、先輩がTwitterでシェアしていた初心者向けのプログラミング記事をたまたま見かけて、何気なくアクセスしたのがきっかけです。

簡単なシューティングゲームが作れる内容で、試しに上からなぞってコードを書いてみたら「ああ、面白いなこれ!」って、ゲーム感覚でハマっていきました。

──具体的にどんなところに惹かれたのでしょうか?

自分で書いたコードが、絵として出てくるのが面白かったんだと思います。一般的なプログラミングの入門編って、テキストの入力・出力しかできないものがほとんどですが、たまたまやってみたそのプログラミングはコードを書いたら即実行され、グラフィックとして出てくるものだったんです。

──なるほど。グラフィックに魅力を感じたのは、美術・芸術系の大学に通っていた可児さんならではの感覚かもしれないですね。

そうですね。昔から絵を描くことは好きでしたが、大学には自分より絵が上手い人はたくさんいて、得意分野を失ったような挫折感がありました。自分も他の人に負けない武器が欲しい。そう思っていた頃に出会ったプログラミングは、“自分の筆の代わり”になるような感覚でしたね。

学部2年生の後期からは、コース内の制作ユニット『スイッチ』に所属して、作品制作と展示に明け暮れる日々を送ります。ゼミでは、メディアアート・インターフェイスデザインを研究し、大学院でもメディアアート・インタラクティブアートの作品制作に打ち込みました。


──アクアリングに入社後は、どのようなプロジェクトに携わってきたのでしょうか?

学生時代の経験を活かし、Webサイトの構築からWeb以外のインタラクティブコンテンツ(デジタルサイネージやインスタレーション)まで、いろいろなプロジェクトに携わってきました。

例えば、新しいクライミング体験を提供するデジタルコンテンツ『WONDERWALL』。クライミングウォールにプロジェクションマッピングとセンサーを組み合わせ、ゲーム感覚でクライミングを楽しめるコンテンツです。ありがたいことに『グッドデザイン賞』『The Webby Award』も受賞しました。


毎日のアウトプットをプレッシャーなく続けるための工夫

──社内ではクリエイティブデベロッパーとして活躍する可児さんですが、個人でDaily Codingも取り組んでいますよね?

はい。p5.jsというJavaScriptライブラリを使ってスケッチを書き、OpenProcessing というサイトに投稿しています。日記のような感覚で、季節・イベントをテーマにしたスケッチや、純粋に表現の探求として描いているスケッチもあり、さまざまです。

──そもそもDaily Codingを始めたきっかけは何だったのでしょう?

2020年度から2021年度まで母校(名古屋造形大学)の非常勤講師を勤め、1年生向けのプログラミング基礎の授業を担当していたのですが、そこで授業課題の作例を作っているうちにだんだん楽しくなってきて。気がついたら毎日コードを書くようになっていました。

Daily Coding自体は2021年10月から始め、今では投稿数も180を超えてきましたね。

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──作例づくりのために始めたDaily Codingも、気づけば毎日の習慣となっているのですね。とはいえ毎日アウトプットを続けるのは、なかなか難しいと思うんです。習慣化できず、途中でやめてしまったり......。そういった経験はなかったのでしょうか?

ありますよ!今回のDaily Codingは続いていますが、社会人になりたての頃は毎日アウトプットをしようと思っても仕事が忙しかったり、制作意欲が湧かなかったり、三日坊主になってしまった苦い経験があります。

続けられないと自己嫌悪に陥って、「昨日もできなかった、今日もできなかった......」と自分で自分を追い詰めてしまっていました。

──そうだったのですね。

だからこそDaily Ccodingでは、毎日、新しいスケッチを投稿しよう!すごい作品を作ろう!と気負わずに「その日、自分がやりたい・楽しめる範囲でスケッチをしよう」と心がけています。

例えば、今日は疲れているから何も書きたくないな......。という日であれば、昨日投稿した作品のデザインを少し変えるだけでもいいと思うんです。1日で大きなものは作れなくてもいい。とにかく続けることを優先しよう。毎日、ゼロベースで考えなくていいとマイルールを設けることで精神的にもプレッシャーなく気楽に続けられるようになりました。

──なるほど。アウトプットの継続ができれば、「昨日もできた、今日もできた!」と、モチベーションも上がっていきそうですね。

そうですね。最近だと「麻の葉模様」をひとつのテーマにし、9日かけて9種類のスケッチを書きました。1日目にスケッチしたものから、部分的に色を変えたり、動きをつけてみたり。数字を一つ変えるだけで全くちがう形になるので、それくらいの規模感でも十分楽しめます。表現を分岐させて、いろいろな可能性を見いだせるのも面白いですね。

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麻の葉模様の展開で作成したスケッチ


──Daily Codingを通じて純粋にクリエイティブコーディングを楽しんでいることが伝わります。

手作業では生まれにくい偶発性を楽しめるところが、クリエイティブコーディングの魅力だと思います。普通のイラストは自分の手で描いたら終わりですが、プログラミングはPCというもう一人の作業者がいる。PCと対話するように作業できるのが面白いですね。自分が想像していない結果になったり、最初に作ろうとしていた方向性とはちがう作品ができあがることにワクワクします。


Daily Codingを続けることで、仕事・周囲への良い影響も

──継続的なアウトプットが、仕事・プロジェクトで活かされた経験はありますか?

基本的にDailyCodingはコーディングを楽しむことを優先しているので何かに活用することが主目的ではないのですが、日々のアウトプットをストックとして持っておくと、プロジェクトで「こういう表現がしたい」と言われたときに「昔書いたあのスケッチの実装が使えるな」と引き出しが増えました。

あとは普段から p5.js を触っているので、プロジェクトでプロトタイピングが必要になったときにスピード感を持ってできています。

──法則さえわかれば他のものへの応用もしやすいのでしょうか?

そうですね。Daily Codingで書いているライブラリは仕事のときと異なるので書き方は変わりますが、「この言語・ライブラリだったら、こうなる」と把握していれば、あとは同じ仕組みを作るだけなので再現可能です。

普段から書いていると手に馴染んでいる分、実装も早くできる。仕事でこんなに役に立つのか!と感動することもあります(笑)。

──可児さんのDaily Codingの取り組みが、今では社内にも広がっていて、メンバーを巻き込みWeekly Codingを始めたと伺いました。どういったきっかけがあったのでしょう?

もともと、2年くらい前にユニット※でWebGLの勉強会を行ったのですが、どうしてもその場限りになってしまって、なかなか身につかないことに悶々としていました。

現在、社内でCanvasやWebGL表現を実装できるエンジニアは多くないので、どうしたらできる人を増やせるか?と考えたとき、ちょうど自分がやっているDaily Codingをユニット内で提案してみたんです。そうしたらみんなも意欲的だったので、とりあえずやってみようと始めたのがきっかけでした。

※ユニット・・・同じ職種、または専門性を持ったメンバーで編成された少人数のチーム

──なるほど。「CanvasやWebGL表現ができるエンジニアを増やす」ことを目標としたときの手段だったのですね。

でも最初から高い目標を目指すと辛いので、まず楽しめるところからやろうと、1〜2週間に一度テーマを決めて、それぞれがスケッチを書くWeekly Codingを採用しました。仕事の負担にならない範囲で、各自が楽しみながらできると良いなと思ったんです。

──可児さんがDaily Codingを続けるために心がけている「その日、自分がやりたい・楽しめる範囲でスケッチをしよう」という工夫は、ユニット内でも発揮されているのですね!
メンバー内で作品を見せ合ったり感想を伝え合ったりもするのですか?

そうですね。各自で終わらせて宿題のようになってしまうのはもったいないので、お互いに気になるスケッチについて質問したり、語り合う機会を設けています。今後はさらに、教え合う場・学び合う場をつくっていきたいですね。

──Weekly Codingを通じて、アウトプットを続ける習慣が身につくメンバーも増えそうですね!

実際ユニット内のエンジニアからは好評だったり、別のユニットのデザイナーも興味を持って参加してくれたり、少しずつ輪が広がっているなと感じます。

もともと自分一人でやっていたことが、ここまで他の人に影響するとは思っていなかったのですが、社内に「いいモノづくり」を楽しんで続けている人が増えて嬉しいなと思います。


“自分らしさ”は過去の継続がつくる。これから目指すエンジニア像

──これまでの取り組みを踏まえ、今後どのようなエンジニアを目指していきたいですか?

今までは「求められた表現をどう実装するか」という部分にとらわれすぎて「本当にこの表現が最適なのか?」という問題提起を置き去りにしたまま実装することがありました。

でも今後は、プロジェクトの前段からエンジニアとして関わってインタラクションデザインやモーションデザインにも積極的に取り組んでいきたいと思っています。

特に自分が得意とするWebGLを使った表現やアルゴリズムに依存した表現などは、エンジニア側からの提案がないと絶対に生まれないですよね。どんな表現が最適なのか、判断し、提案できるエンジニアになりたいと思っています。

ただ、プログラマーとしての自分らしさってなんだろう?と考えたとき、どう頑張っても過去の蓄積でしかないと思うんです。毎日のアウトプットが実績となり、そこからバックグラウンドが生まれ、自分らしさにつながればいいなと思いますね。

──ありがとうございます!
最後に、これからアクアリングでどのような人と一緒に働きたいか?を教えてください。

Web以外の分野のバックグラウンドを持った人と働いてみたいですね。異分野の経験があるときっと見える景色がちがうはず。自分も学生時代のメディアアートの経験が、入社後のデジタルコンテンツ制作に役立っているのでそれはすごく感じます。

バックグラウンドの異なる人たちが、お互いの良いところを吸収し合って「いいモノづくり」の輪を広げていけると嬉しいですね。


インタビューを終えて。聞き手・菊地の編集後記

Daily Codingを続けるコツは、「自分にプレッシャーをかけすぎないこと」と語ってくれた可児さん。

気軽に楽しむことが、結果的に仕事にもつながっています!そう生き生き話す姿から、ものづくりやクリエイティブコーディングが好きな気持ちが伝わってきました。

可児さんのアウトプットに対する姿勢は社内メンバーにも良い影響を与えていて、今後さらにアウトプットを習慣化する機運が活発になっていきそうです。

これから可児さんがつくるクリエイティブがとても楽しみになるインタビューでした。

可児さん、ありがとうございました!

聞き手/菊地 美幸  執筆/貝津 美里(フリーライター)


●可児さん自身のnote「DailyCoding 振り返り 2021」では、作品の詳細についても触れています。こちらもご参照ください。


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