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SF小説「三体」を読みながらアメリカ移住をしてみた #読書感想文

(この記事は妻が書きました)

我々夫婦は2022年11月頃アメリカに移住したのですが、
初めてバーガーキングでランチを食べた時に、2019年ごろ話題になっていた中国SF小説「三体」の話になりました。夫はそのころ書籍を買って読んでいたものの、会社員時代の私はあまり関心がなかったのでせっかくならばと今回読んでみることに。

今回の記事は小説内の内容を少しだけ紹介しながら、アメリカで生活を整えるまでの様子を回想しています。

三体とは
劉 慈欣作の中国SF小説。物理学者に起こる奇妙な出来事から、人々は古典力学運動「三体問題」に悩まされる文明の星・三体星との関係が明らかになり、400光年離れた三体星人が地球に辿り着くまでの人類の技術革新と三体星人の妨害対抗が起こる異星間大戦を描いている。

小説内ではさまざまな時代の描写があり、多くの登場人物が物理学的、詩的な表現で描かれており、小ネタ的な話も数多く散りばめられています。
以降は著作権・ネタバレに抵触しないレベルでの引用で読書感想として記載します。

射撃手と農場主

三体 第二部6より

作品内では普遍的な物理学法則も、実は作為的な法則があって、例えば同距離で打つことができる射撃手や毎日同じ時間に餌を与える農場主のような存在が法則を生み出しているのを我々は観測しているだけなのかもしれない、という一節。
その頃、私たちはアメリカで左ハンドル運転を始めており、
アメリカの道路運転規則をインストールしていました。
左ハンドル、右車線運行、インジケーターは左手、赤信号でも右折は車が来てなかったら曲がっていい…など。それぞれ合理的な理由はあると思いますが、運転する道路が違えばルールは変わる、というのを体感して違う時間に餌をやる農場主が来た七面鳥の気持ちだと思って黙って受け止めました。

三体問題

三体 第二部16より

三体問題とは、3つの質点が相互作用し複雑かつ予測不能な動きをする問題で、作品中は3つの太陽を持つ三体星が予測不能な太陽の動きによって文明が成り立たない様子を描いています。
その頃、私たちも我が家の三体問題に悩まされており、
というのは「家」「車」「家計」の3点が複雑に絡まりあい、それぞれに頭を抱えていたのです。
2022年は半導体不足で車の値段が高騰しており、中古車でも日本で新車を買うのと同じくらいの値段が必要でした。
そして、どの販売店から買うか、月々の支払いをどうするかで家計に響き、家も同様に我々は2つの州の境あたりに住んでいるのでどちらの州に住むか、いつから住み始めるかでの免税タイミングも重要、そしてまた、それも家計に響くので、スプレットシートでシュミレーションを入れて家計のやりくりを考えておりました。日本円のレートも悪かったので、細かく必要な金額を整理して、必要最低限日本円から換金して手元に持つような計算もしていましたが、家探しや車探しで何度も状況は変わるのでシュミレーションは何度も再計算が必要になるのでした。。

またのログインをお待ちしております。

三体 第二部7,11,15より

三体星を模したVRゲームの中の一節です。
その頃、ようやく条件に合った家を見つけることができ、
家の申し込みをしていました。
私たちが探している地域は集合住宅が多く、大体集合住宅のリースオフィスに問い合わせて内見・申込ができました。
申込の際には希望の部屋や申込者情報とともに、いくつか数式問題があり、セッション中に急いで答えるパズルゲームのような関門がありました。
1.レントターム選択
日本の賃貸は2年契約が多いですが、アメリカでは契約期間を1年前後の月数で決めることができ、それによって家賃が上下します。
契約月の更新後は大体家賃が値上がりすることになるそうで、月数を長く持たせると家賃が上がるので、その辺りの住所の値上がり幅予測と、家賃×契約月数の合計値からどの選択肢が最適かを考える必要があります。
2.部屋選択
集合住宅の選択の際、間取りのモデルルームだけ見せてもらえて実際の部屋選択は番号だけ選択できるような時もあります。
(実際の退去が決まるたびにページを更新するため、内見から数日後に申し込みをすると空き物件情報が変わっていたりします。)
我々の申し込んだ物件も内見のときに紹介された空き部屋は現地で見ていたのですが、その後他の人に取られてしまったようで、他の部屋から選ぶ必要がありました。
部屋の写真なんて丁寧に付いておらず大体間取りイメージイラストくらいなので、それぞれ棟の番号・部屋番号から場所を特定します。
Google Mapの写真や現地に行ったときの写真などわずかな情報から部屋番号の採番規則性を見つけ出し、希望の階数・方角の部屋を割り出しました。
3.リファレンス
審査にかけるための収入証明として、会社からのレターや銀行明細が必要です。妻は仕事をしてない、という場合でも、退職証明書英文や貯金残高をUSDに変換して送ります。

ここまできてやっと申込、となるのですが、
これらのパズルゲームどこかでつまづいて時間がかかってしまうと
他の人に越されて申し込みをされてしまい、もう一度最初から、となります。(そしてまた金額や部屋の選択から始まる・・・)
その度に我々夫婦は顔を見合わせ「またのログインをお待ちしております」と言うのが合言葉となりました。

まったく理解できない

三体Ⅱ 黒暗森林(上) プロローグより

三体星人とは智子という原子でコミュニケーションを取るのですが、
三体星人と地球人との体構造・思考パターンには当然違いがあり、
地球人の「おもう」と「はなす」を同義語ではないということを7匹の子やぎの物語を語って両者の差分を探ります。
三体星人にとっては狼が中の子やぎを食べようとする心を隠して訪問することが理解できず、三体人の思考は外から丸見えになっていることがわかるのでした。

同じ頃、日本と電話をするタイミングがあったのですが、友人と話が噛み合わず苦労することがありました。
友人とはコロナ以降会う気機会がないまま住むところも遠くなってしまい、お互い生活のバックグラウンドも変わってしまっていて、前提がわからないまま話を聞いて、ボタンの掛け違いになってしまい、
途中から「きっとトランプのようにカードの手札を見ながら話していて、私はそれを見えてると思われて話しているんだろう」と思ってました。

面壁者計画

三体Ⅱ 黒暗森林(上) 第一部面壁者より

上述したように、三体人の裏をかく計画として、地球人は計画を選ばれた4人の面壁者の頭脳に託す面壁者計画ウォールフェイサー・プロジェクトを実施しました。
選ばれた4人の面壁者は三体人に本当の計画を悟られないように地球防衛の策を練ることになります。
11月末頃、アメリカでは Brack Friday Saleシーズンで、新生活に向けて家電や家具をSale品で購入する予定を組んでいました。
まだアメリカに来たばかりで資金も十分ではないので、欲しいものとお財布の相談をしつつ、欲しいもの一覧から今買うべきもの・どこで・どの製品を買うべきかを検討していました。

検討シートの一部

一つの商品を見たら、また次の商品を比較して金額をみて、どこで買うか決めて、、、と途方も無い作業でしたが、
最終的には購入するものを選ぶ段階があり、今後の生活でどのようにしたいか、というところに終着するのでした。
小説内で現れる計画は一重に予算をつけて実行できるものばかりではなく、計画の縮小・変更は幾度も発生するし、面壁者たちは計画を実行するために世界中をまわるのです。政府を説得し、三体星のフェイクとなる隠れ蓑の案の中の狂気な案を面壁者たちは立案するのです。
我々夫婦の買い物計画も欲しいものが全て買えたわけではありませんが、生活を想像しながら、我々らしい生活を作るための物品を購入できました。

冬眠

三体Ⅱ 黒暗森林(上) 第二部呪文より

4世紀先に来る<終末戦線>に向け、地球人の重要キャラクターは冬眠技術を用いて時を超え次期世代の技術を用いて戦線で戦うのでした。
冬眠の技術については三体Ⅲで詳しく語られますが、冬眠者は現在の技術では治せない難病の重症患者たちなどが「明日は今日よりいいだろう」という信念のもと冬眠に入り次世代の技術革新で治療を受けることができました。
冬眠から目覚めるたびに、主人公たちは地球の新しい技術や世の中の新しい流れに驚き、次の世代に順応していくのでした。
過去で検討していた計画が引き継ぐ人々の中で意味合いが変わっていくこともあります。
以前イギリスに移住した際には、夏に移動していたので冬服などを船便で送ったりしたのですが、今回は冬にアメリカに行くということもあり、「到着直後いらなくて数ヶ月後から必要になるものって、いま要らないものだな。。」と気づいてしまい、全部持ち込みの航空便で済ませました。
タイムカプセル状態になっている日本の荷物も、きっと次に開ける時には「はて、なんでこれを残したんだったかな。。」と思うものがきっとあるんだろうなと思うのです。

気になる部分として、冬眠を経て三体危機に立ち向かう西暦人と、冬眠後の世界で生活をしている新世代の人間が共存するところ。
冬眠をすることで家族や友人などとお別れをしなくてはならない覚悟と、新時代の新しい技術に出会えるかもしれない(ただ、もしかしたらその時代はさらに過酷なのかもしれない)という一種の賭けのような挑戦、
そしてもちろん、冬眠をせずにその時代で技術革新や人類の生活をひたむきに進める人材もいるわけで、来たるべきタイミングで冬眠者を起こして一緒に危機に立ち向かうのです。
物語上、主人公となる同一の人間が過去からの様々な想いを抱えて数世紀を超えて立ち向かう姿はとても見所があるのですが、実際問題これってどうしても西暦人がしなくてはならないわけではないですよね..?
もしガウディがサクラダファミリアの設計図を書いた後ですぐ冬眠をしていて、完成した2026年に起こされて、出来上がった建築物を見上げたら、それは確かに夢のある話だけれど、もはや出来上がったものをどう運用していくかは建築家の領分ではなくて、その時代の人が決めることなんだろうと思います。
次に帰国した時に日本でこれを買っておこう、など考えることがあります。もちろんイギリスにいたときに考えることがありましたが、結局買わなかったものもありまして、特に消耗品のようなものは購入永続性がないので、その国で持続的につかえるような道具で、現地で安く買えないようなものを選びました。
こんなものが便利でした。
・日本から持ってきたものとして、包丁(合羽橋で研いでメンテ済み)、百均ピーラー、菜箸、缶切り、醤油皿、チーズ削りなど小さい調理器具
・なくても困らないけど便利だったものとして、ブンブンチョッパー、プロテインシェーカー(ccメモリがあるとなお便利)、ザル付きレンジタッパー、注ぎ口がついてる小鍋、ゆたんぽ
・結局アメリカで買ったもの・ほしくなったものとして、箸(3ヶ月箸なし生活をしてダイソーで買えました)、ワイン用キャップ、すり鉢、小さいトング

アメリカに来る前は現地でミートスライサーや炊飯器が欲しいなと思っていたのですが、現地での生活をしながら、小籠包にハマったのでアジアンスーパーで蒸篭を買ったり、鍋炊飯の技術が向上したりで物欲も柔軟です。

あなたは自分の命を終わらせることを望みますか?「はい」なら3を、「いいえ」なら0を押してください。

三体Ⅲ 死神永生(上) 第一部より

最終巻になる三体Ⅲを読み始めた頃、引っ越しも落ち着き、近所の図書館に通うような生活のゆとりが出てきました。
近所の公共図書館には他言語文学の棚にロシア語や中国語、韓国語、日本語などの文学も置かれており、中国語原作の三体に初めて出会うことになります。
日本語版三体は上下に分かれているのですが、中国語版は上下合わせて1冊分。漢字が持つ情報量の多さがいかに凝縮されているか分かります。
そこでどれくらいわかるかなと読み始めてみた時に目についたのがこの一節でした。一体どんな文脈でこのようになったのか立ち読み程度ではわからず、ひとまず借りてきて夫婦で読み進めることになりました。
夫が中国語で読み、後から私が日本語で答え合わせするような感じで、中国語の勉強になりました。
なんとか返却期限までに達成しようと、運転中や就寝前に朗読するなども三体漬けの日々がありましたが、宇宙SF系でよくある展開のように、日本語版で読み始めた私の方が時の流れが早くなる現象が起き(夫が読んでない時に妻だけ読み進めてしまうという相対性理論のようなな協調性のなさから起きるバグ)、結局夫を上巻の途中で置いてけぼりにしてしまいました。反省。
この試みは決して無駄にはならず、meet upアプリのイベントで出会ったアジアンの方と最近読んだ本の話題で三体San Tiを読んだよというと共通の話題ができてよかったです。

人類の墓碑

三体Ⅲ 死神永生(下) 第五部より

地球最後の日、最後にすべきことはなんだろうと考えてしまうラスト。
本作ではクライマックスに人類歴史を残そうとする奮闘が描かれます。
タイムカプセルとは違ってその時の埋める人の意思は残ることはないけれど、いつか誰かが、見つけるかもしれないものとして、何を残すべきなんだろうかと考えさせられました。
アメリカに来る以前、夫婦それぞれのアドレスホッパー生活はロケットに乗って違う星に来ているような感覚で、ようやくビザが取れて住み始めたアメリカ生活もまだ同じように根を張る感覚がつけれずにいました。
ただ、以前のアドレスホッパー生活と違う点で、大きな家具が買えたり、調理家電が買えたりなどやっと短期問題を解決するためでなく長期で達成したいこと、やってみたいことに打ち込める環境となりました。
我々がアメリカで見つけるもの、将来まだ見ぬ誰かに話したくなるようなストーリーはできるでしょうか。
今後の私たちのアメリカ生活に期待です。

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