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Vol.9 “出版権”という名の落とし穴

 この賞の応募に当たっては、「入賞した場合、『出版権』が主催者に帰属しますので、主催者は優先的に入賞作品を出版する権利を有します」とHPにも記載されています。私もここが一番、気になっていたところで「出版権をこの出版社に抑えられているなら、他からは出せないのだろうか」と、一時は暗い気分にもなりました。
 
 でも、恐らくそんなことはないんじゃないかと思ったひとつのきっかけが、最初に担当者と打合せをした時に「出版社を作る」ことについて話題として出してみたところ、「ほとんどトントンで利益出ないみたいですよ」という話をされただけで、「うちが出版権を持っているのでそれはできません」といった話がなかったことでした。で、一応、出版権のことについても尋ねてみたんですが、「応募要項にも書いてあったかと思うんですが、受賞作品ということで、うちがまず“出版優先権”を持つってことなんですね」とわかったようなわからんような返答しか出てこず…。
 「出版優先権」と言い換えているあたりにも何か胡散臭さを感じたし、最後、「今日は社長には聞かせたくない話もあったので、今日のところは社長がいなくてよかった」みたいなつぶやきもあったので、ま、ここと契約しなくても、他で出す道はあるってことだな、という感触はありました
 
 で、出版権について調べてみたところ、わかったのは……。
①まず前提として、出版権 < 著作権 で、著作権の方が強いため、出版権者は、著作権者の許可なしに出版できない、すなわち、出版権を行使するためには「まずは著者と出版契約を交わす必要がある」ということ
②出版権者は、複製権者(=通常は著作権者)からその著作物を複製するのに必要な原稿その他の原品に相当する物の引き渡しを受けた日から6ヶ月以内に出版する義務がある、ということ。
 
 ……なるほど、だから、早く契約させたかった訳ですね!!
 
 「出版権は主催者に所属します」と言ったところで、「でも、そのお金は著者が出してくださいね」なんていう不利な契約を、著者が受け入れる義務はない訳です。しかし、“圧倒的に著者に不利な条件”でも、出版契約さえ結んでしまえば、出版社側が「出版権」を握れることになります。
 
 また、本来、出版権を主張するのであれば、6ヶ月以内に本として出版する義務が生じるので、期限内に本にしてくれなければ“義務を果たさなかった”ということで、著者は出版権の消滅を主張することができるのですが、そこを突かれると自分達の首を絞めることになるので、あえてそこはオブラートに包んで隠し、とにかく早く契約させよう、とするのでしょう。
 
 私の場合、5月末に原稿を送っていますから、先方は11月末までに出版する義務があったことになりますが、とりあえず「出版優先権」を主張する先方とやり取りしたということで義理も果たしたし、10月初めに契約については正式にお断りして、向こうもそれを受け入れたので、もう、大手を振って他の会社と交渉できます。
 
 そもそも、私の場合「ストーリー部門」なので、そのままでは絵本として出すこと自体、不可能なので、向こうが6ヶ月以内に出版するなんていうのは、土台、無理な話なんですけどね(笑)。
 ただ、ストーリー部門以外の場合は、「出そうと思えば、そのまますぐに本にできる」形になっているので、6ヶ月を過ぎるまで、他との契約は避けた方がいいかと思います。
 
 出版権の詳細について興味ある方は、著作権法の第3章(第79条~第88条)で規定されているので、そちらを読んでみてください!
 

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