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葉桜が揺れる新緑の季節に

5月という時期が好きかもしれない。

とある5月の日に、ふとそんなことを思った。

辺りをピンク色に染めていた桜の花が姿を消し、気が付けば、キラキラと陽の光に照らされる新緑が辺りを埋め尽くしていた。風に揺れる緑からの木漏れ日。まわりを見渡せば、至る所でツツジのピンクが咲き乱れ、黄色の菜の花やカラフルなチューリップ、街中が花で色付いていることにも気が付いた。

そんなときは決まって、「ああ。私はまた日常に飲み込まれていたな」と思う。街の景色の移ろいにも気が付かずに生活していたなんて。綺麗に花が咲くまで、そこに花があることを気にも留めずにいたなんて、と。

できるだけ、たわいもない幸せを探しながら暮らしているつもりなのに、日常にはそれを覆い隠してしまうほどの色々が溢れていて、知らず知らずのうちにそれらに心を乗っ取られてしまう。

それがいつしか、先入観や思い込み、様々な固定概念となっていって、人は結局、見ようと思うものしか見えなくなってしまうのかもしれない。

「そうなんだよな、花が散った桜は世間からお払い箱なんだよ。せいぜい、葉っぱが若い五月くらいまでかな、見てもらえるのは。だがそのあとも桜は生きている。今も濃い緑の葉を茂らせている。そして、あともう少しすると紅葉だ」
葉桜の季節に君を想うということ

そんな5月。私は『ミステリー好きなら、一度は読みたい作品!』と評される1冊を手に取った。2004年のあらゆるミステリー賞を総なめにしたという歌野晶午のこの作品。

どちらかというと、私は探偵や刑事が殺人事件を解決するミステリーを読む方が気楽で好きなのだが、ウィキペディアによれば、どうやらこの作品は、長編恋愛推理小説とやらに分類されるらしい。

もっと具体的に言うならば、乾くるみさんの「イニシエーション・ラブ」のような作品であると例えることができるだろう。もっとも、「イニシエーション・ラブ」はどちらかというとピュアな恋愛物語なのに対し、こちらは欲望に正直な男と女の話である点は、大きく違うところではあるけれど。

本の感想記事を書こうとしているにもかかわらず、この作品がどんな物語であったのか、これ以上触れるのはやめておこうと思う。この作品を手に取ったことがない人には、純粋に物語を楽しんでほしいから。

そして物語を読み終わったら、この記事のことを思い出してみてほしい。そのときにはきっと、少し違った感覚でこの記事を楽しむことができる…はず。

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