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▶︎ミステリーには音楽を添えて

私にとってリラックスタイムに欠かせない音楽が、ジャズ。それもピアノだけで演奏される優しいジャズだ。「ナイトジャズ」と書かれたそのアルバムには、カウンターでカランッと氷を鳴らしながらお酒を嗜むシーンを思い起こす、どこかしっとりとした空気感が漂うメロディが収録されている。

このナイトジャズシリーズと一緒に私の携帯にダウンロードされているのが『じっくり読みたい読書時間のジャズピアノ』というアルバム。しっとりとしたナイトジャズシリーズとはまた少し違い、読書時間のジャズは全ての曲がとても優しく演奏されている。楽譜でいうなら全てにピアニッシモがつくのではないかというような優しいタッチ。それでいてきちんと強弱もつけられている。

決して読書の邪魔をしないこと。それがその優しい演奏から伝わってくる。優しいジャズが流れる空間で趣味の読書を楽しむなんて、まさに至福の時間。…だと頭分かってはいるのだが、どうにも私はこのジャズを聴きながら読書をすることが出来ない。せいぜいが3曲くらい。ほんの少しその贅沢感を味わった後は、やっぱり本の世界に集中したい!と流れるメロディを止める。

人間は本当に身勝手で、わがままだ。

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「音楽」と「読書」を思い浮かべた時に、真っ先に頭に浮かんだのが伊坂幸太郎という作家さん。昨年から今年の間に手に取った本の中にも、音楽がアクセントになっているものがあった。

そのひとつが、「死神の精度」や「死神の浮力」などの死神シリーズ。

「死神」は対象となる人間をそれぞれ一週間調査し、死ぬべきか、死を見送るべきかを判断する。死神にとって人間の発明で最悪なのは渋滞。その一方、最高なのは「ミュージック」だとされている。死神が調査の合間に、CDショップの試聴コーナーなど音楽を聴ける場所に度々足を運ぶのが印象的な作品だ。

そんなシリーズのうち「死神の精度」という作品中で登場した曲が、ザ・ローリング・ストーンズの『ブラウン・シュガー』である。

この曲は、対象者であるヤクザのお気に入りの曲であり、死神の千葉が興味を示した一曲でもある。人間側の立場から言わせてもらえば、いくら死神だからといって、こんなにもノリの良いサウンドを聴きながら生死を判断されてしまっては、正直堪らない。それでも、自然と身体をリズムに乗せたくなるようなメロディが死神の心をも掴んだというのには、なぜか納得させられてしまう。

死神たちにあいみょんの『ハルノヒ』なんかを聴かせてあげたら、皆の死を見送ってくれたりしないだろうか。

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また、同作家の「鴨とアヒルのコインロッカー」という作品も音楽がアクセントとなっている物語だ。

大学進学の為、仙台のアパートで一人暮らしを始めた主人公の椎名。部屋の外に出てダンボールを片付けながらボブ・ディランの『風に吹かれて』を口ずさんでいた時、103号室に住む河崎という男に声を掛けられ、なぜか本屋襲撃を手伝うことになってしまう。

役割は『風に吹かれて』を10回歌い終わるまで裏口を見張っていること。そして、裏口から逃げれないぞと教えるため2回歌うごとにドアを蹴ること。本屋襲撃を計画した河崎は、ボブ・ディランを「神様の声」と表現するほど敬愛しているのだ。

今回初めてボブ・ディランを聴いた私に言えることといえば、このカントリーな曲調は、この物語には凄くしっくりくるなということぐらいなのだが、歌の長さを犯行時間の目安にするという発想が凄く面白い。だって普通に時計を見てもらっている方が、歌を10回歌うよりも間違いなく正確なのだから。

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思えば、コナン・ドイルが生み出したシャーロック・ホームズはバイオリンの演奏に長けていた。「名探偵コナン」では、童謡『七つの子』のメロディが黒の組織と繋がる重要な鍵となっているし、ドラマ「アンフェア」では主人公が度々口ずさむ『きらきら星』が事件を紐解く重要な鍵となっている。

先日手に取った中山七里の「カエル男」シリーズでは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番ハ短調『悲愴』の存在が欠かせない。こうなってくると、ミステリー作品には音楽が欠かせない存在とまで言えるような気がしてくる。

私はまたひとつ、推理小説を楽しむ方法に気付いてしまったかもしれない。

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今回、note大学読書部長であるともきちさんが、note大学以外の人も応募可能な素敵な企画を計画して下さったので、参加させてもらいました。5月31日迄の募集ですので、読書好き&音楽好きの皆様はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

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