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空白の時間と、壁の余白に想いを馳せて

ヨハネスフェルメールの作品「窓辺で手紙を読む少女」
光の表現の始まりと言われるこの作品は、実は私にとって、思い出のある作品でもあります。

フェルメールが巧みに表現した「光と影」の世界観にすっかり惚れ込んでいた私は、日本での本作公開を知り、半年も前から「窓辺で手紙を読む少女」との対面を心待ちにしていました。

本物の作品を日本で目にすることができるだけでも、私にとっては願ってもないチャンス。さらに今回は、長年隠されていた「壁面に描かれたキューピッドの画中画」が復元され、所蔵館以外では世界初公開だというのですから、この機会を逃すわけにはいきません。

そんなわけで私は、対面の舞台、大阪へと足を運びました。

本作品は、1979年のⅩ線調査で壁面にキューピッドの描かれた画中画が塗り潰されていることが判明し、長年、その絵はフェルメール自身が消したと考えられてきました。しかし、2017年の調査により、フェルメール以外の人物により消されたことが新たに分かり、翌年から画中画の上塗り層を取り除く修復が開始されました。__(中略)__本展では、この修復過程を紹介する資料とともに、大規模な修復プロジェクトによってキューピッドが完全に姿を現した《窓辺で手紙を読む女》の当初の姿を、所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館のお披露目に次いで公開します。所蔵館以外では世界初公開となります。
フェルメールと17世紀オランダ絵画展HP 開催概要より

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私が初めてこの作品を見たのは、リクリエイト作品。実際にフェルメールが描いた本作品を目にしたとき、自分は一体何を感じるのだろうかと、半年もの間、私はずっとそんなことを考えていました。

恋愛なんかの場合、好きな人のことを想い、会える日を心待ちにしている時間というのは、どこかじわっとした幸福感に心が包まれているような感覚になることがあります。それと同時に、人の感情というのはワガママなもので、会えない時間が長ければ長いほど、会えたときの喜びは今以上の幸せをもたらすに違いない、だなんて勝手に期待を膨らませてしまったりもするものです。

おそらく私は、恋愛に似た期待をこの少女の絵に抱いていたのでしょう。会場に着いた私は、目の前の光景に軽い絶望感を味わうこととなりました。

ここはライブハウスか何かなのか…と思うほど、少女の前に群がる人、人、人…。

感性を揺さぶられるほどの感動の対面に期待を膨らませていた私の理想とはほど遠く、人をかき分け、肩の隙間から少女の絵を眺める現実の私。

それはここ数年の間で一番といっていいほど密度の濃い空間に違いなく、私は若干の恐怖心と共に、少女の絵と向き合うこととなったのです。

とはいえ、やはり本物を見たときに湧き上がってきた「感覚」というのは私の中にちゃんとあって。知らない誰かの温もりを隣で感じながら、私はその感覚にどこかホッとした気持ちを抱いたりもしていました。

湧き上がってきた感覚。

まずは、記憶の中にあるリクリエイト作品と比べ、実際の少女の絵はどこか色が鮮やかに見えた気がしたということ。そして、タッチの繊細さは遠目からでもしっかりと伝わってきたということ。

一方で、初めて作品を見たときのようなワクワクした感覚は、今回は残念ながら感じることは出来ませんでした。それは決して、この絵に感動しなかったということではなくて、もしかするとそれは、壁面に天使が描かれたことによって失われた「余白」によって、この絵に対する私の作品への感じ方そのものが変わってしまったからなのかもしれないと思ったりもしました。

天使は愛の象徴。そんな天使が、欺瞞の象徴とされる仮面を踏みつけた天使の絵の存在によって、作品の捉え方が大きく変わったこともまた事実です。作品に対する感じ方なんて人それぞれだろうけど、私はこの天使の絵を塗りつぶした誰かの気持ちが、少しだけ分かるような気がするのです。

ファッションでは、きっちりとキメ過ぎずに程よく着くずして力を抜いた、隙のあるファッションを「抜け感」と表現したりもするけれど、なんだか少しそれに近いものを感じたりなんかして。

「余白」が与える安心感。それをフェルメールを通して実感したという経験も、きっと人生において貴重な経験に違いありません。そして、私が初めてこの作品を見たとき、既に天使の画中画が描かれた状態であったなら、私はこんな違和感すら抱かなかったのだろうなと、考えてみたりもしています。

芸術はやはり、奥が深くて素敵ですね。

東京、北海道、大阪に続き、日本巡回展のラストは宮城県。2022年10月8日〜11月27日まで開催されますので、気になる方はぜひ、窓辺で手紙を読む少女に会いに行ってみてくださいね。

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