花粉症

ショートショート「火噴症(かふんしょう)」


私はアレルギー体質なので毎年、花粉症が大変だ。

今年のスギ花粉はひどいらしい。
イヤだな、と思っていたら案の定、3月になってからクシャミの嵐。
私が宇宙戦艦YAMATOの艦橋に座っていたら、確実に
「アレルギー充填120%!!」
などと、叫んでいるところだ。

……とか、バカな事を考えているうち盛大なクシャミが来たので思いっきりしたら、波動砲ならぬ火の粉が口から噴出したので驚いた。
まるで、火祭りなんかで見る「手筒花火」の小さい感じだ。
火力はそうでもないが、火の粉がすごい。
カーテンが焦げてしまった。

あわてて医者に駆け込んだ。
「口から火が出るんですっ!!」
「なーははは。何をバカな……」

「ブヘッくしょん!!」

医者は口から吹き出る火の粉の柱に肝をつぶし、あわてて症例を探し始めた。

「ははあ、これは『かふんしょう』ですな」
「花粉症?」
『火噴症』です! 大変めずらしいアレルギー症状で、100年前に一例、報告されていますな」
「……で、対策は?」
「花粉が収まるまで待つ!!」(キッパリ)

腹がたったので、30回ほど立て続けにクシャミをしてやったら、医者のやつ、泣き叫んばかりの顔で近所の鉄工所に走り、急いで鉄のマスクを作らせて持ってきた。
とりあえずこれをつけてくれ、と言う。つけて見ると、たしかに火の粉はさえぎる事ができるようだ。
町を歩くのに口に鉄マスクをつけなきゃいけないなんて、
わたしゃクマか!?
と思ったが医者のやつ恐怖で縮みあがっているので、とりあえずよしとするか。

……医者の帰り電車に乗っていると、乗客にじろじろ見られてしょうがない。
花粉で血走った目を見開いて負けずににらみ返すと、どいつこいつもあわてて視線をそらす。
まあ、それはそうだろう。鉄のマスクをしている上に、どうしてもクシャミのたびにマスクのまわりのわずかなスキマから火の粉がもれる。
りっぱな不審者だ。

電車を降りてからさらにクシャミがひどくなる。
ヘックション!!
と、マスクのひもが切れやがった。どうやらもれる火の粉で焼ききれたらしい。医者め、中途半端なもん作りやがって! どうしてくれようか!?
ドス黒い思考が沸き起こり、思わず邪悪……もとい、きびしい表情になりかけたが、自分を遠巻きに見ている人々に気づき、あわてて笑顔でその場を立ち去る。
しかし、これはまずい。
連続でクシャミをしているので、口から火柱が絶えない状況だ。(なんだそれ?)
「ママー、あの人、マーライオンみたい!」
「これ、見るんじゃありません!!」
……少年よ、マーライオンが吐いているのは水で、私のは火の粉だ。
とにかく、大通りでは目立ちすぎる。不審すぎて通報されかねない。いったん、近くの公園にでも避難するか。

幸い近くにかなり大きな公園があるのだが、行ってみたら大勢の人だかりが出来ていた。入り口の立て札を読む。
何々? 『大道芸コンテスト』だと?
私の住むY浜市は結構、こういうイベントが好きなのだ。(国際? とか文化? とか)これもその一環であろう。
しかし、これはありがたい。ここなら火を噴いていても目立つまい。

……あまかった。
めちゃめちゃ目立ってしまった。連続して2m級の火柱を口から吐く芸人など私だけだった。こうなりゃ、ヤケだ。
縦、横、斜めに火を吹いたり、側転しながら火を噴いたり(これは自分も熱かった)、客のワンカップを熱燗にしたり、やりたい放題だ。

ひとしきり大暴れしたところ、私の周りは黒山の人だかり。
やがて、主催者と報道関係者がやって来た。
「おめでとうございます! あなたが優勝です。」
トロフィーと記念品を受け取ると、次は取材陣、と見るとTV局だ。
「ぜひ、うちの番組に出てください!」
私が調子に乗って=芸=を見せているうち、誰かが連絡したらしい。
気づけばキー局からローカルまでのTV局関係者がずらり。
ABCだのBBCだの海外放送もまじっている。

「わ、わかりました。前向きに検討させていただきます」
私は半笑いで答えながら思った。
これは一財産稼げるチャンスかも……。
だけど、TV局を回りきるまで花粉シーズン続くかしら?
そもそも、海外にスギ花粉って飛んでるのかなあ??




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#ショートショート #小説 #花粉症






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