”組織”ではなく”個”に目を向けよう
昨日ツイートした以下の図解が思いのほか拡散しました。
この図で言いたかったことは、組織の序列(会社や、学校や、大学の)はあくまでも平均値での比較であって、それが全く意味をなさないとまでは言わないにせよ、組織の中での個人の分布の方がより意味があるということです。タイトルにあるとおり「組織」ではなく「個」にもっと目を向けるべきです。
本エントリーでは、このことを大学や会社を例にとりつつ、具体的に解説しておこうと思います。なお、コンサルティングファームの中で人材レベルの幅があることは、コンサルティングファームに委託する企業が留意すべきことです。いかに良い人材をアサインさせるか/してもらうかによって、受けるコンサルティングサービスの質が左右されるからです。この点をコントロールする上でのヒントについても後半で言及します。
大学の偏差値の意味とは?
例えば学校や大学については「偏差値」というモノサシが古くからあります。学校名や大学名+偏差値とGoogleで検索すると、その学校や大学の偏差値が出てきます。例えば東京大学の文科一類の偏差値は、以下のサイトでは74とされています。
この74という数値が何を意味するかと言えば、東京大学文科一類に合格するためのボーダーライン、あるいは合格する人の平均的な学力テストの水準です。東京大学文科一類に合格する人の中には、偏差値90の人もいれば、逆に偏差値65の人もいるでしょう。そうした個々人のバラツキは捨象し、平均値(あるいは中央値)だけを一つの数値で表現したものが偏差値と言えます。偏差値という一つの数値で一括りにしてしまうことでかなりの情報量が捨象されます。
実際、東京大学文科一類に合格する人の地頭の良さの幅は、おそらく10倍くらいはあるでしょう(もっとあるかもしれません)。次のようなAさん、Bさんを考えてみます。
Aさん:塾にも通いながら毎日12時間勉強し、かつ一浪して文一に合格
Bさん:部活に打ち込みながら、塾にも通わず、毎日3時間の勉強で現役で文一に合格
両者のどちらが地頭が良いかは明らかです。Bさんの方が圧倒的に地頭が良いでしょう。ただ学歴だけをみるとどちらも「東大文一」で同じ。同じラベルが貼り付けられます。「こういうラベリングにどれほどの意味があるのか?」ということが、冒頭の図解で問題提起したかったことになります。
会社でも同じような話がある
上記では大学の偏差値を例にとって話しましたが、同じようなことが会社でも言えます。会社にはブランドや社格があります。毎年のように発表される就職人気ランキングもその一つですし、「就職偏差値」なる概念もあります。
アップルが属するコンサルティング業界においては、下図のような就職偏差値ランキングが出回っています。
マッキンゼーの就職偏差値74というのが統計学的に何を意味しているのか、よくよく考えるとちょっと良くわかりませんが(学校のようにテストの点数という数値が存在しないため)、ともかく会社をランク付けするとこうであろうと労働市場は評価しているわけです。
ただ、これも学校・大学の偏差値と同様、かなり単純化したランキングと言えます。それぞれのファームにはデキる人、デキない人、普通の人が混在しています。何をもってデキる/デキないを測るかと言えば、会社の場合は「業績」や「生産性」でしょう。業績や生産性のモノサシで一人ひとりを測ると、どの会社においてもそのバラツキはかなり大きいはずです。特にコンサルティングのような知的労働においては、デキる人とデキない人とでは雲泥の差があります。
冒頭の図解を再掲します。図の右側のようにA社、B社、C社・・・それぞれで人材の質には大きなバラツキがあります。
かつ、それぞれのファームの人材分布には重なりがあります。序列3位のC社の上位層は、A社のミドル層よりも上位に位置しています。またA社の下位層はB社のミドル層以下です。A社>B社>C社・・・のような単純な序列ではなく、それぞれの分布がずれながら重なりあっているというのが事実です。
コンサルファームを使う側が留意すべきこと
このことは、特に目新しい話でもなく、ちょっと考えてみればごくごく当たり前のことです。ただ、日本人は「偏差値」や「序列」などの数値化が好きなので、つい右側のような分布があることを忘れてしまいがちのように思います。
例えばコンサルティングファームを使う大企業も「やっぱりこの手の戦略案件はマッキンゼーに任せるのが安心だろう」と、ファームの格付けやブランドでどのファームを起用するかを判断する傾向があるように思います。もちろんファームの格付け≒ブランド≒実績に裏付けられた信頼という側面もあるため、こうした判断が間違っているわけではありません。
しかし一方で、ファーム内での人材のボラティリティがあることもよくよく認識しておくことも大事です。というのもコンサルティングサービスはファームという「組織」から受けるわけではありません。ファームの中の4~5名の「メンバー」からサービスを受けます。したがってその4~5名のメンバーの力量によって受けるコンサルティングサービスのクオリティは大きく左右されます(下図参照)。このことを認識しておくことは大切です。
では、このことを認識したとして、クライアントはどのような手が打てるでしょうか?アサインはファーム側の台所事情や論理で決められるため、直接的に介入はできませんが、間接的に「良い人材・チームをアサインさせる」ための工夫はできます。
具体的には3つの手が打ち得ると考えます。
1.指名する
2.発注時期を見定める
3.お得意先になる
順に説明しましょう。
1.指名する
パートナーやマネージャーなどのシニアを指名することです。コンサルの提案では時折提案のときに出てきたマネージャーと異なるマネージャーがアサインされたり、提案の段階でどういうマネージャーをアサインするかが明示されていないケースがあります(パートナーは営業の顔なので、パートナーが変わることはありませんが)。こういう場合、アサインをファーム任せにするのではなく、力量がありそうな人を指名する動きをすることが有効でしょう(もちろん、初めて発注する場合など、誰が力量があるのかわからないケースもあるので、常にこの動きができるわけではありませんが)。
2.発注時期を見定める
これが意外と有効ではないかとアップルは考えています。コンサルティングファームはどこも「稼働率の波」があります。一年の中で稼働率が高い時期もあれば低い時期もあります。その変動パターンはファームによって異なりますが、大まかな季節パターンのようなものはあります。例えば年度末(12月~3月)は、予算消化のためにコンサルを使うことが多いため、一般に稼働率が高くなる傾向があります。逆に年度のはじめ(春頃)は、コンサルを使うかどうか腹決めできない企業も多いため、稼働率は低くなる傾向があります。
そうした中で、稼働率が高い時期に発注するのはお勧めではありません。なぜなら、コンサルティングファームには社内労働市場があり、デキるコンサルタントから稼働が埋まっていくため、稼働が高い時期にはローパフォーマーが残っている可能性が高いからです。逆に稼働率が低い時期に発注するのはお勧めです。
このように、コンサルティングファームの繁閑時期を想像しつつ、「閑」であろう時期に発注するのは一つの賢いやり方だと思います。
3.お得意先になる
法人ビジネス全般に言えることですが、お得意先は大切にします。コンサルティングファームもお得意先のクライアントは大切にし、優秀な人材をあてがう傾向があります。
ではお得意先とは何か?もっともわかりやすいのは「太客」です。長年にわたってファームに大きなフィーを払ってくれるクライアントは当然大切にします。それ以外にも、
・チャレンジングな仕事をくれるクライアント
・ファームのことを尊敬・尊重してくれるクライアント
・毎回コンペで競わせるようなことはせず、信頼の上相対契約してくれるクライアント
はお得意先です。こういうクライアントはファーム側も大事にするので、優秀な人材があてがわれる可能性が高いでしょう。
今回は以上です。
最後までご覧頂きありがとうございました!
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