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iPhoneはユーザーのニーズに合わせて変化する〜iPhone 12のデザイン〜

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はじめに

iPhone 12は3年ぶりのデザインチェンジであると言われます。iPhone X、iPhone XS、iPhone 11と続いたデザインからの脱却です。
iPhone XのデザインがiPhone 6のデザインを踏襲したものであると考えるならば、6年ぶりのデザインチェンジであるとも言えます。

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Appleの製品全体で見れば、2018年に登場したiPad Proのデザインと共通する部分がありますが、iPhone 12はMagSafeを搭載し、さらに洗練されたデザインになっています。
MagSafeによって、ユーザーは自分のニーズに合わせてiPhoneの機能を変化させることができるようになりました。

外観の変化と持ちやすさ

iPhone 12シリーズは、これまでのどのiPhoneよりもミニマルなデザインです。

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これまでのiPhoneのデザインと比較しながら、その特徴を見てみましょう。

よく挙げられるのがiPhone 4とiPhone 5で、よく似ているとよく言われます。
しかしながら、iPhone 4、iPhone 5の特徴となっていた要素はiPhone 12シリーズにはありません。

iPhone 4は筐体を構成するサンドイッチ形状が特徴でしたが、iPhone 12シリーズは1枚の板のようなかたちです。

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また、iPhone 5は前面と背面を縁取るように存在するダイヤモンドカットされたエッジが特徴でした。
しかし、iPhone 12シリーズにはそれがありません。
iPhone 12シリーズでは、せいぜいエッジがわずかに丸められている程度です。これは角が立ったエッジが手に当たると痛いので、少し丸めてあるだけでしょう。デザインを特徴づけるような要素ではありません。

このように、iPhone 12シリーズでは、印象に残るような形状は限界まで取り除かれています。じっくりと見れば、驚くほど精密な加工に目を奪われますが、一歩引いてみると、ほんとうにただの板です。

iPhoneの始まりから、あるいはiPhone6の頃からこのデザインで良かったのではないかと思わせるデザインです。

しかし、この1枚板のようなデザインには一つ弱点がありました。
それは、デバイスの横幅がもっとも大きく感じるデザインであるということです。

これこそが、iPhone 12で採用されたこのデザインの登場が遅れた原因であろうと思われます。これは同時にAppleが長い時間をかけて対処してきた問題でもあります。

横幅の問題は、iPhone 11 ProとiPhone 12 Proをそれぞれ手に持ってみればすぐに分かります。
iPhone 12 Proの横幅はiPhone 11 Proからわずか0.1mmの増加にとどまっています。厚みに至ってはiPhone 11 Proよりも、むしろ薄くなっています。
そうであるにもかかわらず、iPhone 12 ProはiPhone 11 Proよりも、横幅がかなり大きく感じます。

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iPhoneユーザーはAndroidOS搭載スマホのユーザーよりも、デバイスのサイズが大きくなることに敏感です(あるいは「でした」とするべきでしょうか)。

AppleはiPhone 5以降、iPhoneの画面サイズを拡大してきました。
これはスマホの進化の中では避けて通れないものですが、なるべくユーザーが抵抗を感じないような方法で大型化を進める必要がありました。

大型化のために用いられた手段は主に2つです。

一つは、「ラインナップに大きいiPhoneを加える」という方法です。
大きいサイズが好きなユーザーには大きいサイズを用意し、そうでないユーザーには比較的小型のデバイスの選択肢を残しました。この方法はiPhone 6 Plusの登場から始まりました。
大きいサイズのスマホには、使ってみたら快適だったという、食わず嫌いのユーザーも一定数いたのではないかと思います。Androidスマホからの乗り換え先としてiPhoneを検討したユーザーもいたでしょう。
そうしたユーザーを取り込んで大きいiPhoneの人気は高まっていきました。

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もちろん、それだけでは小型デバイスが残ってしまいます。
ですから、本命は「小さい方のiPhoneをじわじわ大きくしていく」方法です。
iPhone 5では画面の横幅を変えず縦に拡張することで、コンパクトさを維持しました。
その後iPhone 6以降は、より大胆に画面サイズを拡大しつつも、なるべく大きいと感じさせないように側面が丸みを帯びたデザインにしました。

そして、十分にサイズが大きくなったところで、側面がフラットなデザインに置き換えたわけです。それがiPhone 12やiPhone 12 Proです。
これによって、形状の変化によるサイズの増加をさほど感じさせずに新デザインへと移行できたといえます。

特に、iPhone 11シリーズでは最も売れたと言われているiPhone 11からiPhone 12へ移行する場合、サイズの増加の問題はほぼなかったと言えます。
iPhone 12では画面サイズは変わらないまま筐体が小型化したので、角張ったデザインを考慮に入れてもサイズ感としてはむしろiPhone 12の方が小さく感じます。

デザインチェンジで割りを食うことになったのは、iPhone 11 Proユーザーでしょう。先ほど述べたように、後継機種のiPhone 12 Proは、横幅こそiPhone 11 Proとほぼ同じですが、手に持ってみるとかなり横幅が広くなったと感じます。

iPhone 11 Proまではかろうじて持ちやすさを画面の大きさよりも重視していたというデザイン上の考え方が、iPhone 12 Proにおいては逆転したように感じます。画面の大きさが持ちやすさよりも優先されるようになっているのではないでしょうか。

ただし、iPhoneのサイズ問題については、ラインナップ全体で見ると、これまでよりもユーザーに優しくなっています。
ご存知のとおり、iPhone 12 miniが登場したからです。
Proモデルではないのは残念ですが、フルスクリーンのデザインでiPhone 6よりも小さいサイズ感は、長らく期待されていたものです。

ところが、miniラインナップはあまり売れていないと言われており、今後廃止の噂があります。
これもやはりユーザーが持ちやすさよりも画面の大きさを重視するようになったことのあらわれと言えそうです(おっとBALMUDA Phoneの悪口はそこまでだ)。

この価値観の移り変わりの過渡期における手当てとして、Appleはminiラインナップを用意したのかもしれません。
そうであるとすれば、むしろ売れない方が安心してラインナップを絞れるため、Appleには好都合かもしれません。

ちなみにBALMUDA Phoneのデザインの話は以下の記事で書いたのでどうぞ。

素材と表面処理

Pro系モデルと無印系モデルでは、筐体の仕上げと素材に違いがあります。
これは、基本的にはiPhone XとiPhone 8でそれぞれに採用された仕上げと素材に近いものです。

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iPhone Xの表面処理は従来のデザインとは異なる新しいものになっており、従来の系譜に連なるiPhone 8のデザインと差別化し、新しさを演出するという側面がありました。

iPhone 12シリーズにおいても、その路線を継承していますが、世代を重ねたことで目新しいものでは無くなっています。
むしろ、ラインナップ相互に関連性を持たせつつ、同時にラインナップの違いを明確にするものと位置付けるのが妥当でしょう。

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ラインナップ相互の関連性を表現しているのが背面のガラスパネルです。
Pro系モデルと無印系モデルは、互いに、マット仕上げの部分がグロス仕上げに、グロス仕上げの部分がマット仕上げになっており、ついになっています。
一方、ラインナップの違いは筐体側面部分の素材の違いから一目で分かるようになっています。無印系モデルがマット仕上げ、Pro系モデルが鏡面仕上げです。

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MagSafeでiPhoneが変化する

iPhone 12のデザインの魅力は、ミニマルな外観とそれを活かしたMagSafe規格にあるのではないかと思います。

iPhone 12は単純な板のかたちにまで形状がミニマル化されています。
これにより、iPhone本体のデザインを変化(進化)させる余地は小さくなりました。
形状が変化しにくくなったことで、規格を固定しやすくなり、その結果生まれたのがMagSafeです。

MagSafeとは何か

MagSafeはiPhoneの背面に設置された小さな磁石の集まりです。
円形に並んだ磁石と、その下方に配置された小さい磁石からなっています。
また、NFCタグの読み取り機能とも連動しています。

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これらの仕組みを使って、iPhoneにさまざまなアクセサリーを取り付けることができるようになりました。
アクセサリーを取り付けると、iPhoneが感知し、MagSafeアクセサリーが取り付けらられたことを示す表示が画面に出ます。純正アクセサリーの場合、アクセサリーのカラーに応じて、iPhoneの表示のカラーも変化します。

MagSafeの源流をたどると、11 インチiPad Pro (第1世代)にたどり着きます。

iPadはiPad2以降Smart Coverと呼ばれる、ディスプレイを保護するためのカバーをマグネットで本体側面に取り付けることができるようになりました。
そしてiPad Pro 11 インチ(第1世代)では,カバー取り付け面を側面から背面に変更しました。
これによって本体の背面まで覆うカバーや、本体角度を自由に調整可能なキーボード付きカバーが実現しました。

Apple/11 インチiPad Pro (第2世代)

11 インチiPad Pro (第1世代)は,上記のマグネット機構を生かすためにデザインされていました。
それ以前のiPadは底面のエッジをかなり大きく丸めていました。このデザインでは,背面全体を覆うアクセサリをつくる際に、背面カーブに合わせた形にする必要がありました。
11 インチiPad Pro (第1世代)では、エッジにほとんど丸みがなく、背面が完全にフラットです。背面全体を覆うアクセサリも、単純な板の形状のもので足りるわけです。

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そして、iPhone 12シリーズは,11 インチiPad Pro (第1世代)と同種のデザインですが,背面のマグネットの拡張性を高めて洗練させているところに違いがあります。

iPhoneの場合も、背面をフラットにしたことで、背面全体を覆うサイズのアクセサリーを使えるようになります。
例えばMagSafeウォレットや、MagSafeバッテリーパックは、iPhone 12の最小サイズであるiPhone 12 miniの横幅いっぱいのサイズで設計されています。

Apple/iPhone 13 mini・iPhone 13

規格維持の重要性と難しさ

アクセサリーの規格は一度定めたら容易には変更できません。
ころころと規格が変わるようでは、ユーザーもサードパーティのアクセサリーメーカーも付いてこないからです。
そのため、定める場合はかなり慎重に行う必要があります。

MagSafeについては、iPhone 12、iPhone 13を見る限り、おおむね問題なく規格を維持できているようです。
ただ、iPhone 12の世代で登場したMagSafeアクセサリーの中には,iPhone 13での使用に支障が生じるものもあります。
iPhone 13で大型化したカメラユニットがMagSafeアクセサリーに干渉しているのです。

iPhoneの大まかなサイズ感やボタン類の仕様は固定化しつつありますが、カメラについては巨大化する一方で止まるところを知りません。
その影響がMagSafeの第2世代で早くも表れたようです。

Apple製品はその年度に発表されるモデルと翌年に発表されるモデルがある程度、並行してデザインされていると言われています。
それだけに、iPhone 12で策定したMagSafe規格に早くも問題が生じているというのは不思議な話です。
また、iPhone 13のカメラの仕様は2、3年前から決まっていたという話(https://iphone-mania.jp/news-406513/)もありますので、干渉が起こることは分かっていたのではないかと思うわけです。
そうであるにもかかわらず干渉が生じているということは、開発チームの連携に乱れが生じているのかも知れません。

そのほか、iPhone 14では、MagSafeのマグネットの位置が下方向にずれるという噂もあります。
iPhone 12 miniに相当するシリーズを廃止するなら、iPhone 12やiPhone 12 Proに合わせてMagSafeのマグネットの位置をずらしてもなんとかなるかもしれません。

MagSafeがiPhoneを変化させる

ともかく、MagSafe規格の登場によって、iPhoneは万人受けを狙いながらも、多様なニーズに応えられるスマートフォンになったのではないでしょうか。

いまやiPhoneは最もメジャーなスマートフォンと言っていいところまで成長しており、Appleは多種多様なユーザーを抱えています。
その結果、iPhone本体の機能は万人受けするものにせざるを得ません。
例えば、例えば取り外し不可のスタンドを組み込んだiPhoneは、一部のユーザーには喜ばれるかもしれませんが、ユーザーの多くは好まないでしょう。
大容量のバッテリーを積んで重く分厚くなったiPhoneなども同様でしょう。
しかし一方で、無難な機能しかない端末にはそれほど魅力がありません。
できれば人受けする仕様を維持しつつ、多様なユーザーの要望も応えたい。

そこで、取り外し可能なアクセサリーでスタンドやバッテリーの機能を実現すれば、必要な人だけが機能を使うことができるようになります。
それがMagSafeです。

MagSafeはiPhoneだけの規格なので、MagSafeでアクセサリーを揃えたユーザーはAndroid搭載スマホに乗り換えにくくなります(MagSafeを使えるようにするシールのようなものもあるようですが)。
エコシステムへの囲い込みという意味でも有効と言えます。

進化が少ないと言われるiPhoneですが、本体の機能は大きく変更しないままに、多様なニーズに応じて機能を変化させられるMagSafeは、うまい落とし所なのではないかと思います。


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