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連続ラジオ小説 「酒も」

「ガンを患い余命半年と医者に宣告されました。以来病室でこれまでの行いを振り返るばかりの毎日です。賽銭箱に百円玉投げたら釣り銭出てくる人生ってどんな人生なんでしょうか?私助からないんでしょうか?」

52歳男性の方からのお便りです。

心中お察しします。

賽銭とは祈願成就のお礼として神仏に奉納するものです。お供えした金銭のうち幾らか戻ってくることを期待するということは祈願成就に神仏の力が及んでいない、己の力で成し得たところが大きいと考えている、または神仏の力を認めているが金銭との交換率に不満がある、ということでしょう。賽銭を投じているのですから無神論ではありません。神仏への畏れを感じつつもその拝金主義に唾を吐く、あるいは畏れを恐れず自己を主張することで地元の鬼より怖い先輩(母親同士が仲良しで色々弱味を握っている)に軽口を叩く俺、のような自分を大きく見せる効果を狙っているのかもしれません。そういう人生です。

助かるかどうかは正に神のみぞ知る、でございます。

今朝の三曲目は吉 村嫌田先生の作品です。


「酒も」

季節はずれの
花吹雪
期待はずれの
舟券が
今日も誰かの夢を破り
宙を舞う

暖簾を潜れば
白眼鏡
馴染みの店の
湯気た鍋
相変わらずさ 外は寒いヨ
懐も


いつもの煮込みでいいから
つまらぬ話でいいから
最後は一人で帰るから

注いでくれ 隣が残した
その酒も

烏賊を炙って
出せばいい
鰹も炙って
出せばいい
炙れそうだと思うものは
出せばいい


アンタの煮込みでいいから
とにかく何でもいいから
最後は一人で帰るから

注いでくれ 隣の国の
濁り酒も






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