クアラルンプール (短編小説)
「ヴギ」という洋品店が昔あった辺りだろうか。
いつ来ても日暮れているような川のように緩やかに蛇行する商店街の端に、お誂え向きの朽ちた外観の喫茶店ができていた。歴史観光地にある色を抑えたコンビニみたいな揉み手ぶりが鼻についたが、そのついた鼻腔をくすぐる芳醇な珈琲の香りと不思議な店名に惹かれ立ち寄った。
流木をあしらった扉の取手を押し開けるとクラン川の流れは急となり押し寄せ、私は掴んだ流木諸共濁流に飲み込まれてゆく。
夕闇の川辺には褐色の屈強な背が座している。背中の男は原始的な青