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韓国ドラマ「恋人」に見る「月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ」

 韓国ドラマの中に大江千里が聴こえる。  黒縁メガネのほうじゃありません。百人一首のおおえのちさとです。  最終回、月を見上げて涙するジャンヒョン(ナムグン・ミン)の心は多分これだなと思った。  ドラマ「恋人」の主人公ジャンヒョンとギルチェは、実に風雅な恋人たちである。  1話の出会いの場面で、春香伝の春香よろしく、ぶらんこに揺られる両班のギルチェお嬢様は揺られながら「夢の中の郎君様に会える気がしました。目の前のすべてが緑色と桃色に輝いて見えました」と言っている。  素

    • 韓国ドラマ「恋人」にサブタイトルを付けるとしたら「わたしはユ・ギルチェ」

       メディアプラットフォームが作品の成功の鍵とも言われる時代だ。  潤沢な製作費が用意され、スター俳優、スター脚本家がフューチャーされる作品はそこそこ安心して観ていられる。  地上波3局が凌ぎを削っていた時代から、ケーブル放送局の台頭で韓国ドラマの世界がダイナミックに変わった時代を垣間見た私としては、最近の大手メディア頼りの作品に物足りなさを感じる。確かに完成度は高くなったし、作品もバラエティ豊かだが、安定は退屈を引き起こす。  「ドラマのMBC」と言われた地上波放送局MB

      • 映画「成功したオタク」に捧げる応援歌

         ひたすら愛おしく応援したくなるドキュメンタリーである。  この映画のオ・セヨン監督(当時まだ大学生!)は「ソンドク/성덕」と呼ばれる「成功したオタク」だ。  韓国では「成功したオタク/성공한 덕후」のことを略して「ソンドク/성덕」と言う。  「成功したオタク」とはただのオタクではない。推しに偶然会えた、推しに覚えてもらえた、そういうオタクのことを「成功したオタク」と言う。  彼女は推しに会う際には韓服を着て自己アピールに余念がないオタクだ。そして推しに覚えてもらいついには

        • 韓国映画「ソウルメイト]が描く     不自由からの逃走

           言葉は時に私たちを不自由にさせる。映画を観ている間、私の頭の中をよぎっていた言葉だ。  女性同士の親しい関係は友情なのか、愛なのか、はたまたクィアなのかとまで言われる映画「ソウルメイト」は、言わずと知れた中国・香港合作映画「ソウルメイト/七月と安生」の韓国リメイク版だ。  甲乙つけ難い両作品はセットで視聴されている流れにある。こういうのこそ二本立てにすれば良いのになと思う。大人の事情は知りません(苦笑)。 (ネタバレしますぞ) スーパーリアリズム絵画の意味  冒頭、

        韓国ドラマ「恋人」に見る「月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ」

          韓国映画「梟〜フクロウ〜」盲人と超人の間

           歴史小説や映画の出来は、歴史の空白部分をいかに魅力的な物語で埋めるかに掛かっている。思えば「本能寺の変」の黒幕もたくさんいるのだ(笑)  この作品が描く時代は、歴史上では明清動乱時代の李氏朝鮮16代国王仁祖(ユ・ヘジン)の息子である昭顕(ソヒョン)世子(キム・ソンチョル)は、丙子の乱終結以後、人質として8年清で暮らし朝鮮に戻って2ヶ月で毒殺されたことになっている。  映画は、盲人の鍼灸師ギョンス(リュ・ジュニョル)がその実力を買われ権力闘争の伏魔殿である宮殿の医院に仕え

          韓国映画「梟〜フクロウ〜」盲人と超人の間

          イジョンジェ監督「ハント」が投げかける灰色の世界

           2023年10月8日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模な攻撃を行ったというニュースが流れた。  パレスチナとイスラエルは共に和平を願っているはずだが、そう簡単に事は進まない。 (以下、ネタバレ注意) 韓国独裁政権下のスパイアクション映画は善と悪で語らない  ジェリさんことイジョンジェの初監督作品である。それどころか、製作、監督、脚本、主演までこなしている。しかも傑作だ。  韓国の第五共和国時代を描いたものは色々あるが、市民軍で

          イジョンジェ監督「ハント」が投げかける灰色の世界

          頭の天辺から爪先まで気になった“ヒップタッチの女王”

           とうとう最終回を迎えた「ヒップタッチの女王」。  ドラマが始まった頃は、そこかしこに埋め込まれた笑いの地雷を踏んでは大笑いして、脳天気にもこんな投稿をしていたのだが 思いのほか、犠牲者が多く、ムジン村で起きたテロ事件を見る様相になってしまった。 言いたいことはいっぱいある。  このドラマは小さなキャラクターにも息を吹き込んで描いていたので、それが善人であれ悪人であれ、次々亡くなっていくことが本当に胸が痛かった。特に一人ぼっちになったジャスティン、エラン、牛たち…のこと

          頭の天辺から爪先まで気になった“ヒップタッチの女王”

          帰ってきた“裏・私の解放日誌”???

          必死な人を笑ってはいけないプレッシャーが笑いを生む  ムジン村の人々は誰も彼も、どこか大様でそして能天気で憎めない。  そこに、ソウルから都落ち赴任をし、戻らなければならない野望を抱えた刑事ジャンヨル(イ・ミンギ)がやってきて、ひとり必死になるところから可笑しなことになる。  2023年8月からNETFLIXで始まった韓国ドラマ「ヒップタッチの女王/힙하게」です。  ムジン村は港町だ。韓国エンタメで描かれる港町は大抵、人も物も吹き溜まり、密航、密輸などの不法行為に溢れてい

          帰ってきた“裏・私の解放日誌”???

          2023.7.韓国行 ~LG アートセンター~

           今回の韓国行きは「ちょっと光州ビエンナーレに行ってくるわ」という気分で予定した旅だったが、ソン・ソック出演の演劇「木の上の軍隊」が発表され、行きがかり上、貧乏性の私は当初の予定に盛ってみた。もう山盛りの旅だ。貧乏性はビョーキです。  太平洋戦争終戦後約2年を、沖縄の伊江島にあるガジュマルの木の上で暮らした兵隊の実話を元にした井上ひさし原案、蓬莱竜太脚本による「木の上の軍隊」という演劇作品自体が相当に興味深いが、キム・ヨンジュン、イ・ドヨプ、ソン・ソック、チェ・ヒソという韓

          2023.7.韓国行 ~LG アートセンター~

          2023.7.韓国行 Vo.2 “仁川から光州へ”        

           「ちょっと光州にビエンナーレを見に行ってくるわ」が、やっと出来るようになった。一応、お目当てのポイントをチェックし、必要なものは予約をしたが、それにがんじがらめになるのも楽しくない。とは言いながらも、生来の貧乏性は「この際」というタスクをどんどん増やしていく。モリモリ旅行になってしまいました。旅のタスクって一体何なんでしょう?(苦笑)  そして2023年7月2日に出発して9日に帰ってきました。12日現在、私のリュックは戻ってきてません(笑) 意味のあるケチを追求すること

          2023.7.韓国行 Vo.2 “仁川から光州へ”        

          2023.7.韓国行 Vo.1 “日常は余白”

           2023年7月2日から9日まで約1週間の韓国旅の記録。 目的は光州ビエンナーレ  Covid19で時間が止まったようになった時、一番したかったことは旅だったと思う。コロナ禍が明けたら、念願だった「光州ビエンナーレ」に行こう、少し時間を作ってゆっくり韓国の地方を回ろう、そう思っていた。 貧乏性はトッピングが大好き  貧乏症な人間は、そのものの味わいだけでは物足りずにどんどんトッピングをして行く。  朝鮮についての本や韓国人が書いたブログなどを読み、点と点を繋ぎ合わせ線

          2023.7.韓国行 Vo.1 “日常は余白”

          わたしの「私の解放日誌」 Vol.3

          待ち続けてるいつもと違う明日  クさんはミジョンを待ち続けている。待ち続けるのはミジョンだけじゃない。「春になれば俺もお前も別の人間になれる」ことも待ち続けている。   OSTアルバムの中でドラマ中で2番目に多く使用されている(私調べ)、タイトルに「春」を冠した「私の春は/나의 봄은」でも「陽射しを浴びて夢を咲かせたい」と歌ってる。  「いつになったら春は来るのか」はこのドラマの重要な核のひとつになっている。  人間は森羅万象の一部  ところでヨム家のあるトンネ(町)

          わたしの「私の解放日誌」 Vol.3

          「私の解放日誌」 OST「私の春は」

           「私の解放日誌」の監督や作家に聞きたいことがある。OSTの歌詞は誰が書いたの?インタビューで誰か聞いてくれないかなとずっと思っていたけど誰も質問してくれないです。ビハインド(裏話)すらコンテンツにする生き馬の目を抜く激しさのK-コンテンツ。誰か聞いてはくれないか。  そのくらい「私の解放日誌」においてはOSTは台詞を補完する役目を果たしている。ここまで歌詞がリンクしている作品はあんまり知らないです。言うほど韓国ドラマを観ているわけではないけど。  というわけで、ドラマの中

          「私の解放日誌」 OST「私の春は」

          わたしの「私の解放日誌」 Vol.2

          みんな生まれ変わりたい  「生まれ変わったら一緒になろうね」と言ったのは聖子ちゃん。簡単には生まれ変われないから別の人たちと一緒になったのは別の話だ。  モンタギューとキャピレットという名家の名が障壁になり、ついに服毒という転生パフォーマンスにまで及び伝説の悲劇になるのは「ロミオとジュリエット」。ここではそう簡単に家を捨てられないことが問題だ。  近松門左衛門の「曽根崎心中」のお初と徳兵衛も来世で結ばれることを誓って心中して心中ブームを巻き起こす。  極端な選択を選んだ市川

          わたしの「私の解放日誌」 Vol.2

          慶州ノート4 2023年3月

          6:00AM 朝の散歩  早起きなんだよ、どこに行こうが。連れはまだ就寝中だったので、そっと起きて外に出る。昨夜は月が見えなくて残念だったが、月精橋は朝日を浴びていた。逆光状態もまたいいじゃないのと、川っぷちを歩く。ほんとにこのマウルは静かで人の気配がしなくていいな。  え?なに〜〜〜?この立て看板は!  “赤毛のアン”の “恋人たちの小径” みたいな?(怒)  誰もいない川っぷちで朝の散歩をする私に喧嘩売ってんのか(怒)  人間は独立した一個の人格であり愛し合ってても一

          慶州ノート4 2023年3月

          慶州ノート3 2023年3月

           慶州を舞台にしたチャン・リュル監督の映画「慶州」では、死と生、現在と過去、そして韓国、中国、日本という3国の文化が綾をなしている。  孔子の末裔であるというシン・ミナ演じる未亡人ユニは伝統茶屋を営んでいて、そこでは中国茶を淹れている。北京の大学で教授職にあるパク・ヘイル演じるヒョンは中国人と結婚し中国語も日本語も話す。その店にやってくる韓流ファンの日本人観光客は茶屋を後にする時、先の戦争について謝罪をしていくが、そこには静かで暖かい空気が流れている。  映画「慶州」では、一

          慶州ノート3 2023年3月