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 新感覚ユートピアスリラームービー 『Don't Worry Darling』

⓪まえがき

 私は小学生の頃からワンダイレクションが好きで、そのメンバーのハリースタイルズが『ダンケルク』、『僕の巡査』に次いで『Don't Worry Darling』に出演した映画を早速観てきたので感想を書いていきたい。
 この映画はオリヴィア・ワイルドの監督作品の2作目である。一作目はというと、『ブックスマート〜卒業前夜のパーティーデビュー〜』という青春コメディで登場する二人の友情物語といった内容であったため、ホラー/スリラーの映画と聞いて彼女の振り幅に驚くと共に、どんな映画に仕上がっているのか楽しみで、心を躍らせた。

※ネタバレあり

①至高、理想、幸福

  舞台は1950年代のアメリカのとある砂漠に作られた小さな町。夫は毎朝同じ時間に各々の車で街外れの本部まで出勤し、妻は家事をして夫の帰りを待つ。快感を覚えるほど理路整然と家や車が並び、家の中も妻によって片付けられていた。日中、夫は働き妻は家事を終えるとご近所さんたちとプールでバカンスの様に優雅にくつろぐ。夫が帰ると、妻が作った豪華な夕食が綺麗に並べられているがそんなことはそっちのけで二人は愛し合った。(日本でいう「ご飯にする?お風呂にする?それとも私?」的な)妻はセクシーな格好で夫を待っていたし、嫌がる様子もなかったため、毎晩こうしているのだろう。この時私はいわゆる「幸せ」な世界が描かれていると思っていた。しかしそれはある意味正解であり、間違いであったのだ。

③アリスの疑い

 夫は冒頭で触れたワンダイレクションのハリー・スタイルズ演じるジャック。妻はミッドナイトサマーで陽の目を浴びたフローレンス・ピュー演じるアリス。主人公であるアリスは禁止されていた本部へ行った時から始まった幻覚や町の異変を訴えたマーガレットの自殺などにより、マーガレットと同様に異変に気付き始めた。 ここで私はこの映画のテーマは「社会に押し付けられている価値観の真偽」なんじゃないかな、と安直な考察をしていたがとてもそんなもんじゃなかった。

④だいどんでん返し 「仮想世界」と「現実世界」

 しかし実際のところ21世紀のアメリカでははジャックは小汚いニート。アリスはジャックと同居し、外科医として激務をこなしていた。ジャックはアリスに食わせてもらってる様な状態であり、仕事から疲れて帰ってくるアリスには構って貰えずにいた。それに嫌気が差したジャックはアリスを仮想空間に誘拐し、精神操作をして理想の専業主婦として従えていたのだ。この世界はジャックの手によって連れてこられた”ジャック”にとっての理想の仮想世界であり、アリスにとっては理想、幸せではないのだ。①の世界観に私は快感を覚え、憧れた。しかしこれは非常に自分勝手な世界だということに気付かされた。ジャックにとっての幸せという意味では正解、アリスにとっての幸せという意味では間違いだったのだ。ジャックの幸せは「男は仕事に価値を置く、女は働く夫の癒しであり、従順な妻として家事をこなす」といった現代の考えとは程遠く、男の独占欲にまみれた「古い」考えだった。結果的に、アリスはよくジャックが口ずさむある鼻歌で現実世界の記憶を少しずつ甦らせ、ジャックを置いて現実世界に戻ることに成功した。

⑤あとがき

 私はこの作品を通して現在を生きる「男」として再認識するべきことに気付かされることがあった。欲望のままに生きてはならない。力の弱いものに自分の価値観を押し付けてはならない。当たり前のことだがしっかりと認識、理解できていないことがまだあるはず。人々は間違った歴史を続けてきた。現代に生きる人々は是非観るべき作品だと思った。ジャンルとしては社会派スリラー映画に類されるだろう。ジョーダン・ピール監督の「Get Out」や「Us」に似た感覚を得た。「マリリンモンロー」や「ヴィクトリーロール」といったキーワードが相応しいバレエダンサーを起用したジャンプスケアやジョンパウエルが奏でる音楽に恐怖を感じる新感覚ユートピアスリラー。フローレンスはもちろんクラシックスタイルのかっこいいハリー演技にも注目です。


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