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空気呼吸器が怖い消防士 その4【勉強編】

仲間の消防士を救えずして、消防士は語れない

空気呼吸器が怖い。これは消防士にとってとてもつらい事です。
「職場で素直に話せる環境を醸成し、チームで解決すればよい。」確かにその通りなのですが、その環境がない消防士も多いのではないでしょうか。

その場合、空気呼吸器で苦しむ消防士は、様々な不安と戦いながら個人で戦うことになってしまいます。次第に職場での会話も少なくなり、笑顔もなくなり、職場に行くのもつらくなるでしょう。

消防士は火災現場に取り残された”要救助者”を救うのが目的の一つです。急病人に対していち早く駆けつけ、応急処置を行なって病院へ搬送もします。交通事故で運転席から動けなくなった怪我人を、特殊で大きな機械を使って救助するのも仕事です。

社会的に弱くなってしまった方を助けるのが僕たち消防士の役割です。その僕たちは、少なくとも健康でなければなりません。

そんな中。消防士の彼がある壁にぶつかって不安に包まれている。

仲間の消防士を救えずして何が消防士か。

私はそのように考えました。もちろん彼を助ける事が、翻って僕自身を助けることにつながるかもしれません。そんな期待も持ちながら、行動を起こしてみれば、何か状況を変えることができるかもしれないという想いでまずは自分で勉強してみることにしたのです。

勉強を進めていくと、どうやらこの症状は限局性恐怖症だったり、特異的恐怖症と呼ばれたりすることが分かってきました。

疫学的特徴

1 一般人口のおよそ1〜3%と、高い有病率を持つ

第一印象として多いなと思いました。100人当たり1〜3人ですから、私の職場でも何かしらの症状を抱えている人が10人程度いるということになります。空気呼吸器が怖いという方ばかりではないでしょうが、ここでしっかり勉強しておけば、この経験がいつか役に立つ時が来るかもしれないと私は前向きな気持ちになれました。

2 女性が男性のおよそ2倍多い

理由についてはよく分かりませんでした。女性は子供を育てるために防御的な思考が強いと聞いたことがあるので、都合が悪くなる状態を未然に避ける能力が高いのか・・・と勝手に想像しています。

3 典型的には青年期に突然現れる

これはその通りでした。彼にも僕にも当てはまります。僕も以前は空気呼吸器のマスクを付けて、訓練を普通に行なっていましたし、火災現場でも使っていました。そもそも指導的な立場なので知識としても詳しい方です。装着の仕方や注意点を日々訓練していました。彼も同様です。救助大会という想定を消防本部で競い合う大会がありますが、その中で空気呼吸器を使用していました。当時はなんともなかった。むしろ”空気呼吸器はトモダチ”だったと言っています。僕も彼も、その時は突然やってきました。

典型的な症状

1 発作

”突然、動悸がしてきて強い不安に襲われる”とあります。僕や彼の場合は動悸はありませんでした。ただし強い不安は空気呼吸器のマスクを装着した途端に生じました。ただ立っているだけなら、5分程度は我慢できる不安だと思いますが、呼吸が苦しくなってくる感覚が次第に強くなります。僕も彼も典型的な発作であったと言えそうです。

2 予期不安

繰り返しこの発作が生じるので、”同じことをするとまた苦しくなるのではないか”といつも不安を感じる。とあります。僕も当てはまる部分でした。消防士にとって、空気呼吸器を使用する訓練は頻回に行われます。消防士の命を守るものですからね。彼もその訓練がある度に、「どうしよう・・・。」と思っていたそうです。

3 回避行動

例えば、閉所が怖いであれば、”バスに乗るのが怖いために外出することができなくなる”といったような行動が現れるとあります。僕はこの症状を自覚した後、すぐに症状改善のための行動に映ったので、心の内に隠して長年仕事をしていたわけではありませんでした。だから僕に回避行動の経験はありません。しかし彼に聞くと、自ら空気呼吸器を使用する訓練を企画する事はなかったし、たとえ訓練があったとしても、マスクを付けなくても良い状況を作っていたと言います。まさに回避行動と言えるのではないでしょうか。

4 機能障害

”職場を休職するなど、具体的に生活に支障をきたしている”とあります。幸い、僕も彼もそのような状態ではありません。しかし不安になる相手が消防士の代名詞である空気呼吸器ですからね・・・。その装備が使えないとなると、気分が落ち込んでしまうのは当然ですし、そのままにしておくと休職や退職といった考えも浮かんでくるのかもしれません。僕はそのような消防士を救いたい。

ここまでの典型的症状をみると、どうやら僕も彼も、限局性恐怖症であったり、特異性恐怖症という分類に当てはまりそうです。もちろん正確に知るためには病院を受診する必要はあると感じます。

日本語版での標準化がなされている評価尺度としては、以下があるようです。重症度を点数化できます。
http://www.jscnp.org/scale/scale.pdf

信頼性を検討する原著論文「患者用Panic and Agoraphobia Scale日本語版の信頼性および妥当性」では、心理士さんによる心理教育を行い、症状の理解を深めてもらう事で、この評価尺度は十分な信頼性があるとされています。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsad/9/1/9_17/_pdf/-char/ja




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