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風景が変化しないときこそ、記録から変化を捉える|6/21〜6/25

コロナ禍の日々の記録。平日の仕事を中心に。土日祝は休みます(例外あり)。2020年の1回目の緊急事態宣言の最中にはじめた日記はこちらから。3回目の緊急事態宣言解除の日から再開。しばらく続けたい。

2021年6月21日(月) 自宅

終日在宅勤務。この1年で通勤の混雑を回避する「時差通勤」が推奨されることで、勤務時間のバリエーションが増えた。在宅勤務では8時始業のA勤を使うようになった(出社時は9時半始業のB勤を使っている)。そう、この1年で変わったことは、いろいろある。
おもむろに日記を再開してみる。今日であることに理由はない。けれど、この頃は記録をしておかないといけないという焦燥感だけは高まっていた。何度か再開しようと思いつつ、きっかけを探していた。でも、そんなきっかけはない。そんないまだから、記録をはじめないとならない。
状況に「慣れた」という言葉を、よく使うようになった。ワクチンの接種がはじまり、どこかで「終わり」を期待するようになった。明確な区切りがないままに、なんとなく終わっていて、あっという間に「以前」に戻ってしまうのではないかという危機感もある。いまも変化の渦中であるのだろう。どんどんわかりづらくはなっているけれど……。
体感的な変化が小さくなるときこそ、記録が有効になる。むしろ、記録からしか変化を捉えられなくなる。これは東日本大震災後の東北にかかわったことからの学びのひとつだ。
「写真からは変化が捉えにくくなってきた」。その呟きを聞いたのは、震災から数年の時間が経ったときだった。震災直後から写真でまちの風景を記録してきた。でも、最近の代わり映えのしない風景に、シャッターを押す動機は減っていった。どう記録を撮り続ければいいのか。その方策を考える場に立ち会ったとき、そんなときこそ写真を見比べることで微細な変化を捉えられることに気がついた。風景が変化しないときこそ、記録からその変化を捉える必要があるのだ、と。

池田小事件から20年、大阪府北部地震から3年、雲仙普賢岳の噴火から30年……。そうしたニュースにふれるたび、1年前の日記を思い出していた。日記には、過去の出来事を意識的に記すようにしていた。そうした行為が、過去の出来事を身体に馴染ませていたのだと実感するようになった。
「毎日が何か記念日で、すべてを覚えていたら大変だ」。少し前に、日々いろんな出来事がありますねと話していたら、そんなような言葉が返ってきた。本当にそうだと思う。一方で、出来るかぎり思い出したいなという気持ちもある。日々を記すことで思い出す。でも、経験したものではないから、厳密にいえば思い出すというより、かつてあったことを知る……そこまでいかずとも、思いを馳せることくらいはしたい。なんでか? なんでだろう? 「すべき」ではない理由を考えたい。
今日はオンラインミーティングがなかった。Tokyo Art Research Lab(TARL)のディスカッションシリーズの準備を進める。Slack、メール、メッセンジャーを駆使し、細かいやりとりと作業を重ねる。気忙しいときこそ、小さなタスクをこなして達成感を積み上げる。明日から日記は短めでいきたい。
昨日まで3回目の緊急事態宣言の最中だった。オリンピックは観客上限を会場定員の50%以内で最大1万人とすることが決定。会期中に緊急事態宣言の場合、無観客も検討。東京都の新規感染者数は236人。先週から27人増。

2021年6月22日(火) 市ヶ谷

財布を家に忘れる。スマホのSuicaがあれば大丈夫。Paypayだってある。午前は係会(注:東京アートポイント計画のスタッフ定例会)。少し前から毎週火曜日、始業後すぐの9:45からはじめることが定例化した。6月で第1四半期が終わってしまう。今年度はより一層の事業の進捗共有や、それを促進するツールづくりを試みている。プログラムオフィサーが、どうかかわるのか? この頃、頻繁に飛び交う台詞だが、その意識化も目的としている。
『令和2年7月豪雨REBORN PROJECT』にかかわる展示が、八代市立博物館未来の森ミュージアムではじまったというFacebook投稿を目にする。もともと、このプロジェクトやその中核で動く写真家の豊田有希さんのことは、熊本市現代美術館学芸員の坂本顕子さんの書いた記事で知った。それから、Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021のリレー日記を坂本さんに書いていただいたときには、熊本市立現代美術館の展示についてふれられていた。遠距離移動を控えざるをえなかったため展示は見逃したけれど、ずっと気にかかっていた。最近になってREBORN PROJECTのドネーションブックをオンラインで購入し、それから豊田さんご本人に問い合わせて、写真集『あめつちのことづて』を譲っていただいた。そのとき、次の展示を準備中だという話もきいた。そして、来月からはじめるTARLのディスカッションシリーズでは、坂本さんをゲストにお招きし、熊本でのさまざまな災禍とのかかわりについて話をしてもらう。こういう連鎖は意識的につくっていきたい。

東京の新規感染者数は435人。先週に比べて約100人伸びた。今日もまちの人出は日常と変わらなかった。つまり、多いのだろう。都知事が過労で入院というニュース。オリンピックは1ヶ月前を迎える。

2021年6月23日(水) 自宅

終日在宅。曇り空で涼しい。午前中は昨年度のアーツカウンシル東京全体の事業報告書の校正に集中する。担当事業分を確認していると、どの事業にも「コロナ禍の影響で……」という言い回しが登場する。大体が事業のやりかたをオンラインに変えたこと、人と人との関係づくりにつながるコミュニケーションが困難であるという話になる。
昨夜、熊本市現代美術館から配信されていた「災害時のアートインフラを考える」の動画を見る。東京藝術大学のI LOVE YOU プロジェクトの一環。全体の進行は先日、熊本市現代美術館の館長に就任した日比野克彦さん。冒頭は企画した藝大生の上川桂南恵さんが動機を話す。大学進学のときに熊本地震を経験し、令和2年7月豪雨は熊本で体験した。それによって「コントロールできないもの」をいれて絵を描くようになったのだという。その後から、対話相手が次々と登場し、日比野さんと話をしていく。動画だと、これくらいのテンポがちょうどいい。館長就任以前から日比野さんが熊本市現代美術館とのかかわりのなかで築いてきた関係性が滲み出てくるような内容だった。地震や豪雨、そしていまはコロナで休館中の美術館が積み重ねてきた活動が透けてみえてくる。災禍の「以後」に現れてくるものは、よいことも悪いことも「以前」のこと。改めて、そのことを考えさせられる。TARLディスカッションで坂本さんをゲストに呼ぶときも、この「以前」と「以後」の地続き感を参加者とも共有できるといいのだろうなと思う。そんなことを頭に入れつつ、TARLディスカッションの広報用のテキストなど素材を整える。
今日は沖縄「慰霊の日」。緊急事態宣言下のため、慰霊祭は規模縮小。朝からニュースをちらほら見かける。数日前にひめゆり平和祈念資料館がコロナ禍での運営への支援を求めるツイートが反響を読んでいた。それに絡めて、ライブやツイートをする沖縄出身のミュージシャンも多い。夜のYahoo!ニューストップはコロナ関連で埋まっている。イギリスのG7開催地では感染拡大か。政府はワクチンが足りなくなる可能性があるため、25日に職域接種の一時停止を発表。東京都の新規感染者数は619人。先週から118人増えた。

2021年6月24日(木) 国立→市ヶ谷

朝から国立駅に向かう。今年度からはじまった事業「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」の現地調査へ。その場を管理する会社の方に電源の有無、周囲の音や住民の様子、今後の利用計画など制約条件を確認しながら、現場をうろうろする。途中、急に大粒の雨が降りはじめ、JR中央線の高架下で雨宿りをする。大きくせり出したコンクリートが庇(ひさし)のようで、ちょうどいい。遠くの空は明るい。「もう熱帯ですよね……」「通り雨のようですね」とスマホで雨雲を確認しながら会話をする。雨雲レーダーの予測通り、数分後に日差しが戻ってくる。
その後、今後の動き方の打合せをしてから、ACKTの中核メンバーである丸山晶崇さんが運営するMuseumshop Tに立ち寄る。展示や店内の商品を見ながら、しばらく、丸山さんと立ち話をする。こうした何気ない会話に生きた情報がある。が、減ったなぁ、こういう場面。
国立から市ヶ谷のオフィスに移動し、そこからはパソコンに向かう。連絡と書類作成。ほとんどの作業は、このふたつに尽きる。
宮内庁長官が「天皇陛下 五輪開催で感染拡大 ご心配と拝察」と発言。それに対して官房長官は「宮内庁長官の考え」と発言。東京都議選が告示開始。東京都の新規感染者数は570人。5日連続で前週の同じ曜日の数を上回った。リバウンドという言葉がにわかに飛び交いはじめる。7月8日頃に政府は緊急事態宣言やまん延防止措置の今後を決める予定だという。

2021年6月25日(金) 市ヶ谷

午前に打合せがあるため、心持ち早く出社する。とはいえ、いつもより数分早いくらい。あれこれとパソコンに向かって作業しているうちに、発信事業のミーティングの時間になる。今年は月1回、プログラムオフィサー全員参加で、きてん企画室の中田一会さんにアドバイスをもらいながら、東京アートポイント計画の情報発信強化に取り組んでいる。共催団体が発信すべきこと、東京アートポイント計画として発信すべきことを考える。
どの側面を、どういう方法で、どのメディアを使って発信するのか? それは東京アートポイント計画が何に価値を置いていくのか? という問いにつながっている。ああだこうだと知恵を絞る。全9事業にふれるつもりが、3事業くらいで終わってしまう。
午後は、東京アートポイント計画の今後を議論する戦略ミーティング。どのような領域にアプローチし、どう新しい人たちと出会っていくのか? 構想に具体性をもたせる情報が足りない。身体が追いついていない。
続けて「ラジオ下神白」のメンバーでのZoomミーティング。これまでのプロジェクトの歩みを踏まえたアウトプットについて議論する。ディレクターのアサダワタルさんから「実録」と「ドキュメント音楽」という言葉が出てくることで、みんながこれからつくろうとしているものの方向性に納得する。
東京都の新規感染者数は562人。3日連続で前の週の同じ曜日から100人以上増加。

(つづく)

▼ 1年前は、どうだった?(2020年の日記から) 

Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021「2020年リレー日記」。1年前の6月の書き手は、是恒さくらさん(美術家)→萩原雄太さん(演出家)→岩根愛さん(写真家)→中崎透さん(美術家)→高橋瑞木さん(キュレーター)でした。