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渋谷でみた夢

最寄り駅におりて、ガールズバーやスナックが立ち並ぶ路地を横目に、帰ってきたくなかったと思っていた。道端に落ちるコーヒーの空き缶やコーラのペットボトルがおかえりなさいと私に言う。ひとりになった瞬間にいつもこの街は惨めに映る。
白いパンプスにできた細かい傷や、イヤリングの金具の痛みが、今になって主張を始める。
さっきまでの公園の緑も、夕日の朱色と金も、渋谷に広がる光の筋も、ラーメン屋の壁のべたつきさえも、現実じゃなかったような気がする。
帰りの電車に揺られながら、だんだんと引き戻されていく感覚はたしかにあった。門前仲町を過ぎたあたりで、その境界線ははっきりした。わたしは現実を知る。私にも、あの男にも、もう色めくような淡い時間は訪れない。
だけど、ぼんやり残ったぬるま湯の中みたいな心地よさは、その夜わたしをよく眠らせた。

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