はぐはぐ犬 2
「わんちゃ〜ん!」
泣き声にも似た坊っちゃんの声が聞こえます。
はぐはぐ犬は、急いで坊っちゃんの声がする方へ走っていきました。
涙で頬が汚れた坊っちゃんがはぐはぐ犬をきょろきょろと森の中を探しています。
そんな坊っちゃんの姿を見つけると一目散にはぐはぐ犬は坊っちゃんに駆け寄りました。
「わんちゃん!」
「坊っちゃん!」
「ごめんなさい!」
2人同時に言います。
はぐはぐ犬は、坊っちゃんの頬を舐めてあげます。
「わんちゃん、ごめんね。ママもわざとじゃなかったんだよ。」
坊っちゃんの瞳からはどんどん涙がこぼれます。
「わんちゃん、出てきてくれないかと思ってた。」
その言葉を聞いて、はぐはぐ犬の胸がドキン!としました。
はぐはぐ犬は、涙を舐めるのをやめて言いました。
「坊っちゃん、帰りましょう。」
坊っちゃんはにっこり笑いました。
たんぽぽ色に染まる町の中、一人と一匹は並んで歩いています。
坊ちゃんの家が見えてきました、ママさんが家の前で心配そうにしていて、1人と1匹を見つけると、慌てて駆け寄ってきました。
「わんちゃん!」
そう言うと、ママさんがぎゅっとぼくを抱きしめました。
ぼくの心はドキンドキンとなって、ポロポロ、ポロポロ涙が出ました。
「ぼ、ぼく、、、、ごめんなさい。」
「ちがう!ちがうの!ごめんなさい、わんちゃん!」
ママさんの体はとっても熱くって、ぼくの涙がぐっしょりぼくの毛について、熱が出たみたいにぼーっとしてしまいました。
と、そこに
「ただいまー!、って何があったんだい?」
パパさんが仕事から帰って、家の前で抱き合う1人と1匹とその横で困った様に立っている坊ちゃんを見て言いました。
「ママがね、朝、草取りをしてくれたんだけど、うっかり、わんちゃんが大切にしていたわんちゃんの家の周りの草を抜いてしまって、わんちゃんがそれを見て怒って出て行っちゃって、ぼくが探しに行って、今ちょうど帰ってきたところなの。」
ぼっちゃんが一息に起こった事をパパさんに話しました。
「うーん。そうかぁ、そうかぁ、」
パパさんはそう言ってなぜか笑っています。
パパさんのあったかくて大きな手が、ママさんとぼくの頭の上に優しく置かれました。
「2人とも、涙と汗でぐしょぐしょじゃないか、取り敢えず、家に入ってお風呂にでも入ろう。」
にっこり笑ってパパさんは言いました。
「ね、ママ、泣き止んで、みんなで一緒にお風呂に入ろうよ。」
坊ちゃんもママさんに言いました。
それでも、ママさんはくすんくすんと泣いて顔をあげません。
「ママ、そんなにぎゅっと抱いてちゃわんちゃん苦しいよ。」
ぼっちゃんが小さな手をママさんの手に重ねて言いました。
「う、うん、そうね。」
ママさんはやっと顔をあげました。
すると、ママさんの顔を見てパパさんとぼっちゃんが笑い出しました。
ぼくもママさんの腕の中から、ママさんの顔を見て思わず笑ってしまいました。
そんな、2人と1匹を見てママさんは
「なによ!なによ!そんなに笑わなくったっていいじゃない!本当にとっても反省したんだから!」
また、ママさんが泣きだしそうになってぼっちゃんが慌てて言いました。
「ちがうよ!ママ!ママのお化粧が取れてぐちゃぐちゃになってとっても面白いんだよ!玄関の鏡を見てごらんよ!」
家に入って、玄関の鏡をママさんが恐る恐るのぞき込むと、そこにはとんでもない顔のママさんが映っていました。
そして、ぐちゃぐちゃの自分の顔を見てママさんも思わず笑いだしました。
山田さんちから、何やら楽しそうな笑い声が聞こえます、笑い声はそのうちお風呂場から聞こえてくるでしょう。
今日もよく頑張ったね。
おやすみはぐはぐ犬。
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