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#ネタバレ 映画「マルサの女」

「マルサの女」
1987年作品
心は小ならんことを欲し、胆は大ならんことを欲す
2018/4/9 8:49 by さくらんぼ(修正あり)

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

市区町村役場の職員にも「向いている人、向かない人」があります。あれは事務職だと思っている方が多いと思いますが、ある意味、彼らは「営業職」です。

電話で、窓口で、実地調査で、たくさんの初対面の、さまざまな階層の老若男女と、一日中接しながら仕事をしているからです。

だから、それが苦手で、引きこもってコツコツ事務だけしていたい人が役場職員になると、仕事をする以前に苦しむことになりかねません。もちろん、営業は自分に向いてないと思っていても、やってみたら、意外と向いてた、と思う人もいますが。

たしか村上龍さんの「13歳のハローワーク」にも、「人と接することが、苦にならない人が向いている」という趣旨の事が書いてあり、「さすが先生!」と思った記憶があります。

そして、映画「マルサの女」。

これも参考になります。別に税務署職員でなくとも、あのヒロインのように、繊細に、大胆に、どこでも物怖じせず、平気でどんどん入って仕事ができるような、(なにわのおばちゃん、みたいな)人が向いているのです(失礼)。

「  最後に、この言葉で締めくくりたいと思います。

心は小ならんことを欲し、胆は大ならんことを欲す。

心は細心に、そして、謙虚に。肝っ玉は、大胆に。国家公務員の仕事は、国の骨格をつくる仕事です。仕事の結果は国民全てに影響が及びます。我が国を代表して各国と交渉を重ねることもある。生易しいものではありません。」

(  平成30年4月4日 第52回 国家公務員合同初任研修開講式 安倍内閣総理大臣訓示 より抜粋  )

★★★★☆

追記 ( 仕事の結果は国民全てに影響が及びます )
2018/4/9 17:16 by さくらんぼ

先日のニュースで、「申告漏れがあり、税務署から追徴され、(追徴分の収入の元になった)顧客に謝罪した会社」がありました。でも、顧客に謝罪するだけで良かったのでしょうか。その税金は全国民への行政サービスのためにあるのです。

精力的に働けば働くほど、顧客から嫌われる仕事があります。かつて「西郷さん」もやっていた税務職員等です。

そんな税務職員等は、何を心の支えにしているのかと言えば、それは、「大多数の真面目な納税者(国民)が、味方になってくれているという思い」です。

追記Ⅱ ( 愛憎の念 )
2018/4/10 9:46 by さくらんぼ

映画のラスト、脱税を見つかった男が、ヒロインに、「今んとこ(マルサを)辞めて、俺んとこ来ないか」と誘うのです。これにはヘッドハンティングだけでなく、微かな恋愛感情も漂っています。

無表情で男を見つめ、黙ったまま、ゆっくりと首を横にふるヒロイン。

すると、男はポケットから、女物のハンカチを取りだしました。それは、かつてヒロインが税務調査の際、男の家に忘れたもの。

男はナイフを取りだすと、自分の指先を切り、滴り落ちる血で、そのハンカチに数字を書いたのです。驚くヒロインにそれを渡し、「貸金庫のナンバーだ、3億円ある」と言いました。

あれは何だったのでしょう。

映画の前半にヒントはあります。

男が愛人たちとHをしたあと、ティッシュを何枚もとって、女の股間へ。女はティッシュを挟んだまま、すっ裸でバスルームへ行きました。

事が済んだ後は、隠し通帳の保管の話題になります。通帳は愛人が隠し持っているのです。

再び映画のラストに戻ります。

男はヒロインを新たな愛人にして、(金には不自由させない、とでも言いたげに)3億円を隠蔽しようとしたのです。指先は男性のシンボル、血は体液、ハンカチはティッシュ、あれは屈折した男の愛憎の念だったのかもしれません。

余談ですが、映画「パッチギ」では、ヒロインが敵対グループから、(記号化された男性のシンボルである)万年筆のインクをかけられ、大げんかになりました。

追記Ⅲ ( プロポーズ ) 
2018/4/12 8:52 by さくらんぼ

>映画のラスト、脱税を見つかった男が、ヒロインに、「今んとこ(マルサを)辞めて、俺んとこ来ないか」と誘うのです。これにはヘッドハンティングだけでなく、微かな恋愛感情も漂っています。

>男はヒロインを新たな愛人にして、(金には不自由させない、とでも言いたげに)3億円を隠蔽しようとしたのです。…(追記Ⅱより)

私は「愛人」と書きましたが、これは「結婚してくれないか」と、言っていたのかもしれません。プロポーズです。

男は片脚が不自由のようで、歩くと体が大きく揺れました。(誤解の無きよう申し添えますが、私はこのような方に差別感情は持っておりません。これからお話しすることは、あくまでも映画の記号論のつもりです。)あの脚は、男の生きざまが真直ぐではない、つまり堅気ではない記号なのでしょう。

それに対して、彼の子どもは、真直ぐな性格をしていました。だから、親子の中が良くありません。男はそれを、内心悩んでいました。

そんなところに、ヒロインが言ったのです。

「子どもの事を考えるのなら、財産を残すより、あなたのたくましさを、残すことを考えた方が良いわ」と。

男は父子家庭、

ヒロインは母子家庭です。

その時男は、雷に打たれたように気づきました。

「この女は、俺たち親子の財産になる」、と。

真直ぐなヒロインが、子どもの母親になってくれたら、それが一番子供のためになるし、自分も、そして自分と子どもの関係も、再生できるかもしれないと。

だからプロポーズした。

3億円は結納金だったのです。

追記Ⅴ ( 放てば手に満てり )
2018/6/18 8:16 by さくらんぼ

>その時男は、雷に打たれたように気づきました。

>「この女は、俺たち親子の財産になる」、と。

>真直ぐなヒロインが、子どもの母親になってくれたら、それが一番子供のためになるし、自分も、そして自分と子どもの関係も、再生できるかもしれないと。

>だからプロポーズした。

>3億円は結納金だったのです。(追記Ⅲより)

滞納者との信頼関係など、あまり築こうとは思わないクールなヒロイン。

しかし滞納者の子どもには優しく、彼が失踪した時には、本当の親のように心配して探しまわりました。さらには、「子どもの事を考えなさい」と滞納者に説教まで。

でもその滞納者からは、皮肉にもしっかりと信頼されたのです。事実上の「プロポーズ」までされたのでから。

追記Ⅵ (「刑事コロンボ」の洗練 )
2018/4/13 15:43 by さくらんぼ


映画「マルサの女」の、ヒロインの仕事ぶりは真直ぐです。しかし、それは「仕事ぶりが若い」ことと表裏一体。

映画の前半、(違法とは知らずに)「自家消費」を売り上げに計上しなかった老夫婦に、ズバズバ注意しているシーンがありますが、法律を知らない人には、「優しく諭す、ゆとりがあればなぁ」と思いました。

公務員の実地調査として、理想と考える一人に、「刑事コロンボ」があります。友だちの家に遊びに来たかのように、リラックスして、雑談までする。そして帰り際に、思いだしたように、笑顔で質問をし、感謝して帰って行きます。

「わざわざ公務員が実地調査にやってきた」というだけで、相手は「要件・事の重大さ」が分かっているのです。まずは雑談でもして緊張をほぐし、それなりの人間関係を作ってから、思いだしたように仕事の質問をするのも、場合によっては良いと思います。

よれよれのコートに騙されますが、彼は老練で、洗練された調査テクニックの持ち主なのかもしれません。

きっと彼は叩き上げの警察官。長年苦労をして、やっと自分なりの手法を身につけたのでしょう。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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