#ネタバレ 映画「アルキメデスの大戦」
「アルキメデスの大戦」
2019年作品
3.11への鎮魂歌
2019/7/29 16:55 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
あれ以前には原発の安全神話がまかり通っていました。
誰も見たことがない巨大津波の存在を、信じられない者も多かった。
そして、歴史に残る20,000人近くの死者・行方不明(震災関連死を含む)と、放射能汚染により国土を失うほどの甚大な被害を出した日本ですが、それが人々の防災意識を大きく変えたのです。
今も原発は存在していますが、規制がより厳しくなり、津波に対する国民の意識も厳しいものになりました。
映画「アルキメデスの大戦」に描かれている「戦艦大和」とは、深層的には「原発」であったのかもしれません。
これは3.11への鎮魂歌でもあるように思います。
冒頭の戦闘シーンは今まで観た戦艦映画の中でも一二を争う迫力ですし、それから始まる、主役たちの苦悩の頭脳戦も見ごたえがありました。
★★★★☆
追記 ( 映画「新聞記者」 )
2019/7/29 17:05 by さくらんぼ
そして、もう一つ思いだしていたのが、映画「新聞記者」です。
民間人ではない若者たちが中心になり、秘密をあばく戦いをする点で似ていました。
しかし、時代背景が違うと、これほどカラーの違う物語になるですね。
後味は両者とも甘くはありませんでしたが。
追記Ⅱ ( ショートカットをさがせ )
2019/7/29 17:25 by さくらんぼ
そして、もう一つ感じたのが、トレンドである仕事の効率化です。
この映画「アルキメデスの大戦」には数学の天才が出てきますが、上官はむちゃなほど厳しい期限を設けて仕事を与えるのです。
そして、その期限はさらに短縮されます。
いかに天才とは言え、無理すぎます。
しかし、日本の存亡を背負っている彼には、無理という言葉は吐けません。
地頭を駆使し、なんとかショートカットを発見して、期限に間に合わせるのです。
本気を出した天才とは恐ろしいものです。
追記Ⅲ ( 海軍造船中将・平山の本心 )
2019/7/30 8:13 by さくらんぼ
>映画「アルキメデスの大戦」に描かれている「戦艦大和」とは、深層的には「原発」であったのかもしれません。(本文より)
映画のクライマックスに、戦艦大和の設計ミスが明らかにされます。天才数学者・櫂(菅田将暉さん)の指摘によって。
櫂は設計図を見て「なんか、この部分は美しくないな…」と美的感覚で異常を感じ取り、強度計算をして欠陥を発見したのです。
それは波高についてでした。波は時に重なり合い、異常な高さになる事があります。そこまで想定して頑丈な船体にしておかないと、船が壊れることがあるのです。ここが3.11を連想したエピソードです。原発に押し寄せる津波の様な絵が書かれます。
櫂はこれを武器に、戦艦大和の建造計画を中止に追い込むことに成功しました。
しかし、これは戦艦大和の設計者である海軍造船中将・平山(田中泯さん)のミスではなく、平山が意図的に仕込んだ(一種の)戦艦大和の自爆装置だった可能性があるのです。
櫂に欠陥を指摘された平山は、いったんは脱帽したように計画を取り下げますが、後に密かに櫂を呼びだし、現在、広島県呉市の大和ミュージアムにある戦艦大和の大型模型のようなものを見せて、こう説得するのです。
「どうだ、美しいだろ。お前はこれを作りたくないのか。いや、作りたいはずだ。
戦争で日本を滅ぼさないために、日本(大和)と名付けたこの美しい巨大戦艦を作り、(航空機時代の)戦に負け、軍部・国民の気持ちを折らなければならない。
俺はお前を同士だと思っている。だから、(早急に船を完成させるために)お前が作った公式を教えてくれ」と。
追記Ⅳ ( 階級社会 )
2019/7/30 8:28 by さくらんぼ
この映画「アルキメデスの大戦」には、こんなエピソードが出てきます。
天才数学者・櫂にいきなり海軍少佐の肩書をあたえる山本五十六に、軍人の大嫌いな櫂は不快感を表明しますが、山本五十六は言うのです。
「軍隊というところは階級の厳しい世界だ。少佐ぐらいでないと、部下は言う事を聞かんし、上官も聞く耳は持たん」と。
これが映画の主題のように思います。
無名の小さな船が沈んでも、ほとんど世論に影響はないけれど、(日本と名付けた)戦艦大和が沈めば、軍部・国民の心が折れるのです。
ですから、私のレビューなど信用しないでください。
追記Ⅴ ( 映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」 ) 2019/7/31 8:41 by さくらんぼ
( 以下、映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」のネタバレにも触れています。)
現代の日本は「人命第一」ですが、先の戦争では「兵隊は消耗品」だったと聞いたことがあります。
その時代背景を知ると、フィクションであるこの映画「アルキメデスの大戦」も、一定のリアリティをもって感じられます。
今と比べて人命が軽かったのは、日本に限ったことではなく、映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」においても描かれています。
天才数学者たちが、苦労の末、せっかく敵の暗号を解読したのに、敵の攻撃をすべてかわしてしまえば、解読した事がバレてしまうのです。
そうすれば、すぐに暗号を変更されてしまい、苦労は水の泡になってしまう。
だから、小さな犠牲は放置し、大きな犠牲のみ防ぐ作戦をとったのです。
小さな犠牲と言っても、そこには民間の船なども含みました。その船には暗号を解読した数学者の家族も乗っていましたが、上層部の命令で、撃沈されるのを知りながら放置したのです。
『 > (人間-愛)→これは反対に、主人公のチューリングは愛を知る人間でありながら、暗号を解読したことを敵に知られてはならぬと、冷徹な確率論を駆使して、勝ち戦と、負け戦を、厳格に選別し、わざと(ここを強調しますが、わざと)戦死者を出して勝利するのです。でも戦死(わざと殺された者)にとっては、唾棄すべき愛のない行為ですね。
過去にも「9.11陰謀説」とか「真珠湾攻撃陰謀説」とかを聞いたことがあります。
それに対して私は、「味方が死ぬんだよ。いくらなんでも、そんな、バカな事はしないはず」と言う考えを持っていました。
でも、この映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」を観てからは「・・・」です。さすがに沈黙せざるを得なくなりました。
見殺しにすることは、人道的な観点から言えば、やってはいけないことです。またこれは、己の神を信じない行為でもあります。ドラマの世界、映画「フォレスト・ガンプ/一期一会」の主人公なら迷わず助けたはず。そして、最後には成功したはず。
でも人知を駆使する現実世界では、迷わず助けるわけにはいかない場合もある。いくら美談でも負けたら終わり。あくまでも勝って官軍ですので、小事(残酷な判断だが)は見捨てなければならない場合もあるのかもしれません。もちろん断腸の思いで。
でも、ここで思考をストップしてはいけません。
だからこそ、これは、戦争反対の、新たなる理由になるとも考えられます。
そう言う意味では、戦争反対を叫ぶ人たちにこそ、ぜひ観ていただきたい。
そうして「だから、戦争反対なんだ」と語る材料の一つにしてほしい。
それは「敵味方で利益が一致する新たな反戦思想の一つになる」かもしれませんから。
「戦争になれば、あなたも私も、それぞれの味方から、計画的に見殺しにされることもあると、この歴史が証明している。だから、戦争だけはしないでおこう」と。』
( 映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」の追記 2015/3/22 11:48 by さくらんぼ の再掲 )
追記Ⅵ ( 春夏秋冬 )
2019/8/3 9:03 by さくらんぼ
天才数学者・櫂は、「数学は嘘をつかない」と言います。
しかし、そんな櫂も、最後には「政治家になる」のです。
「 数学≦政治 」
数学をほかの言葉に置きかえても良いと思います。
この映画の世界に限らず、古今東西の秩序とは、きっとそういうものなのでしょう。
では数学的正解はどうなるのか、どこかに葬られるのか。
いえ、
季節が変わり、雪が溶ければ、露わになるのです。
「 第3章
1 天が下のすべての事には季節があり、すべてのわざには時がある。
2 生るるに時があり、死ぬるに時があり、植えるに時があり、植えたものを抜くに時があり、
3 殺すに時があり、いやすに時があり、こわすに時があり、建てるに時があり、
4 泣くに時があり、笑うに時があり、悲しむに時があり、踊るに時があり、
5 石を投げるに時があり、石を集めるに時があり、抱くに時があり、抱くことをやめるに時があり、
6 捜すに時があり、失うに時があり、保つに時があり、捨てるに時があり、
7 裂くに時があり、縫うに時があり、黙るに時があり、語るに時があり、
8 愛するに時があり、憎むに時があり、戦うに時があり、和らぐに時がある。
9 働く者はその労することにより、なんの益を得るか。
10 わたしは神が人の子らに与えて、ほねおらせられる仕事を見た。
11 神のなされることは皆その時にかなって美しい。神はまた人の心に永遠を思う思いを授けられた。それでもなお、人は神のなされるわざを初めから終りまで見きわめることはできない。 」
〈 ウィキソース 「伝道の書(口語訳)」より抜粋 〉
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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