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#ネタバレ 映画「新聞記者」

「新聞記者」
2019年作品
みんなの「疎外感」
2019/7/18 18:35 by さくらんぼ (修正あり)


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

松坂桃李さんと本田翼さんが、とても仲の良い夫婦役で出てきます。

でも、新聞社に出向している公務員である松坂桃李さんの仕事には、守秘義務がありました。妻は、その守秘義務の重大性を理解していましたが、二人の間には、いつのまにか触れてはいけない溝が出来ていました。

往年の人気TVドラマ「謎の円盤UFO」のストレイカー最高司令官は、地球防衛軍の秘密を妻に言えないので、夫婦げんかが絶えませんでしたが、本田翼さんは、一人良き妻を演じて我慢していたのです。

ですから、妻はいつ爆発してもおかしくありません。

これは、ある意味ホラー。

かつて、映画「リング」では、顔を見せない貞子が観るものを怖がらせましたが、この映画「新聞記者」では、笑顔の本田翼さんが怯えさせるのです。

映画のクライマックスで、笑顔の本田翼さんを、松坂桃李さんが、「ごめん、ごめん」と泣きながら抱きしめるシーンがありました。

彼の気持ちには複雑なものがあるでしょうが、かなりの部分、その怯えがあったのだと思います。

そういう意味で映画「空母いぶき」に続いて、本田翼さんには、主役級の役目が与えられていたのだと思いました。

『  この映画「空母いぶき」でも、本田翼さんは、屈強な他の登場人物の「本音」を、鋭敏に表現するために置かれたのかもしれませんね。

そういう意味で、主役級だった。 』

(  映画「空母いぶき」私のレビュー追記20より抜粋  )

★★★★

追記Ⅲ ( 仕事と私とどっちが大事なの ) 
2019/7/18 22:16 by さくらんぼ

ラストシーンは、ぼかされていますが、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李さん)が、きっと自動車への飛び込み自殺をしたのでしょう。

杉原は出向している新聞社の上司から、「出向をやめさせ、役所へ戻してやっても良いぞ」と言われました。

言外の交換条件は、この報道から手を引くことでしょう。

杉原の正義感としては絶対に出来ない事でした。

しかし、妻をこれ以上我慢させることも出来ない。

だから受けてしまった。

直後に、杉原は沸き起こってくる自己嫌悪と、妻への申し訳なさの板挟みになり、さらに疲労もあって、発作的に飛びこんだと思います。

追記Ⅳ ( シム・ウンギョンさん ) 
2019/7/18 22:28 by さくらんぼ

失礼ながら、私はシム・ウンギョンさんという女優さんを知らなかったのですが、チラシに松坂桃李さんといっしょに写っている女性がそのようですね。

最初、上野樹里さんかなと思いました。アップのお顔をじっと見ていると、お笑いタレントのどなたかにも似ているような気も。

また、セリフが朴訥に聴こえましたので、好感度も上がり、ルックスと相まって、すぐに馴染みました。

そして、彼女は演技派の女優さんだとも知りました。

この作品の主役は、シム・ウンギョンさんのようですね。彼女がこの映画に血を通わせてくれたのだと思います。

追記Ⅴ ( もう一組の官僚夫婦 ) 
2019/7/19 9:56 by さくらんぼ

>でも、新聞社に出向している公務員である松坂桃李さんの仕事には、守秘義務がありました。妻は、その守秘義務の重大性を理解していましたが、二人の間には、いつのまにか触れてはいけない溝が出来ていました。(本文より)

実は、官僚・杉原(松坂桃李さん)を可愛がってくれた元上司も、少し前に自殺しているのです。

その理由が政界と関係があるのではないかと探っていた杉原と、新聞記者・吉岡(シム・ウンギョンさん)は、とうとう証拠を見つけます。

元上司の書斎にある、鍵のかかった机の中から、杉原にあてた遺書が見つかったのです。「(同じ守秘義務を持つ官僚であり、個人的にも信頼できる)お前にだけは話しておく…」と書かれた。

しかしその時、「たぶん、ここにあります」と言って鍵を渡し、書斎に案内してくれた妻が、「私は知らない方が良いから…」と言って部屋を出てしまいました。

夫の死の真相が書かているかもしれない書類なのに、夫が死んでも自分は見ないのです。民間人であるために。ここにも公務員の妻の矜持というか、哀しい溝がありました。

そして後日、記事になった新聞で、妻はそれを知るのです。

追記Ⅵ ( 恐怖の瞬間 ) 
2019/7/19 10:28 by さくらんぼ

>映画のクライマックスで、笑顔の本田翼さんを、松坂桃李さんが、「ごめん、ごめん」と泣きながら抱きしめるシーンがありました。(本文より)

これは病院でのエピソードです。

なぜ入院したのかと言えば、出産間近だった妻が、突然破水したからです。驚いた妻は助けを求め、夫・杉原にTELしました。

しかし、杉原は大事な仕事の真っ最中であり、着信を知っていながら無視したのです。

その後、妻が入院したことを知って、TELが何だったかに気づき、大慌てで病院に行きました。医師が帝王切開をしたので、幸い母子共に命に問題はありませんでしたが。

でも、本当なら「あなた、何してたの、TELしたのに…」と叱られても仕方ない状況なのに、妻は「あなたは忙しいんだから…」と笑顔を絶やしません。

そんな状況だから、杉原は「ごめん、ごめん」と、抱きしめる事しか出来なかったのです。

そしてラストには、このTELのエピソードに似たものが、杉原と吉岡の間でも起こります。

追記Ⅶ ( 修羅場 ) 
2019/7/19 11:10 by さくらんぼ

>そして、このTELのエピソードに似たものが、杉原と吉岡の間でも起こります。(追記Ⅵより)

まず吉岡の元へ、杉原の新聞社の上司から、体のよい脅迫電話がかかってきます。

怯えた吉岡は、すぐ同士である杉原へTELします。

しかし同時刻、杉原もその上司から呼びだされて「役所へ戻してやる」と、これもまた体のよい脅迫を受けていたから、TELに出られなかったのです。

着信音だけが鳴り続けます。(返信を思わせる)タイミングのよい着信音で、上司には二人が同士だったと勘づかれたかもしれません。

電話に出ないことに強い胸騒ぎがした吉岡は、杉原の元へ走りだしました。そして「役所へ帰ることを承諾した」杉原と、交差点で対面するのです。

道路を挟み、無言でお互いの顔を見つめ合う二人。

杉原の唇が渇いています。

もしかしたら、このとき杉原は、吉岡から責められると思ったのかもしれません。「ここまで来て、どうして役所へ逃げ帰るのか」と。

結果的に杉原は、上司、妻、吉岡の三者から責められる格好になったのです。

ちなみに、この時、吉岡にとって「役所へ逃げ帰る」は、「妻の元へ帰る」と同義語だと思います。

「私を捨てて、妻の元へ帰るのか」となるわけです。

もちろん不倫ではありません。

杉原は妻を深く愛していますし、吉岡との間にあったのは同士愛でしょう。でも、その同士愛の中に、一滴の恋心も芽生えていなかったのでしょうか。

ラストの吉岡の猛ダッシュと、杉原を見つめる眼光は、恋愛ドラマのそれでした。

追記Ⅷ ( みんなの「疎外感」 ) 
2019/7/19 11:15 by さくらんぼ

もちろん、国民の代表である政府が、国民に隠し事をすれば、国民は疎外感を感じるわけです。

この映画「新聞記者」には、様々な疎外感が描かれており、それは相似形になっているのだと思います。

追記Ⅸ ( 高橋和也さん ) 
2019/7/19 11:24 by さくらんぼ

私は、この間までTV放送されていた「日本ボロ宿紀行」に、陽気なおじさん演歌歌手役で出演されていた高橋和也さんのファンですが、今回、映画「新聞記者」では、杉原を可愛がってくれていた、(自殺する)元上司の役で出ていました。

「日本ボロ宿紀行」とは違って、ネクタイの似合う紳士役で、これが良く決まっていました。

増々のご活躍を楽しみにしています。

追記Ⅹ ( 映画「ボニーとクライド/俺たちに明日はない」 ) 
2019/7/19 21:32 by さくらんぼ

ラストに、危機の中で主役二人が見つめ合うシーンからは、映画「ボニーとクライド/俺たちに明日はない」を連想しました。

昔TVで観たきりで詳細を忘れていますから、オマージュかどうかを含め、ハッキリとしたことは言えませんが、とりあえず書いておきます。

追記12 ( 情報の発信という事 ) 
2019/7/20 9:33 by さくらんぼ

この映画にはヒリヒリとしたリアリティーを感じました。

私は新聞記者でもなければ官僚でもありません。

では、なぜそんな気持ちになったのかというと、多分、日々のレビューなどの書き込みのせいなのだと思います。

映画の中に「新聞記者にとって誤報は命取りだ」「反論が想定されるから、書く前に裏を取れ」みたいなセリフが出てきました。

私はここのサイト(古巣のこと)に1,000件以上のレビューを、20年近くにわたって投稿しています。そのすべてのおいて、送信ボタンを押す前には、ドキドキしてきたわけです。押してから後悔して削除したことも多々りますし、OKなものもドキドキが0になるわけではありません。

新聞記者の仕事とは比較にすらなりませんが、たとえ些細な趣味であっても、そんな経験が、ヒリヒリとさせたのでしょう。

追記13 ( 「葛藤」 ) 
2019/7/20 9:47 by さくらんぼ

「 日本人と韓国人の父母のもとアメリカで育った新聞記者・吉岡。そんな吉岡のもとに、大学新設計画に関する匿名の極秘情報が届き、彼女は早速真相を究明すべく調査を始める。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、信念とは裏腹な実際の仕事内容に葛藤していた。」

(  ぴあ映画生活「新聞記者」あらすじより  )

ここにもあるように、この映画「新聞記者」には葛藤も描かれています。

私の知る限り、葛藤は日本映画よりも韓国映画に多くに描き込まれています。同一民族でありながら南北に分断され、戦わなければならない現実からは、無視できない感情なのでしょう。

さらに、吉岡が日本人と韓国人のハーフに設定されており、韓国人の俳優さんが演じていることからも、この映画では大事な要素なのだと思います。

追記14 ( 踏み絵 ) 
2019/12/3 22:37 by さくらんぼ

忠臣蔵の時代と、現代の公務員。

随分と世界観は違うでしょうが、違わないものは(ある意味)忠誠心です。

そんな馬鹿なと思われるかもしれませんが、部下は(意見は言えても)上司に逆らえないという点では同じなのです。

それどころか、場合によっては忖度で動くかもしれません。

(お殿さまの気持ち)を忖度した上司が、それとなく部下に耳打ちして、やらせる。

今でも、そんなこともあるかもしれないなぁ…と思うのです。

そして、後に問題が大きくなって、新聞沙汰になり、お殿さまが窮地に立たされた時、実行犯にされ、説明責任を問われた部下は、ノイローゼで休職し、ときに〇〇するのです。

追記15 ( 「第43回日本アカデミー賞」 ) 
2020/3/7 17:14 by さくらんぼ

【第43回日本アカデミー賞優秀賞 受賞】

・優秀作品賞
・優秀監督賞:藤井道人監督
・優秀主演女優賞:シム・ウンギョン
・優秀主演男優賞:松坂桃李
・優秀脚本賞:詩森ろば、高石明彦、藤井道人
・優秀編集賞:古川達馬

(  映画「新聞記者」HPの「受賞&ノミネート実績」より抜粋  )

重要な役をしておられた、本田翼さんが賞を逃したのは残念でしたが、おめでとうございます。

確かに良い作品でしたし、良いお芝居をされていました。さらに、私にとって無名であったシム・ウンギョンさんには、宝石を見つけたように感動しました。

ところで、この映画の二人が探し回っていたネタは、日本政府によるBC兵器研究だったと思います。

私はそちらの分野をよく知りません。

しかし、新型コロナウイルス戦争の真っただ中、タイムリーに痛い映画の一本であったことは確かでしょう。

追記16 ( 「公務員」というお仕事 ) 
2020/8/13 16:05 by さくらんぼ

『  このまま若手官僚がいなくなれば、国民生活に影響が出るおそれ」国会の慣習、コロナ対応…霞が関の過酷な労働実態

… 中略 …

「それこそ1980年代から続く行財政改革の結果、公務員を減らし過ぎて、欧米諸国から見ると人口あたりの数が半分くらいしかいないレベルにまでなってしまった。それなのに、政治家から見れば公務員はいじめても大丈夫な相手になってしまっていて、“人権だ、民主主義だ”と言う一方、それを支える公務員については“叩いても構わない。あいつらは仕事をしていない。遊んでいる。親方日の丸だ”みたいな意識でいる。この、公務員が一種のパブリックエネミーみたいに扱われている現状は厳しい」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より) 』

( 2020/8/12(水) 21:12配信「ABEMA TIMES」より抜粋 )

追記17 2022.10.6 ( お借りした画像は )

キーワード「新聞」でご縁がありました。私は競馬をやって事がありませんが、この三点セットの組み合わせは、なんというか、シュールというか、面白いものがありますね。少し上下しました。ありがとうございました。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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