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#ネタバレ 映画「男はつらいよ」〈1969〉

「男はつらいよ」
1969年作品
寅さんのモチーフは「在日の人」
2018/1/3 16:20 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

人気ラジオ番組「武田鉄矢 今朝の三枚おろし」で、2017.12.29に、こんな話がありました。

「 山田 洋次監督は、少年の頃、満州で過ごし、日本に引き揚げてこられました。

日本も貧しい時代です。少年時代の監督は、生きるためにお父さんと闇米を買っていました。ところが、その時、お巡りさんが接収にやってきたのです。

あきらめて、へなへなと座り込んだ少年の首にお巡りさんが手をかけたとき、お巡りさんを殴り倒し、にっこり笑って「少年、にげな!」と言った男の人影があったのだそうです。

その訛りから、男は『在日(韓国・朝鮮系)の人』だと少年には分かりました。

少年は、後にその『在日の人』の残像からドラマを作りました。それが『男はつらいよ』だったのです。」(表現は違うかもしれませんが、概ねこんな話)

もう手元にありませんが、この映画は、昔、レーザーディスクで所有していました。細部は忘れましたが、若く、ピチピチとした寅さんが拝める作品です。若さは良いですね。

★★★★

追記

「視点の移動」をして見えてくるのは、「男はつらいよ」が、「差別」の哀しみを描いた映画でもあったという事です。映画「私は貝になりたい」みたいな。

( 2018.1.3現在、YouTubeにもこの番組がUPされています。「【武田鉄矢】 今朝の三枚おろし 2017年12月29日 」 )

追記 ( 「木枯し紋次郎」 ) 
2018/10/15 9:00 by さくらんぼ

ある意味、「寅さん」と「木枯し紋次郎」も似ています。

愛情に恵まれない幼少期、

内にも外にも、居場所がない、

行く先々の道で、人助けをして去って行く。

陰陽で言えば、紋次郎が陰だとすれば、寅さんは陽なのでしょうが。

追記Ⅱ 2023.4.6 ( 「立小便」のエピソード )

寅さんは何度もTV放送されていますが、先日からも4K画質で再放送が始まりました。良い事です。これからも、年月がたてばたつほど、寅さんの昭和な世界観は貴重になるでしょう。

ところで、その第一作を再び観ていますが、面白いことに気がつきましたので書いておきます。

「寅さんとさくらは異母兄妹ですが、そのせいか、寅さんはさくらに秘めたる恋をしており、寅さんが家出した理由の中にはそれもある」という、都市伝説のような話を聞いたことがあります。証拠はないですが、まんざら、あり得ない話ではないなと思っていました。このような秘めたる恋の話は、韓国映画「風の丘を越えて/西便制」にもありました。

そんな気持ちで第一作を観なおしたのですが、(「その記号か!?」とも思える)興味深いシーンが出て来ました。

さくらのお見合いに同席した寅さんのせいで、さくらは縁談を断られてしまいます。

そして、数日後の「とらや」での話です。

さくらの報告で、怒ったおいちゃんたちから責められた寅さんは、責任を感じるどころか、怒って、トイレに行ってしまいます。それが庭先での立小便なのです。

さくらも断られた事を残念には思っていましたが、意外とサバサバしていました。そして、二階へ上がり、なにげなく窓から裏庭を見ると、寅さんが立小便の真っ最中。

ハッと、窓際に隠れますが、そこにたたずみます。

小便とはいえ、男性器を露出している男と、それを知りつつ近くにたたずむ女。

この、二人だけの秘密の時間は、さくらしか知りません。

このシーンは、寅さん映画には似合わないと思います。

なぜこんなシーンを入れたのでしょう。

監督があえて入れた以上、この性的な記号には重要な意味が込められていると思います。映画「ローマの休日」でも、王女を確保しにきた男たちと戦い、王女をアパートに連れ帰った新聞記者がいましたが、次のシーンは、翌朝、アパートで朝の身だしなみを整える二人になります。

著名なある映画評論家は、このシーンを持って「二人に性的な関係があった」旨評しました。それが映画の記号の解釈というものでしょう。

寅さんとさくらに同様な関係があるとまでは思いませんが、立小便のエピソードからは、プラトニックなレベルでの、男女の微妙な関係があったと思わせました。

この立小便の記号から逆算すると、20年ぶりぐらいに「とらや」に帰ってきた寅さんとさくらが再会する場面では、大喜びでさくらに近づく寅さんに、誰だかわからず、性的な危機を感じ逃げ出すさくらがいました。ここにも男女の恋愛問題が密かに描かれていますね。

そして、寅さんがさくらのお見合いに出席し(「お見合い」というエピソード自体がすでに意味深)、地金を丸出しにして、相手から断らせたことは、半分は寅さんの嫉妬心だった可能性もあるかもしれません。

それが証拠に、お見合いが壊れても、(あの情に厚い寅さんなのに)反省の色が見えず、謝りもせず、それどころか、叱られて逆切れしてしまったからです。

そして、立小便のエピソードにつながります。

さくらに至っては、断られて落胆はしたでしょうが、結婚しても、一生寅さんを隠し通すわけにもいかず、「結婚しても、いずれ悲劇に終わる。どうせ壊れるなら、そんな結婚はこちらから願い下げだ」ぐらいに思ったのでしょう。

そして、何よりも、寅さんに何らかの情を感じていたからこそ、寅さんを見て断って来た縁談相手に愛想をつかしたのだと思います。

「とらや」で何が起ころうと、いつも、さくらだけは寅さんの味方でした。二人の間には、単なる義兄妹と言うだけではない、何か、秘めたる心の交流があった可能性があります。普通なら「兄弟は他人の始まり」でもおかしくないのですから。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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