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#ネタバレ 映画「波の数だけ抱きしめて」

「波の数だけ抱きしめて」
1991年作品
ロマン
2003/11/13 16:01 by 未登録ユーザ さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

映画館へ2回ほど観に行った。たった2回と言う無かれ、2回も観に行くなんて今までの映画生活でも数えるほどしかない。では何にそれほど惹かれたのか。

別所さんの扮する社会人が、他の登場人物(みな学生だったかもしれない)に比べて、頼りがいのある人物に設定されていて、その格差に魅力を感じたような気がする。それから松下さんの切ない恋、これが胸にしみた。それにもちろん湘南・・・。

そして最後にもう一つある。この映画は湘南にミニFM局を作ろうとする若者達の物語だったが、当時、無線関係の勉強を少しだけしていたので、アンテナなどの設置シーンが、100%正しいかはともかく、全くのデタラメではない事が理解できて、そこに面白さを感じたのだった。

今でこそインターネットで手軽に個人の発信ができるが、当時のミニFM局はそれに代わるような性格のものだったのかもしれない。でも放送局など個人ではとても出来るものではない。そこで、無免許で使える小出力のFM送信機(いわゆるワイヤレスマイク)をビーチ沿いに連ねて設置し、それで、その一帯をカバーしようとする。

このアイディアはワクワクするほど面白いが、思いつきはしても普通はやらない。しかし、額に汗して本気で挑んでいる姿は、とても他人事とは思えなかったのである。

追記
2003/11/16 15:42 by 未登録ユーザさくらんぼ

映画のクライマックス、ヒロインが放送中に愛の告白をするシーンがある。ラジオを聴いていてくれるはずの愛しい彼に向かって。

公共の電波を個人の都合のために使っても良いのかと、公開当時思っていた記憶があるが、今改めて思うと、無免許で出来るほどの小出力放送局で、個人の趣味でやっているものだから良いのかもしれないとも思ったりしている。もっともリスナーや彼から迷惑がられる心配があり、そちらの状況判断は大事だが。

ところで、ヒロインが勇気を振り絞って、マイクに向かい愛の告白をした時、不運にも彼の乗った自動車はトンネルの中に入る。その瞬間電波は途切れて、彼女の告白部分のみが伝わらない・・・

とても切ないシーンだった。しかし、今考えてみるとそこに「伝える」というモチーフが観える。

彼らは青春の真っ只中にあり、秘めた恋心を相手に伝えたいと日々悶々として暮らしていた。

一方、映画は放送局の実現を目指して奮闘する彼らの姿も同時に描く。電波を遠くの沢山の人に届けたいと努力する姿は、恋心を伝えたいとの気持ちと、どこかでつながっていたのではないだろうか。

追記の追記 2003/11/18 21:09 by 未登録ユーザさくらんぼ

告白のシーンは、上記の通りに記憶していましたが、ある方のご指摘で、私の記憶が書き換わっていた事に気がつきました。

主人公の男(織田裕二さん)が、自動車のヒロイン(中山美穂さん)に告白したのが正解なのです。

私の記憶の中では、ヒロインがためらいながら、それでも勇気を振り絞って告白するシーンが目に焼きついているほどですが、どこで記憶の逆転が起きたのか不思議なものですね。

これだから裁判の「証言」などは難しいのでしょうね。きっと映画の中に女性DJが放送しているシーンが多く登場するので、その記憶が焼きついたのかもしれませんね。

追記の追記② 2003/11/18 21:38 by 未登録ユーザさくらんぼ

それと・・・陰で描かれた松下由樹さんの切ない恋。(当時失恋中の)私は彼女に一番感情移入していて、彼女を中心に映画を見ていたふしがあります。それもマイクを握ったのが女性だったと錯覚した原因の一つだったかもしれないと思い当たりました。

おさわがせしました。

追記Ⅱ ( 失恋でバブルを画く ) 
2015/9/9 8:48 by さくらんぼ

映画「波の数だけ抱きしめて」。

なんてエレガントで素晴らしいタイトルなのでしょう。

私も負けないようにしたいと思い、このレビュー・タイトルもいろいろ考えましたが、なかなか、よいアイディアが浮かばず、こちらは硬派なタイトルを置くことにしました。

ところで、いわゆるバブルは、1986年ごろから1989年末の株価ピーク(38,957円44銭)ごろだと思います。

そして、この映画の舞台はバブル直前、1982年の湘南であり、公開されたのがバブル直後、1991年8月31日なのです。

恋に奥手の若者たちが、その秘めた想いをつのらせ、やがて噴火の様に告白し、自滅していく様を、そしてミニFM局を開設し、中継局で遠くまで放送する夢が、破局する様を通して、バブルを画いていました。

永遠に続くのか、とも思われた株価上昇がハジケた直後、冷やりとした風を感じ始めた人たちが作った作品なのでしょう。夏の湘南が舞台なのに、夏の海独特のギラリとした喧騒がありません。もしかしたら、撮影した季節も夏ではないのかもしれません。

これを失敗と見る向きもあるでしょうが、私は成功だとしておきます。先日、NHK・BSで再放送中の朝ドラ「あまちゃん」が、やっと3.11までたどりつきました。その直前の、3.10の映像も、微妙に寒々しかったからです。

何がどう違うのかと言われれば、言葉ではうまく説明できないほどの小さな違和感です。たとえば同じ気温の日でも、萌える春と、枯れる秋では、違いを感じる様に。あれには「これから起こる悲劇を暗示させる、意図的な演出」が施されていると、私は取りたいです。

ところで、映画の中でヒロインの生年月日が紹介されるシーンがありました。1960年生まれだそうです。それを見た瞬間の私の感想は「あっ、おばさんだ!」と。なぜなら、私も極端には違わない年齢だったからです。でも舞台が1982年なので、ヒロインは当時22歳ぐらいだったのですね。もちろん私も若かった。

あぁ、青春は素晴らしい。

★★★★

追記Ⅲ ( 込められたバブル崩壊からの飛翔 ) 
2015/9/10 14:51 by さくらんぼ

映画「波の数だけ抱きしめて」では、冒頭に結婚式の様子が描かれました。でも、カラーの恋愛映画なのに、クライマックスである結婚式がモノクロだったのです。

「結婚は人生の墓場」とか言う人もいるらしいです。もし、その言葉を引用していたのだとしたら、モノクロでの結婚式(失恋したもの列席している)は、バブルの崩壊を表していたのかもしれません。

この映画は、そこから逆算して、カラーでバブルの生成過程(恋愛ドラマ)を描いていました。

そしてラストでは、再び結婚式帰りのモノクロ画面に戻り、残された者(失恋・失敗した者たち)が、今は廃墟となったFM局の前で語り合うのです。

ひとしきり話すと、彼らは波打ち際を、遠くへ、戯れながら歩いていくのですね。ここでカラーに戻ります。

彼らは、ここから、またカラー(新しい夢)を見るために歩み出しました。

バブル直後の映画ですが、すでにバブル崩壊からの飛翔を描いていたのです。

追記Ⅳ ( LPレコードの扱いに男が惚れる )
2015/9/10 14:56 by さくらんぼ

映画の冒頭、ヒロインに一目ぼれする男の姿が描かれます。

そのときヒロインが行ったのは、まずフォルクスワーゲンの砂浜からの脱出劇です。でも、これは現在でも通用しますから、置いておいて…

LPレコードの取り扱いの方を書きます。

今の若い人には知らない人も多い操作法ですが、1982年当時の若者にとってはケータイの操作と同じように当たり前のことだったのです。

ヒロインは、ミニFM局の放送室で、慣れた手つきでLPレコードをジャケットから取り出し、両手でくるりと一回転させて様子を見て、レコードスプレーをかけたり、ターンテーブルに置いたり、クリーナーで拭いたり、針を置き…ヘッドフォンを片耳につけ、音を聴きながら、ターンテーブルを指で回しベストポイントをさぐり…女子らしくデコレーションしたミキサーの音量を上げ、マイクに向かって流ちょうな英語で話す。

順序は多少前後するかもしれませんが(我流と記憶がごっちゃになっているので)、要するに「LPレコードの操作には、お茶の御点前、みたいな技と美学があった」のが映し出されているのです。

オーディオマニアのはしくれの私が観ても、惚れてしまいそう。

あっ、それから余談ですが、これはケータイの無い時代のお話しです。「それで恋愛とか、ありえない~」とか言う方も、ぜひご覧ください。

追記Ⅴ ( サーフィンで語る株の買い方 ) 
2015/9/16 14:54 by さくらんぼ

映画の前半、DJの真理子が、広告マンの吉岡にサーフィンを教えるシーンが出てきます。

ふたりでサーフボードに乗り、沖に出た真理子が言うのです。

「こうして良い波が来るのをひたすら待つの。もしこなければ、戻って反省するだけ、これが湘南のサーフィンよ」 (正確ではありませんが)。

そう言うと、くるりと反転し、真理子は自分ひとり、さっさと陸へ戻って行くのでした。

この映画「波の数だけ抱きしめて」がバブルを描いていたとしたら、この「良い波をひたすら待つ」のは株の格言「休むも相場」の記号であった可能性もあります。

そして来たビッグウエンズデーのアベノミクス。

あれで資産を増やした人もいるでしょうね。待ちくたびれて失敗した人も。

追記Ⅵ ( 「リレーアタック」 ) 
2019/1/24 9:39 by さくらんぼ

>恋に奥手の若者たちが、その秘めた想いをつのらせ、やがて噴火の様に告白し、自滅していく様を、そしてミニFM局を開設し、中継局で遠くまで放送する夢が、破局する様を通して、バブルを画いていました。(追記Ⅱより)

先日、自動車のスマートキーが電波で動くのを悪用した、「リレーアタック」という手口で盗難が行われているというニュースがありました。

あの「リレーアタック」は、詰まるところ、原理的には、ミニFM局の中継局、あるいはケータイの中継局と、同じなのかもしれません。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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