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#ネタバレ 映画「カラオケ行こ!」

2024.2.20 
裏を知って大人になる ・「狂児」の正体は「岡聡実」かも

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

この作品のタイトルを初めて見た時、ノリの軽さに好感を持ちました。そして、「ヤクザが中学生に歌の歌い方を教わる」というあらすじを知って、面白そうと思いましたが、予約状況を見ると満席に近いようでした。

何日かしても、やはり混雑しています。ロングランですね。これは只者ではないと思い、まだ混雑感の残っている昨日、がまんできずに観に行きました。

そうしたら期待以上に面白かったです。

おおむね想像していた通りの展開になりますが、作りのセンスが良いので感動してしまいます。映画で感動をすると、胸にホッカイロをいれたような、お酒を飲んだような、胸がぽかぽかする幸福感に満たされて、映画館を後に出来ますが、まさにこの作品がそうでした。ありそうで、なかなか出会えない佳作です。

以上はおじさんの感想ですが、大学生と思われる二人連れの青年も、「良かったね!」と話していました。

追記 2024.2.20 ( 裏を知って大人になる )

中学の合唱部部長・岡聡実(齋藤潤さん)はボーイソプラノでしたが、変声期にさしかかっています。女性の声も男性の声も美しいものですが、仮にボーイソプラノがホワイトだとすると、男性の声はブラックになるのでしょうか。

ヤクザの成田狂児が、ビルの屋上から街並みを見渡して岡聡実に言うセリフに、「綺麗なものしかいかんかったら、この町ごと全滅や」というものがありました。それが、私には「この世界は片方だけで出来ているのではない」と聞こえました。

この作品は、ホワイトがブラックを知り、一歩大人になって行く物語なのだと思います。

問題点も無くは無いのでしょうが、それも含めて、ブラックに触れる作品なのでしょう。

追記Ⅱ 2024.2.20 ( O・ヘンリーの「警官と讃美歌」 )

成田狂児が、雨の中、傘もささずにとぼとぼ歩いていると、美しい合唱が聞こえてきて、吸い込まれるようにコンクールが行われているビルに入っていくところから、この映画は始まります。

私はここから、O・ヘンリーの「警官と讃美歌」という名作を連想しました。

成田狂児は本当は堅気の道を歩きたかったのかもしれません。少なくとも、この合唱で心動かされたことは確かでしょう。これは、ホワイトに触れて無意識にそれを夢見た、成田狂児の話でもあると思います。

追記Ⅲ 2024.2.21 ( その一曲は「固めの杯」となったのか )

* 結末にふれています。

クライマックス、成田狂児が交通事故で救急車で運ばれるところを、バスの中から目撃した岡聡実。

担架から血らだけの腕がたれていました。

重症のようです。

居ても立っても居られなくなった岡聡実は、一人ヤクザの所に向かいます。

中ではカラオケ大会が行われていました。恐る恐る安否を尋ねると、親分が「成田狂児は死んだ」と答えます。

それでも平気でカラオケを続けるヤクザたちを、岡聡実は大声で罵倒し、帰ろうとします。

そこに待ったをかける親分。

「名乗りもせずに罵倒だけして帰るのか」と立ち上がり、マイクを渡して、「弔いのためにお前も一曲歌え」と言うのです。

しかたなくマイクを受け取り、意を決して熱唱する岡聡実。

その歌声に、親分たちは涙ぐみ、歌い終わると大きな拍手をしました。

そこに、現れたのが成田狂児。

トイレに行っていたようです。

実は、成田狂児はかすり傷しかしてなかったのです。

あの事故の時、ぶつけられた成田狂児は、自分を殺めようとした男を車から引きずり出してボコボコにしたのです。担架の男はその相手でした。救急・警察は事故のケガだと思ったのでしょう。

最初の嘘は親分からのジャブの様なものでしょう。では、なぜマイクを渡したのか。

どうやら、単身ヤクザのカラオケ大会に乗り込んで、成田狂児のことで怒り、説教までする(パンチを出す)中学生に、ヤクザ顔負けの任侠心をみた親分は、一曲歌わせることで、「固めの杯」を交わしたのだと思います。差し出されたマイクは杯のつもりだったのでしょう。

そうとは知らない岡聡実は、その杯を飲んでしまったのです。

その日から、岡聡実は祭林組の幽霊組員になった!?。

そう言えば、堅気だった成田狂児も、カラオケ店のバイト中に親分にスカウトされたとか。

それに、幽霊組員は、岡聡実が創設者に気に入られた映画部の幽霊部員であることとも符合しますね。

追記Ⅳ 2024.2.21 ( ほんとうは「京児」だった )

「成田狂児という名前は本名なのか」と岡聡実から聞かれ、免許証を見せるシーンがありました。本名でした。「狂」という字は珍しいですね。

その関係で、出生届のエピソードも出て来ました。母が出生届に書いた本当の名は「京児」だったのです。

母は育児で忙しかったので、酒浸りのダメ親父に出生届の届出を頼みましたが、父は煙草の灰をうっかり名のところに落としてしまいました。幸い穴までは開きませんでしたので、父は灰を払い、かすれた文字の上から、太いペンで「狂児」と書き換えてしまったのです。

「狂」という文字は人名に使うにはあまり適していないように思いますし、「児」の筆跡にも書き癖のようなものがあって訂正したくなります。しかし、窓口で大声を出しそうな雰囲気の父を前にして、もしかしたら、窓口職員は怯んでしまったのでしょうか。そのまま受理されたようです。

幼い頃の狂児は、その名からイジメにあった可能性があります。そのイジメを跳ね返すために彼は強くなったのでしょう。もし「京児」だったら、違う人生を歩んだ可能性もあるように思いました。

ちなみに、家庭裁判所の許可を得れば戸籍の「名の変更届」が出せると思います。

追記Ⅴ 2024.2.21 

Little Glee Monster「紅」× 映画『カラオケ行こ!』コラボMV (youtube.com)

追記Ⅵ 2024.2.23 ( 映画「リンダリンダリンダ」も同監督の音楽映画 )

山下敦弘監督の作品には映画「リンダリンダリンダ」があります。これは学園祭でバンド演奏をしようとするJKのお話。メンバーが一人足りないので、韓国人留学生でカタコトの日本語しか分からず、一人ぼっちでいたJKを誘うのです。

それから映画「天然コケッコー」や、映画「もらとりあむタマ子」があります。すべて好きな作品です。

追記Ⅶ 2024.2.23 ( 映画「アナライズ・ミー」 )

映画「カラオケ行こ!」から映画「アナライズ・ミー」を連想しました。オマージュかはまだ分かりません。

追記Ⅷ 2024.2.25 (「狂児」の正体は「岡聡実」かも )

映画「ゴジラ −1.0」のネタバレにもふれています。

『 つまり、「ゴジラ=典子」だとも言えそうなのです。

草食系男子!?である浩一にとっての恐怖は、押しかけ女房のように結婚を迫る女性であり(ゴジラ)、その上、その女との間に子供が生まれる事は、もう責任回避が出来ない、遊びでは済まなくなるので、絶望の象徴なのでしょう。

この映画「ゴジラ −1.0」は、浩一が典子と暮らした日々、その心象風景を、浩一の視点で、ゴジラを使って描いていたのかもしれません。』

( 私の映画「ゴジラ −1.0」のレビュー追記14より抜粋)

上記のように「ゴジラ=典子」であるならば、映画「カラオケ行こ!」では「狂児=岡聡実」なのでしょう。狂児とは、声命(こえいのち)である合唱部の部長・岡聡実が恐れている、変声期の向こう側にある未知の自分なのでしょう。狂児とはその不安の心象風景なのかもしれません。

追記Ⅸ 2024.2.26 ( 入れ墨柄の傘からヤクザを夢想した岡聡実 )

では、なぜヤクザなのかと言えば・・・岡聡実は両親(悪い人ではないが)と歯車がかみ合っていません。入れ墨のような柄の傘は両親の好みです。違う傘が欲しくて「無くした」と両親にねだっても、又、同じ柄の傘を買ってきてしまいます。呆れてものが言えない岡聡実。

あの入れ墨柄の傘をさして雨の中を歩くとき、岡聡実は自分の背中に、雨に濡れた入れ墨があるように感じたのでしょう。そして、そんな非道!?をした両親が、カラオケ大会の罰ゲームで、下手な入れ墨を子分に入れる親分を夢想させたのだと思います。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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