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オウム真理教を飼い慣らした国家権力

『コロニア・ディグニダ: チリに隠された洗脳と拷問の楽園』(2021年公開 / 全6話 / 全316分/ Netflix)製作総指揮:グンナル・デディオ

ドイツからチリに渡ったキリスト教徒たちはカリスマ的な指導者を盲信し、楽園のような共同体を設立。だが、その実態は、拷問と独裁による地獄そのものだった。

「コロニア・ディグニダ」については、映画『コロニアの子供たち』たちやストップ・モーション・アニメの傑作『オオカミの家』を観てから興味を持ったのだが、このドキュメンタリーが一番その事件の内容を伝えていると思う。

「コロニア・ディグニダ」はナチスの残党者が作った新興宗教団体(キリスト教系)なのだが、医療施設や工場まであるオウム真理教みたいだった。それが軍事政権ピノチェトと繋がったのは左翼の弾圧でコロニアの施設を拷問所(病院で治療目的とすれば正しき施しなのだと思う)として利用して多くの反ピノチェトの人々を虐殺したからだ。そのシステムがナチスやソビエトの収容所システムと同じだし、世界になおそうしたシステムが絶えないのは、権力者に取って都合がいいからである(北朝鮮の収容所は関心を集めるが、日本の精神病棟とか老人ホームでも行われていることだった。そういうドキュメンタリー番組はETVでも放映されていたりニュースでも伝わってくる)。

アジェンデ政権(左翼政権)打倒のために軍部とコロニアが手を結んだのだった。コロニアの中は共産主義的なんけど独裁者がファシストだから左翼弾圧にはちょうどよいパートナーだった。日本でも政治に宗教団体が影響するのはそんなところだった。満州国が大きなコロニア(コロニアには植民という出自がある)だったし、その中で反乱組織は容赦なく虐殺していくのだし、それは日常茶飯事になって、支配する側は無関心なのだ。

なんならチリの貧困を救うという天命(キリスト教的)を帯びて医療や化学工場に従事している。驚くのはサリンまで製造していて、アルゼンチンとの戦争ではそれを使うところまで考えていたという(関東軍の731部隊を連想する)。そういう秘密裏に隠された組織が、ドイツ人入植者が中心であるキリスト教団体の「コロニア・ディグニダ」なのである。

かれらはドイツからは犯罪組織として認識されたが、チリの大地震のときにチリの民衆を救う共同体にはちょうどいいというので、チリ政府から要請があり勢力を広げていた。ナチスの残党なので軍事的知識はあり、そのようにチリ軍部とも密接な関係が出来ていく。アジェンダ政権のときに工作部隊として働いたりしたのも「コロニア・ディグニダ」であるという。そうして軍事政権が誕生すると切ってきれない関係が出来上がるのだった。

軍事政権の崩壊過程で次々と「コロニア・ディグニダ」の組織的犯罪があきらかになるのだが、教祖がナチスの残党であるパウル・シェファーである。彼はカルト共同体にキリスト教的な躾けと軍部のシゴキを合わせたもの導入した。それは日本の旧軍隊と一緒と考えてもいいかもしれない。教祖であるシェファーがミスをする信者を豚と罵るのだ。そうやって笑いを取り人気者になっていくやり方はけっこうあるのかもしれないと思った(自衛隊のセクハラ問題もそうだし体育会系のシゴキはいまなお神聖視される、相撲界とか)。SMチックな支配の仕方だよな。屈辱を与えてそれが大いなる愛だというようなあり方。当然それに反発する者も出てくるのだが体制は権力側にあるので孤立していく。なんなら精神病院に隔離しますよという方式なのである。それらはどこかで観た光景だと思ったらまさにオウム真理教の内部と同じだった。ただ違うのは国家権力と結びついているかだけなのである。

コロニアが共同体でそういう暗部が隠されていくというのは日本の組織(宗教団体)ではよくあることで、知らなかったとかどうしようも出来なかったというのは中の人の声だった。それはナチスとドイツ国民の関係と同じだった。

そういう要因は今の日本の政治の中の秘匿主義の中に充分有り得るのだし、なんなら日本の組織自体がそうしたものだと言えるかもしれない。それが次から次へと明らかにされるが改善されないのは(いやというほどこの手のニュースは上がるがどこか冷めている。ジャニーズとか)、どこか国民もナチスを肯定した国民と同じになっているのではないか。ナチスの手法を学べと言ったのはこの国の元総理なのだ。

「コロニア・ディグニダ」で行われたことが犯罪的行為にもかかわらず植民してきたドイツ人はその組織が悪い面ばかりではなくチリ人を救ったのだと考えていく植民地思想。リーダーのシェファーもへんなオジサン(日本のリーダーもこの手は人気がある)という認識だった。その変なという認識は、例えばお笑いで常軌を外れているが好感を持ってしまう人物像に近いのかもしれないと思った。すでに「コロニア・ディグニダ」に要素は日本人に根付いているような気がした。それが反社であるかどうかなのだ。


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