12月の読書
ミル『自由論』の感想(というかまとめ)が越年になってしまった。
『夏の栞―中野重治をおくる』佐多 稲子
『場所』アニー エルノー
『完本 中也断唱』福島泰樹
『パトリックと本を読む:絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ
『内臓とこころ』三木成夫
『失われた時を求めて〈10 第7篇〉見出された時 』マルセル プルースト
『短歌と日本人〈5〉短歌の私,日本の私』坪内稔典編
『石川啄木の百首』小池光
『短歌タイムカプセル』(著, 編集)東直子 , 佐藤 弓生,千葉 聡
『自由論』ジョン・スチュアート ミル
2022年12月の読書メーター
読んだ本の数:26冊
読んだページ数:6206ページ
ナイス数:589ナイス
https://bookmeter.com/users/56191/summary/monthly/2022/12
■夏の栞―中野重治をおくる― (講談社文芸文庫)
中野重治の死去を回想したエッセイ。というよりエッセイ的な私小説。癌による余命宣告の描写は緊張感溢れる描写になっている。そして、中野重治が佐多稲子を小説家に導いてくれたなれそめ、最初は随筆(エッセイ)を書いていていたのだが、それを小説に拡げてみなさいと言ったのが中野重治のアドバイスだった。佐多稲子の小説家としての生みの親でもある。その惜別の感情が、中野重治の追悼文というスタイルでありながら作家としての小説を書くことで、生きながらえてきた彼女の小説家としてのメタフィクション小説と言えば言えるのかもしれない。
読了日:12月30日 著者:佐多 稲子
https://bookmeter.com/books/620152
■斎藤茂吉の百首 (歌人入門)
ふらんす堂の「歌人入門」シリーズは、『石川啄木の百首』がわかりやすかったので、わかりにくい斎藤茂吉も読んでみようと思った。その前に中野重治『斎藤茂吉ノート』を少し読んだけどど難しすぎたので、一首解説のこのような本の方が初心者には優しい。 だからと言って斎藤茂吉の短歌が優しいわけではなく、動物虐待はするし、大和魂とか言いそうだし、男尊女卑な短歌が見受けられる。なんでそんなに崇められるのかというのが正直な感想だ。ただ斎藤茂吉はなんでも短歌に詠んでいたようで、そのスタイルは真似てもいいのかも。
読了日:12月29日 著者:大島 史洋
https://bookmeter.com/books/11227045
■自由論 (光文社古典新訳文庫)
読了日:12月28日 著者:ジョン・スチュアート ミル
https://bookmeter.com/books/5144212
■場所 (Hayakawa Novels)
今年度(2022年)のノーベル賞作家だというので読んでみた。初読み作家。労働者階級の父の葬儀から回想へ、語り手は労働者階級から抜け出てブルジョア階級の作家になるのだが(ほぼ自伝的?)、ブルジョアのフランス文学とは一線を画す階級を描いたリアリズム小説。いままでそういう小説はなかったのか?と思うがフランス文学ではなかったのかもしれない(移民の文学はあったが)。父との関係に付随する母との関係も見え隠れするのだが、その予感が次回作なのか、続けて読みたい作家でもある。そして、刺激的な映画も公開されていた。
読了日:12月26日 著者:アニー エルノー
https://bookmeter.com/books/188269
■短歌 2022年9月号
この号はあまり読むべき所がなかった。特集が「ほっこりする歌」なんだが、こういう歌にストレスを感じてしまう私の方に欠陥があるのだろう。そもそも「ほっこりする歌」とはなんぞや?まず、そこからだった。「僕はいかにも幸福なアルバムが嫌いでね。僕が幸福な時、僕はいかにも幸福なアルバムは聴きたくないし、本当に悲しい時は、幸福なアルバムは聴きたくない。だから個人的に、僕の人生には幸福なアルバムの入り込む余地はあまり無いんだ。」Twitterに流れたきたデヴィッド・ボウイbot。そういうことだ。
読了日:12月25日 著者:
https://bookmeter.com/books/20127217
■究極の俳句 (中公選書 118)
俳句も短歌に押され気味で岐路に立たされているのだと思う。そのことを踏まえて「究極の俳句」という極北の文学性を求めるのか、あるいは短歌のように一般へと開放していくのか、このへんは難しい問題で、個人の思いもあるだろうから一概には言えないのだが、このスタイルは今は流行らないのだと思ってしまった。結局芭蕉の俳句が一番で、そこに中央集権的な権力機構が働いてしまうのではないか?それは文語というものを最後まで疑い得ない著者の態度であろう。そこのところがわかりにくいというか、テーマ性を持てということはいいと思うのだが。
読了日:12月23日 著者:髙柳 克弘
https://bookmeter.com/books/17906621
■文學界(2022年5月号) (文學界新人賞発表)
文芸誌の短歌特集「幻想の短歌」は読み応えのある特集。しかし、最初に注目したのは、文學界新人賞の〈受賞作〉年森瑛(としもりあきら)「N/A(エヌ・エー)」だった。この作品は久しぶりに読む現代日本の文学だった。例えば、宇佐見りんのオヤジ殺し(中上健次偏愛)の文学や九段理江の太宰偏愛小説とは違う現在の思春期の女子高生を捉えていてオジサンにはわかりにくい文学なのだろう。その批評で一番わかりやすいオジサン評価だった東浩紀の選評と合わせて読むと面白い。短歌特集だが俳人との座談会が面白かった。
読了日:12月22日 著者:
https://bookmeter.com/books/19570659
■完本 中也断唱
「中也断章」のⅠが中原中也の伝記を短歌にしたもので、これが一番面白かった。中也と長谷川泰子と小林秀雄の三角関係を短歌として物語形式で歌っているのだ。福島泰樹の絶叫は中也のいたたまれない姿と重なる。文字だけでもその姿を追えると思う。この短歌の手法は新鮮だった。福島泰樹の短歌が中原中也に憑依するのだ。そしてⅡになると中也の詩を短歌に変える本歌取りだが、やはり中也の詩の方が面白いような気がした。それは中也の言葉に寄り添って似せることの模倣だから中也の詩の枠をはみ出すことはない。
読了日:12月22日 著者:福島 泰樹
https://bookmeter.com/books/2324659
■パトリックと本を読む:絶望から立ち上がるための読書会
最近流行りの読書会ものと違うのは、共感の先に表現することがある。それは生徒であるパトリックもそうなのだが、語り手自身もパトリックを通して語ることを学んでいる。学ぶことは、相互扶助的に他者を必要とする行為なのだ。それは語り手のカフカの言葉に集約されている。黒人の公民権運動をパトリックに教えながら、彼女が学んでいったのは表現ということだった。そしてパトリックが娘と加害者の母に手紙を書くことが物語として語られるのだが、それはミシェルの母への手紙としての文学でもあった。
読了日:12月20日 著者:ミシェル・クオ
https://bookmeter.com/books/15526256
■短歌 2022年8月号
【特別座談会】流行る歌、残る歌
必ずしも流行る歌が残るわけでもなく、残るからいい歌でもないという。斎藤斎藤氏の残る歌の3つの条件。一発で耳に残る歌。構造がしっかりしている歌。人間の普遍的生活様式に根ざしている歌。それぞれの好みの違いを見ると面白い。大森静佳は三人に選ばれていて俵万智だけ選んでないけど後から大森静佳『手のひらを燃やす』はめちゃいいと言っている。軽いな。俵万智がいるところで、斉藤斎藤氏が俵万智の歌をあげているのが「相部屋の感想聞けば「鼻くそがほじれないんだ。鼻くそたまる」」。悪意があるだろう。
読了日:12月18日 著者:
https://bookmeter.com/books/20032803
■知っ得 短歌の謎―近代から現代まで
出版社が「國文學」という雑誌を出していた硬派の出版社。今はないようだ。作りは教科書的というか参考書のようでもあるが、一応短歌界の全体を紹介しているガイド本である。最初に「短歌の謎」として、佐々木幸綱『短歌の謎』と三枝昂之『短歌史の謎』が基本論調で伝統的な短歌の考え方。この2つを読めばあとは各作家の興味と名歌の鑑賞である。図書館本なんでサラッと流すように読んだ。名歌の鑑賞はじっくり味わうといいのかもしれない。
読了日:12月16日 著者:
https://bookmeter.com/books/166106
■内臓とこころ (河出文庫)
この表紙を見たときに『胎児の世界―人類の生命記憶』 (中公新書 )を思い出した。同じ著者だったのか?と今になって気づく。胎児の世界が辿る道は、古生代の卵から魚類、爬虫類、さらに哺乳類と進化を遂げているというもの。人間の(というか魚類から進化過程で)鰓(エラ)が手に変化したというのがある。赤ん坊はまだ手の連帯が不十分らしく、ものを認識するのに舌を使うという。幼子が何でも口に持っていくのはものを認識する為で毒素に対しても耐性を養っていくのだという。
読了日:12月16日 著者:三木 成夫
https://bookmeter.com/books/6451653
■人と作品 与謝野晶子 (Century Books―人と作品)
二部構成で第一編が晶子の伝記、第二編が作品論でわかりやすい。鳳晶子は『みだれ髪』で女性の身体的欲求を感情のままに歌っていた。当時はそれが不道徳なこととされ、バッシングされたのだ。しかし後年は、与謝野晶子がそうした不道徳な女性運動を批判し、女性教育者となり、保守化していく。その思想的流れも汲み取ることが出来る。なによりも与謝野晶子が与謝野鉄幹を愛していたのは、『明星』廃刊後、鉄幹がダメ男に成り下がったのに、彼を見捨てなかったこと。それは晶子の短歌の道を切り開いたのが鉄幹であったからだ。
読了日:12月15日 著者:浜名 弘子
https://bookmeter.com/books/12291441
■短歌ムック ねむらない樹 vol.4
先に『ねむらない樹vol.5』を読んだのだが(図書館本だから借りられていた)、vol.5はリニュアル号となっていて、5号でリニュアルとは短歌雑誌も大変だなと思ったのだが原因として売上減少が考えられるが、この雑誌のメインは笹井宏之賞と思うのだ。随分気前がいい賞で、大賞には歌集出版と個人賞もそれぞれあって雑誌に掲載される。
それでも売上低迷なのかとも思う。短歌ブームとか、それは一部のことなのか、と思った次第。https://note.com/aoyadokari/n/nb85c949967b0
読了日:12月14日 著者:
https://bookmeter.com/books/15039007
■失われた時を求めて〈10 第7篇〉見出された時 (ちくま文庫)
なかなか感想が書けないというかまとまらなかったのだ。「見出された時」は老人文学と言ってもよく、それまでの『失われた時を求めて』が回想の文学としても時間は直線的に進んでいた。ここで語り手が老人としての振り返りがあるのだが、それが見事に描写されている。一つはズレなのである。若い時に感じていたこととのズレを見出していく文学は一回性の物語ではなく、反復なんだけど持続しているという時間論を含んでいる。それは悲劇に対して喜劇なのだ。そんな老人の姿、階段を急いで上れないとか、そういうことが身に沁みて共感出来る文学だった
読了日:12月12日 著者:マルセル プルースト
https://bookmeter.com/books/18256
■身毒丸
富岡多惠子『釋迢空ノート』によると折口信夫の青年期に「釈迢空」と戒名を授けた僧侶との出会いが『身毒丸』を書かせたとある。その真意は別にして、折口の手法は民族学をただ論文を書くということではなく、実践の場として文学で表現していくことだった(折口の「あとがき」参照)。それは「身毒丸」という身体を通して、あの世と通じる世界、その秘技が「明かしえぬ共同体」というべき儀式(秘技)があったと思われる。文学では、そのエロティシズムを感じてしまうというところか?「死」と「性」というような。
読了日:12月11日 著者:折口 信夫
https://bookmeter.com/books/5651338
■石川啄木の百首 (歌人入門)
この「~の百首」シリーズ他に寺山修司と斎藤茂吉と森鴎外があった。短歌だけではなく俳句のシリーズもある。これは特定の歌人について知りたいと思うときは便利な本。見開きで右に啄木の短歌、左に解説(それほど詳しくないが一首解説なので十分である)。
啄木の最後に活字になった歌の哀しきユーモア。これ以降は寝たきり生活で亡くなっていく。「最後の一葉」ではなく「最後の一声」が牛の鳴き真似だったら、それを病室の外で妻子が聞いているとか。可笑しい悲しさ。この線だなのだ、啄木のセンチメンタルさって。
読了日:12月10日 著者:小池 光
https://bookmeter.com/books/10013561
■悲しき玩具
『一握の砂』は砂=言葉ならば、啄木に取って玩具=歌(詩)であった。それは啄木が人生を賭けて、最後まで戯れた蟹でもあったのかも。2つの鋏がある蟹だ。家庭と世間と。啄木の身体そのものが玩具のような「さびしきその音!」という客観視した、センチメンタリズムなのだ。この凩の歌は啄木の肺結核の音だという。ほとんど絶筆前の歌らしい。伝説になる歌だと思う。https://note.com/aoyadokari/n/nc94ea221f472
読了日:12月09日 著者:石川 啄木
https://bookmeter.com/books/5643600
■ぼくらの戦争なんだぜ (朝日新書)
高橋源一郎の戦争文学入門というような読書ナビゲーターなのか?「高橋源一郎の飛ぶ教室」と内容的に重なる部分が多かったが活字で読めるのはいいことだと思う。ただ古市憲寿に寄り添うのはどうかと思う。それと高橋源一郎もセンチメンタルすぎるかなと最近思えてきた。文学については良きナビゲーターなのだが。https://note.com/aoyadokari/n/ne2644dd61314
読了日:12月08日 著者:高橋源一郎
https://bookmeter.com/books/20002198
■短歌と日本人〈5〉短歌の私,日本の私
短歌の「私性」は注意する必要がある。結局背後に「私性」を感じさせるということは、読者論で言えばすべてが許されているというような。それをあえて「私性」と言わなければならない構造が、短歌以前の和歌の世界ではあったのだ。結局は「私性」は場によって収束されていく概念であり、それが短歌の結社や短歌界の力関係に影響している。つまり内輪世界ということだった。それは俳句よりも短歌の方が世界的に広まっていないという現れであるようにも思える。日本独特の韻律や積み重ねている歴史的背景は、合理性よりも不合理なものだと思った。
読了日:12月08日 著者:
https://bookmeter.com/books/686609
■一握の砂
この連作短歌は、行分けという近代詩の影響も受けている。短歌では一行書きなのを行分け詩にしたのだ。それがまたヒットの要因となったのだろう。読みやすさとわかりやすさ(当時の人にとっては)が不変的なのだと思う。だから今でも読みつがれている。易しいということは単純なのとは違う。
それはふるさとと都会生活の対比として、それを繋いでいく鉄道詩の多さに伺われると思う。定住する場所を求めていく移動の人だったのだ。そしてその先には海がある。砂の場所というのは、啄木のこころ休める場所だった。そんな儚さが啄木のうたにはある。
読了日:12月06日 著者:石川 啄木
https://bookmeter.com/books/5616005
■短歌ムック ねむらない樹 vol.5
最近気になっていた短歌の「私性」の問題。それは結社で暗黙のルールとして、歌の背後には「わたし」の存在(視線)があるということだった。
寺山修司の虚構性短歌から入った者としては、いまだにそんなことをやっているのかと思ったが、この短歌における「わたし」性はけっこう根深い問題だったのだ。日本の詩歌全般にかかわる問題であり、『万葉集』からの伝統なんでと言われてしまうとちょっとなとは思う。それが敗戦によって日本の短詩型の問題。定形で共同体に自我を叙情性に同調させてしまうのはどうかという意見が外から出てきた。
読了日:12月06日 著者:書肆侃侃房編集部
https://bookmeter.com/books/16214434
■パスカル『パンセ』を楽しむ 名句案内40章 (講談社学術文庫)
パスカル『パンセ』の言葉をキーワード的に40のトピックで解説した本である。パスカルの言葉は逆説の論理で哲学者というより詩人に近いと思う。有名な「人間は一本の葦にすぎない」も論理的には破綻しているが、詩として読めば葦は象徴的で実直なまでの言葉なのである。直感という論理学よりは詩的言語にふくまれるのではないか?勿論、そこから哲学的に論理を構築していくのは哲学(論理学)と言えるのかもしれない。https://note.com/aoyadokari/n/n4ce20ee1250b?from=notice
読了日:12月06日 著者:山上 浩嗣
https://bookmeter.com/books/11212202
■短歌 2022年7月号
この月は、ロシアのウクライナ侵攻の歌が多くて、社会詠(時事詠)は、ほとんどの人の短歌があり、それはこういう特集だったのかと思ったのだ。短歌の社会詠は多いと感心したのだが、すべてを読む気にはなれなかった。やはりただ時事を読むだけではなく、自分に引き付けて歌にしなと、歌にはならないと思ってしまった。穂村弘はウクライナ情勢は全然歌ってなかった。それでも「コロナ禍」は歌っていた。でも一番好きだったのは懐かしの社会詠だった。https://note.com/aoyadokari/n/n896c5b2c3d6e
読了日:12月04日 著者:
https://bookmeter.com/books/19898327
■ことばと国家 (岩波新書)
学校教育の国語は、母語を母国語を矯正するためのものだとか。母語は、子供が母親から自然と覚えることば。そして、それは方言の場合もあれば国語とは別の言語でもあるかもしれない。アイヌ語とか琉球語は国語とは言わない。外国語とも違う。ではなんなのか?方言の一種とされているのか?琉球語(沖縄語)はそうでした。アイヌはまた違うようなのだが。
沖縄では方言を使うと罰札があって、沖縄方言を使った子供はそれをずっと付けていなければならない。外せるのは、他の方言を使った生徒を密告するとか。相互監視システムだった。
読了日:12月02日 著者:田中 克彦
https://bookmeter.com/books/445532
■短歌タイムカプセル
現代短歌の動向を知るのにこれほど素晴らしいアンソロジーはないと思う(あるかもしれないが今のところ)。
知っている有名歌人からしらない歌人まで、115人の作品が二十首づつ。お買い得ですよ。そして、一首鑑賞もわからない歌の理解に役立つし歌人の傾向も知ることが出来る。とりあえずこれを現代短歌のナビゲートして、気になった歌人の歌集なりを読んでみるのがいいのだろう。
読了日:12月01日 著者:東 直子,佐藤 弓生,千葉 聡
https://bookmeter.com/books/12557758
▼読書メーター
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