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社会詠よりも「啄木ごっこ」

『短歌 2022年7月号』

もののあはれを知る
【カラーグラビア】
名湯ものがたり 越後玉川温泉…香川ヒサ
空の歌…松木 秀 選
【巻頭コラム】うたの名言…佐佐木幸綱
【巻頭作品28首】高野公彦・佐伯裕子・松平盟子・穂村 弘
【巻頭作品10首】井川京子・池本一郎・黒木三千代・佐々木六戈・大塚寅彦・辰巳泰子
【特集】『岡野弘彦全歌集』を読む
特別作品20首…岡野弘彦
歌人・岡野弘彦の魅力…小島ゆかり・島田幸典
歌集評『冬の家族』『滄浪歌』『海のまほろば』『天の鶴群』『飛天』『異類界消息』・未刊歌篇1・『バグダッド燃ゆ』『美しく愛しき日本』・未刊歌篇2
【第56回迢空賞 受賞第一作30首】
大下一真「卯月皐月」
【緊急企画】戦火を目の前に
総論 いま、戦争とどう向き合うか…森山晴美・田村広志
作品9首+メッセージ…松川洋子・菊澤研一・島田 暉・三井ゆき・小嵐九八郎
【作品12首】青木昭子・丹波真人・石田容子・古谷智子・小林幸子・塚本 諄・戸田佳子・山田吉郎・住谷 眞・大井 学・本田一弘
【作品7首】市原敏司・大橋栄一・杉山春代・浜口美知子・今野金哉・松尾謙一郎・木下のりみ・小島一記・山崎聡子・川口慈子・山口文子
【連載】
ぼくは散文が書けない…山田 航
啄木ごっこ…松村正直
フリージアの記…水原紫苑
挽歌の華…道浦母都子
かなしみの歌びとたち…坂井修一
一葉の記憶 ―私の公募短歌館―…長澤ちづ
歌人解剖 〇〇がスゴい!…黒羽 泉
うたよみの水源――現代短歌の先駆者を辿る…楠 誓英
短歌の底荷…朱竹・短歌21世紀
嗜好品のうた…江國 梓
ふるさとの話をしよう 福島…吉田信雄

【歌壇時評】【月評】【歌集歌書を読む】【書評】

【投稿】角川歌壇・題詠

【緊急企画】戦火を目の前に

この月は、ロシアのウクライナ侵攻の歌が多くて、社会詠(時事詠)は、ほとんどの人の短歌があり、それはこういう特集だったのかと思ったのだ。短歌の社会詠は多いと感心したのだが、すべてを読む気にはなれなかった。やはりただ時事を読むだけではなく、自分に引き付けて歌にしなと、歌にはならないと思ってしまった。

着弾に画像は揺れてそののちのコーヒー皺むわたくしの前  松平盟子

『短歌 2022年7月号』から「歴史の壺へ沈んでいくのだ」松平盟子

穂村弘はウクライナ情勢は全然歌ってなかった。それでも「コロナ禍」は歌っていた。でも一番好きだったのは懐かしの社会詠だった。

光化学スモッグの町をぴょんぴょんと東京ボンバーズに憧れて  穂村弘

『短歌 2022年7月号』から「時間警察手帳」穂村弘

他に興味を惹いた短歌は、「さまよういのち」高野公彦の短歌

ウクライナに昌子がゐたらどう歌ふ そのあと思ふ 黙(もだ)す昌子を
「ポイ活をディスるパワハラ」ピジン語となりゆくやうな令和日本語

『短歌 2022年7月号』から「さまよういのち」高野公彦

昌子の歌はパロディ短歌だろうけど、「黙す」は面白い。そのうちすべての歌人が「黙す」かな。

【特集】『岡野弘彦全歌集』を読む

折口信夫の弟子ということで『折口信夫伝』を読んだことがあったが(途中まで)短歌はそれほど興味がなかった。社会詠的なもので『バグダッド燃ゆ』が興味深い。その最初に歌に

歌こそは概みの声。人みなの廃れゆく世に黙してあらめや

岡野弘彦『バグダッド燃ゆ』

「概み」は「おおむ」みかな。こういうわからん読みを使う人は駄目だった。でも「黙す」を使ったのは岡野弘彦が最初だったのかもしれない。少なくとも先に上げた高野公彦はこの歌も射程に入っていると思う。この最初の歌は釈迢空の歌を継承している。ただ次の歌になるとちょっととなるのだった。

国びとの心廃るる世になれども ほろびずあれよ。やまと言の葉

岡野弘彦『バグダッド燃ゆ』

地に深くひそみ戦ふ タリバンの少年兵をわれは蔑(な)みせず

岡野弘彦『バグダッド燃ゆ』

戦時の日本の少年兵と重ねているのだと思うが、それ以上の言葉が出てこない。

『啄木ごっこ』松村正直

その他に面白かった記事は、最近ハマっている石川啄木の連載、『啄木ごっこ』松村正直。啄木の問答歌の系譜を穂村弘に見ているのがなるほどと思った。

『なに見てさは戦くや』『大いなる牛のながし目に我を見て行く』  石川啄木

「酔ってるの?あたし誰だかわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないのかな」  穂村弘

『短歌 2022年7月号』より『啄木ごっこ』松村正直

『かなしみの歌びとたち』坂井修一

近代に前衛的な短歌を詠んでいた前川佐美雄は、戦時ファシズムの中で大政翼賛歌を作った。彼のマルクス主義やシュールレアリズムは社会の方を変えるといよりも自分の中にあるものを変えるという興味の元での短歌だった。まだ自己が定まっていなかったのだ(未熟だった)。そんな彼はモダニストだったとい指摘。戦時の歌人の変化を知る上でも興味深い記事だった。


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