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年末に読みたい小説

『大つごもり』樋口一葉

明治文学を代表する小説家、歌人である樋口一葉の短篇小説。初出は「文學界」[1894(明治27)年]。写実性を深め、一葉文学の転機とも言われる。主人公のお峯は貧しい叔父一家を救うために、主家の金二円を盗んでしまう。弱い人間が貧しさゆえに落ちていく罪の世界は、一葉の生活体験に支えられた発想であり拾われた主題である。

「大つごもり」は「大晦日」の意味。樋口一葉の文学が確立される最初の作品。『大つごもり』『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』『別れ道』を書いた時期を「奇蹟の14ヶ月」言う。

一葉の文学の特徴は文語体(七五調)の中に江戸っ子の言葉を入れて、即興演奏のように文章が続いていく。七五調が延々と。それは言葉のリズムでもって語り手の主体の心模様を描いていく。意味も大切だけど感じることが優先される。

大晦日の大掃除の合間にちゃちゃっと読んでしまいましょう。声を出して朗読するがよし。リズムの心地よさの中にめぐるめく言葉・言葉の氾濫するストーリーは、ジャズで言うとコルトレーンの「シーツ・オブ・サウンド」のよう。彼女の「ジャイアント・ステップ」的な作品なのです。

お峰が盗みを働く言葉、「拝みまする神さま仏さま、私は悪人になりまする、成りとたう無けれど成らねば成りませぬ、罰をお当てなさらば私一人」、それが明らかにされるラストの決め技。道楽息子の石之助「お峰の守本尊なるべし、後の事しりたや。」一気果敢に読ませる短編小説。

『年末の一日』芥川龍之介

大正期に活躍した「新思潮派」の作家、芥川竜之介の短編小説。初出は「新潮」[1926(大正15)年]。短編集「湖南の扇」[文藝春秋社出版部、1927(昭和2)年]に収録。「僕」は二羽の水鳥が泳いでいる不気味な夢からさめると、友人の「K君」が漱石の墓を見に行こうと誘いにやってくる。同時代評はやや低かったが、近年では評価する傾向にある。

芥川は年末なのに相変わらず現実という闇に突き落とす。昼まじかに起床のだらけた生活。夢から覚めて、外に追い出される。途中まで亡き漱石先生の墓参りエッセイかと思ったが、最後が凄い。

漱石先生の墓がなかなか見つからない。幼い頃に餓鬼大将に虐められて泣くのを我慢して家に帰った記憶が蘇ります。不安神経痛でしょうか?

そして、箱車で道端で休んでいる男と出会う。「東京胞衣会社」ってなんなん。年末まで仕事があるって。ブラック企業か?いや、世間に必要な会社なんだ。そういう仕事があって歯車が回っていく。その歯車に.........。

『失われた時を求めて』マルセル・プルースト

気分を変えて、年越し読書です。もう何年も年を越しても読みきれない小説。来年は読み終わっていますように。



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