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つなぎとしての女帝の時代

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』(2022/アメリカ)監督ライアン・クーグラー

出演者がわかりませんでした。『ブラックパンサー』がチャドウィック・ボーズマンの映画であり、彼が若くして病死したのは現実世界であり、それを物語でも上手く折り込んでいて、この新作はチャドウィック・ボーズマンに捧げられている映画になっています。

短歌の世界に挽歌というジャンルがあり、不幸にして亡くなった人の魂を現実世界に彷徨わないように供養する歌を捧げるのが『万葉集』にも歌われています。

『万葉集』は「壬申の乱」以後に、夫で権力者の天武天皇亡き後に後継者がきめられずに、とりあえず妻である女帝持統天皇が統治するという形を取ったのです。それによく似ていると思いました。

持統天皇は武力に優れているわけではないけど政治的優秀でした。まだ幼い後継者問題をとりあえず棚上げにして、『日本書紀』と『万葉集』を纏めて武力ではない文力で統治して中央集権化させたのです。そのときに巫女としての力がまだその時代には残っていた。だから歌を主体としてまとめ上げることが出来たのだと思います。

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』は皇帝である息子が亡くなって母親が女帝になる。彼女は巫女的な前世紀世代の女帝です。その彼女には、まだ部族をまとめ上げるだけの力がなかった。それが女性剣士の暴走を生んでしまった。それは娘の暴走でもあるのですが、娘は科学の力を信じている。

そして部族社会をまとめ上げるのが魔法の石で、それは原子力の素になるような物質らしい。もともと地球にはなくて宇宙から来たものです。だから神話的な物語が強くなる。敵対するもう一つの魔法の石を持つ部族は海の部族だった。それはアマゾンの半魚人みたいでしたけど、メキシコのマヤ文明を想起させる。マヤ文明はキリスト教国家に滅ぼされたのですね。それで彼等は悪魔とされたのです。

資本主義先進国のアメリカはキリスト教国家でヨーロッパ帝国主義の末裔ですね。その世界支配が問題となっている。それは武力によるもので、世界警察となるには魔法の石が不可欠になっている。だからワカンダ王国の魔法の石を狙うのですね。このへんは現実社会と同じですね。

水の中に生息地を見つけた半魚人族(アバターみたいでした)は、アメリカ中心の世界は我慢出来ないので、それでワカンダ王国に協力を求める。ただワカンダ王国の女帝は立場があるので属国にはなれない。そのへんがだらだらと描かれて前半はちょっと退屈するかもしれないです。

後半30分ぐらいの格闘シーンは、ハリウッド作品だけあって飽きさせないです。ハリウッド様式美のような戦闘シーンですね。だいたいこのシリーズは似たような戦闘シーンですが、そういうのが好きなんですね。それは繰り返し見せられたからなのか、もともと人は戦闘シーンが好きなのか、わかりませんが、戦闘シーンもダンスのように思える。この映画のポイントは歌と踊りで、それがワカンダ王国の部族をまとめ上げるものになっているのだと思います。戦闘はその延長線上にある。

結論から(ネタバレかよ)言いますと今回の『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』は繋としての物語なんです。そのための語り手は母である女帝でしたけど、死なざる得なかった。それで娘が後継者となるのですが、あくまでもつなぎとしての役割でした。そこにヒーローものの限界を感じてしまう。男じゃなければ駄目なのかと。女帝はあくまでもつなぎとしての役割、巫女であったり科学者であったり。

そして「フォーエバー」と永遠性が歌われる(物語)のは、皇帝亡き後の、『日本書紀』や『万葉集』のような女帝時代であったと思ったわけです。


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