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ノラは「問い」の演劇。

『人形の家』イプセン (著), 原 千代海 (翻訳) (岩波文庫 赤 750-1)

「あたしは,何よりもまず人間よ」ノーラは夫にそう言いおいて家を出る.ノルウェーの戯曲家イプセン(1828-1906)は,この愛と結婚についての物語のなかで,自分自身が何者なのかをまず確かめるのが人間の務めではないか,と問いかける.清新な台詞と緻密な舞台構成がノルウェー語原典からの新訳でいきいきと再現される.

三幕の戯曲。三幕は、少ないように感じるがどうなんでしょう?起承転結が頭にあるからかな。シェイクスピアは三幕以上だったし、チェーホフもたぶん。三幕だと序破急かな?Wikipediaだと映画は三幕らしい。「設定」「対立」「解決」だそうだ。それも新しかったのかな。

第一幕

クリスマスイブの年末での金銭の出費が多い時、ノラは金銭感覚がない主婦のように描かれている。高飛車で共感を得にくい。夫(弁護士→銀行の頭取)が出世して安定的な生活になるもそれ以前の苦労話を語る。その時期に、クロクスタから借金をする。クロクスタは『ヴェニスの商人』シャーロックのような描き方。

頭取になった夫から解雇されそうになる。クロクスタは、金銭絡みで犯罪的な事件を起こしたので、信用されない人物。ノラは、古くからの友人の寡婦であるリンデ夫人に夫に仕事の斡旋をするつもりだった。クロクスタはお払い箱。ノラが有利にならないのは借金のせい。クロクスタによりノラの借用書の不正が発覚。

第ニ幕

はクリスマス。「対立」ということなのだが、ここでノラが対立するのが夫のヘルメルだということ。借金取りのクロクスタも対立していると言えば言えるのだがすでに過去に属することなのでノラの共犯関係になているのだ。

ノラの主張はクロクスタの脅迫と重なる。むしろ、クロクスタを辞めさせたい夫との対立なのだ。その関係が見えてくると第三幕は唐突でもない。

第三幕

はクリスマスの後始末。そっか、ここでノラは人間としての自立ということになっているのだ。それまでは、夫や父親に従属された未熟な人間だった。クリスマスの出来事だというのには注意する必要があると思う。神からの自立の話でもあるのだ。解決されないドラマではあるが。

神=作家の手元を離れていくノラだった。彼女の未完性が新しいのだ。例えば強引に結婚してしまったクロクスタとリンデ夫人。よくわからんけど作家であるイプセンが仕組んだのだった。この展開は夫との対立を明確にする為だがリンデ夫人とノラの対立軸もはっきりしてくる。

結婚してハッピーエンディングのストーリーはおとぎ話によくあるパターン。ここでリンデ夫人が幸せになるともノラが幸せになるとも描かれていない。その結末は読者に委ねられるのだ。そこがこの戯曲の新しさか。不確実性の人間。

もうひとりよくわからないのが医者であるランクの立ち位置。ノラと駆け落ちするのかと思ったら死にぞこないで孤独死な運命。ランクは医者として働きながら自らの病気は治せない。不条理的な人物は、チェーホフの登場を予感させる人物と書かれていたり。ノラが看取ってくれるのを期待したいのだが、そんな余裕がノラにはない。

まあ、ノラの運命をランクが暗示しているのかもしれない。ただその解答は読者に委ねられるということだ。ノラは問いなのだ。日本でノラを演じた松井須磨子もロシアで自殺したわけだ。そのことだけを見れば悲劇だろうけど。日本にいても良かったのか?ロマンに賭けた駆け落ちだったかもしれない。ノラとは関係ない話のようだけど、ノラに影響されていたのだと思う。

だから続編が書かれたりするのだろう。近代演劇の面白さかな。




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