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ナショナリズムに加担する映画

『『RRR』で知るインド近現代史』笠井 亮平(著)(文春新書 1443)

劇中歌「ナートゥ・ナートゥ」の“超高速ダンス”が話題となり世界的に大ヒット、2023年のゴールデングローブ賞、アカデミー賞歌曲賞を受賞したインド映画『RRR』
。を舞台に、英国軍にさらされた妹を取り戻すために立ち上がったビームと、大義のために英国政府の警察官となったラーマという2人の男の立場を越えた友情を、ド派手なアクションとVFX、歌とダンスで描いている。しかしこの『RRR』、極上のエンターテイメント作品と見て、じつは随所に歴史的、政治的な映像と匠が散りばめられている
。インドの二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』とは何か?主人公2人は実在の解放のための部族指導者をモデルとするが、実際はどんな人物だったのか?総督誰からイギリスを無視に悪役として描いたことに今のヒンドゥー・ナショナリズムの高揚とは?劇中で印象的に使われる(現在の国旗とは違う)旗の由来、エンドロールの背景に沿って現れるチャンドラ・ボースラ8人の解放のための英雄たち、そしていつかそこに“国父”ガンディーがいないのか?
『RRR』に秘められた意味と背景を解説しつつ、アカデミー賞9部門受賞の『ガンジー』や『ムトゥ躍るマハラジャ』などこれまでの数々のインド映画にも感動、映画でインド近現代歴史が学べる一冊。
目次
序章 『RRR』をご存じか?
第1章 「非・非暴力」の反英植民地闘争
第2章 映画が描いたインド独立闘争の一〇〇年
第3章 いまなぜ、インドで愛国映画が大ヒットするのか
第4章 それでもガンディーは偉大だった
第5章 日本はインド独立運動をどう描いたか?
終章 映画が描き出すインドの過去と現在、そして未来

『RRR』はインド映画でも日本で大ヒットし、評判も高いのだが何故か批評する人があまりいなかった。それはラストの8人のインド独立の英雄(インドは部族社会なのでそれぞれ地域の英雄を集めたという感じか?日本だと薩長連合のような)、その中にガンジーが登場しないのであった。その裏側は政権がガンジー・ネール派とは対立する政権になったこと。またGNPでもイギリスを抜いて5位(今日調べたら逆転していて7位に落ちていた)になったのでさらに国威発揚映画だったようだ。

その歴史として日本にも関係のあるチャンドラ・ボースに焦点を当て武闘派がインドで何故受けるのか解説している。まあ、独立戦争はどこの国も好きなんだと思うが。ただチャンドラ・ボースはドイツ・日本・ソ連とそのときにの勢いによって相手を選んでいるのであって、ソ連の影響下になったならば今のような繁栄はなかったかもしれない。

『ガンジー』がイギリス主体で作られたということもあるようだ。ガンジーの無抵抗主義の限界について、独立するときは武力闘争も必要だということなのだが。インドがナショナリズムになっている背景としてイスラムの脅威(パキスタン)があるようで、イギリスという仮想敵を作ることで国をまとめたいのかもしれない。

ガンジーの失敗がパキスタンを分離させたとしているがそうなのだろうか?もともと部族社会であったインドを一つにまとめるのが難しいということのようである。

またガンジーはイギリスで法律を学んだ弁護士であって、日本の東京裁判でもインドの検事はイギリスで学んだというから、ガンジーを尊敬していたと思う。チャンドラ・ポーズを尊敬していたという論調もあるようだが、それは論理が甘いように感じる。裁判という国際法はやはり西欧中心だろうし、その論理にパキスタンを分離させてしまったガンジーへの敵意があるのかもしれない。

あとインド映画でもヒンディー語版とタミル語版があり、それもまた対立関係にあるようだ。インドも一つの民族や一つの宗教でまとめていく困難さを感じる。そこでナショナリズムに導いていくには映画によるプロパガンダがいいのかもしれない。

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