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松本清張が昭和を推理する推理昭和史

『新装版 昭和史発掘 (3)』松本清張 (文春文庫– 2005年)

不況の暗い時代に青年将校が決起した「『桜会』の野望」「五・一五事件」。共産党の大検挙を陰で演出した「スパイ“M”」の正体に迫る

「「桜会」の野望」「五・一五事件」「スパイ"M"の謀略」の三本立。「「桜会」の野望」は五・一五事件、二・二六事件の軍事クーデターの先駆けとなった「十月事件」。日露戦争後の外交の失敗と政府の腐敗、貧困層と財閥との格差社会(今の日本に似ている状況かも)が背景。農家出身の青年将校らが個人独占資本主義に対する不満が天皇を中心とした国家主義として、共産主義とも成りかねない社会主義的な思想に重臣たちは憂慮したが、やがて日本全体が軍部主体の国体となる思想がはびこり、満州事変、支那事変の軍部独裁に繋がる流れが出来ていく。

「五・一五事件」。天皇を中心とした軍部独裁の右翼思想家、大川周明や北一輝の国体論に導かれた青年将校たちの「昭和維新」の捨て石となるべく行動は陸海軍の同情や共感を引き起こす。凄いのは昭和天皇の弟である秩父宮を立てて(流言だとされた)「壬申の乱」に匹敵する国家改革を目指す。「スパイMの謀略」共産党はこの頃、必要以上に弾圧されたのだが、その中でも警察(憲兵という説も)のスパイとして共産党幹部(ソ連まで行って留学した)であったMと呼ばれた男の資金調達のための「銀行襲撃事件」を先導して、共産党を壊滅状態にさせる。

その頃に牢獄にいた共産党幹部であった佐野学、鍋山貞親は共産党が銀行襲撃までしたと検事から聞かされて、「ひどいことしやがる」と言って転向した。立花隆『日本共産党の研究』でも「スパイMの謀略」事件が出ているという。行方不明になったMは特別高等警察(松本清張は「特高」説を否定したが)だったことが明らかに。(2019/07/15)


参考図書

『日本共産党の研究(二)』立花隆

映画


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