見出し画像

「西部警察」より面白い「特高警察」(国策映画です)

柳下美恵のピアノdeフィルムvol.5『警察官』(1933年/日本)監督内田吐夢 出演中野英治、小杉勇、松本泰輔、森静子、桂珠子、北岡勲、三保敦美、生方一平

1932 年に実際に起こった「大森ギャング事件」を元に竹田敏彦が新国劇へ書き下ろした戯曲が原作。内務省・警視庁全面協力で製作され、東京の街や警察署で存分に撮影された。国策的映画ではあるが、犯罪ドラマとしての魅力に加え、公僕としての警察官の使命と人間的な苦悩を描いた人間ドラマの傑作。張込みや指紋照合などの地道な捜査とラストの激しい銃撃戦の対比も鮮烈に描かれる。
伊丹警官は検問で車に乗っていた中学時代の親友富岡に出会う。ある日、銀行が襲われ、恩人の宮部警官が撃たれて亡くなってしまう。憤然と立ち上がる伊丹、だが犯人を追い詰めるうちに非情な現実を知り苦悩する。そしてついに警察官としての職務を全うすべく敢然と立ち向かう。

柳下美恵さんの無声映画のピアノ演奏も結構観ているのだが、今回は国策映画のエンタメ作品。「大森ギャング事件」といえば治安維持法時代の共産党弾圧事件で戦後にスパイMが関わった事件として有名。松本清張『昭和史発掘』や立花隆『日本共産党の研究』で実態が明らかに。スパイMは登場しなかった。明らかになるのは戦後だから。noteでこの事件を映画化したら面白くなりそうと書いていた。戦前に国策映画として作っていたんだ。手回しがよすぎる。

戦前にこれほどのエンタメ映画が出来たのは、警視庁協賛だったから他ならないわけだが、それにしても今見ても面白い。特高の西部警察という感じ。悪の組織は共産党の面々の悪人面。前半の友情物語はちょっと居眠りしてしまったが、後半のアクションシーンの素晴らしさ。

警察のバイク隊(当時は白バイじゃなかったようだ)の総動員とか、ちびっ子が見たらもろカッコえーとなる。夜のサーチライトのシーンとか逃亡犯を捕まえる大捕物劇の面白さ(このへんは時代劇のセオリーがあるのかな?)。

『飢餓海峡』の内田吐夢監督は、この映画以前は左翼思想を盛り込んだ「傾向映画」の傑作を次々と生み出しとウィキペディアにあった。そういう監督が国策映画を撮らなければならなかった時代についても考える必要があるだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?