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韓国ミステリーの傑作

『殺人者の記憶法 』キム ヨンハ (著), 吉川 凪 (翻訳)(新しい韓国の文学– 2017)

田舎の獣医キム・ビョンスの裏の顔は、冷徹な殺人犯だった。現在は引退して古典や経典に親しみ詩を書きながら平穏な日々を送る彼には認知症の兆候が現れ始めている。そんな時、偶然出会った男が連続殺人犯だと直感し、次の狙いが愛娘のウニだと確信したビョンスは、混濁していく記憶力と格闘しながら人生最後の殺人を企てる―-。
虚と実のあわいをさまよう記憶に翻弄される人間を見事に描き、結末に向かって読み進める読者の記憶までをも翻弄する韓国長編ミステリー小説の傑作。

【映画化情報】
ソル・ギョング、キム・ナムギル、ソリョン(AOA)出演、映画『殺人者の記憶法』

映画を先に鑑賞。面白かったので原作を読む。映画ではソル・ギョングの認知症の演技が素晴らしかったけど原作はラストが違った。映画よりシビア。ニーチェの著作を引用していたりしてよりニヒリズム感が漂う。

認知症の殺人犯が記憶を呼び戻そうとする為に日記を付けることから始める。アフォリズム的な文体。衝動(欲望)としての殺人の肯定化。先史時代以前の人間の生存の論理(それは超人思想なのか?)。

ホメロス「オデュッセウス」に言及しているのも興味をそそられる。育ての娘との関係の中で新たに現れた殺人者との邂逅(盲目のオイディプスだな)。記憶の断片化と思考の闘争はスリリングなミステリー文学だった。(2019/03/30)

映画『殺人者の記憶法』


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