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【創作/詩歌】8~10月初週の詩歌など

思っていたよりもたくさんあったのでまとめた。
来年のどこかで作品集を発行する予定のため、それまでの限定公開かもしれない。
普段はTwitter(@Aoya_Nakizaka)で短歌やら絵やらを放り投げている。気になった方はそちらをチェックしてみてほしい。


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ソフビの怪獣抱きしめて
「またね、」と呟く彼女の家を
踏んで壊して更地にすれば
心の底から笑うだろうか


荒廃したベッドの上で記憶だけが幽霊のように顔を覗き込む


い草の軋むやわい感触
電球から垂れた紐を引いてかちりと鳴る音
硬い煎餅布団は古ぼけて穴あき
枕元にはやかましく騒ぐ夜光時計
枯れていく指のあまい匂い

吹き過ぎ去ったもの
なくなったもの達の夜はパレード


都市の亡霊は立っている
細い路地、古い駅、埋め立てられた川の墓場
名前の載っていない名簿を持った誰かが忘れたほんとうを呟くまで
都市の亡霊は祈っている
褪せたビル、曲がり角、雑草の生い茂る広い空き地
次々とやってくるいらないもの達に席を奪われてしまうまで


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散文


夏の葬式

涼しくも晴れたある日、母と一緒に夏の葬式を挙げた。
かき氷機は隅々まで手入れし、植木鉢の中の枯れた花を捨て、袖丈の長い洋服を出して。
なむあみだぶつ、なむあみだぶつと、周りの大人たちが口ずさむから、空気を読んで白々しくも読経する時のような気分だ。
当たり棒を折ってゴミ袋に放り投げた時、「火葬が終わりましたよ」と呼び出された瞬間を連想した。
灰になった夏が、砂の入った小瓶と一緒に勉強机の陰からこちらを見つめている。

週末には台風が来るそうだ。
それが去ったら、きっと秋だって直ぐにいなくなる。
秋は短すぎて葬式には適さない。



こおろぎ

燃える星色の宝石をちりちりとぶつけ合わせたような声が辺りいっぱい響き渡って、私の浅い眠りに入り込んでくる。
ススキをかすめて低空飛行すれば、宝石たちの共鳴は歓喜のように声量を増し、それから少し静かになった。
朝が来て、息が白くなる頃には、みんな消えてしまうと知っている。


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短歌


豆がらを剥く指の白い場所ばかり熱くて痛むのが嬉しい


海を往く二隻の船の片方が白くかすんでサヨナラと云う


無人駅を降りる知らない人達の知らない暮らしを郷愁と呼ぶ


眠いの?と訊けば いいや、と返すからエンドロールまで飴を舐めている


退屈と欠伸を歯噛みで殺せずに愛の言葉をまた聞き落とす


吸って吐くことさえ酷な貴方でも溺れてしまえば恋はモルヒネ?


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しばらく歌うことに集中していたので、それがなければもっと多かったかもしれない。
気が向いた時にぽろぽろと書き出すくらいでいいのだけれど。

読んでくれてありがとう。

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