見出し画像

くらい夜に

吉田篤弘(2018)「おやすみ、東京」角川春樹事務所
を読みました。

ずっと読んでしまうのが惜しくて手をつけられないでいたのですが、とうとう読み始め、一気に読みました。ことばが全身に沁みわたり、ああこのままずっとページを捲っていたい、という感覚に陥ります。降りねばならない駅を通り越し、朝ふと目をさますように本を閉じました。

〈東京03相談室〉に電話をかけてみたい夜です。
どうでもいい話をどうでもよく話せる友人はいるけれど、知らない誰かに受話器を通して話すというのは全くちがったよさがあるように感じます。

わたしはひとと話すのがあまり得意ではありません。ひとりでぼんやりしているのが好きで、友人とどうでもいい話をするのも好きなのですが、この話をしよう!あの人と話したい!と思うことがほとんどありません。
面接や面談も苦手で、正しい答えをしなければ。きちんと話さなければ。失礼のない言葉遣いをせねば。ということばかりが頭をぐるぐるし、ほとんど何も考えられなくなってしまいます。
ただ、街中でふと交わった知らないひとと話すことにはあまり抵抗がなく、信号待ちで一緒になったおじいちゃんに傘にいれてもらって駅まで歩いたり、バス停で隣になったおばちゃんと10分のど天気の話をしたりすることは楽しいとさえ感じるのです。変に気負わなくていいからなのでしょうね。

〈東京03電話相談室〉に電話をかけてみたくなるのも、自分のことを何も知らない、今後会うことのないひとに、なにか話を聞いてもらいたいという気持ちがあるからなのだと思います。
しかも相手はそれが仕事なのだから、こちらのどうでもいい話を申し訳なく思う必要もないというのが魅力的です。都合のいい欲望ですかね…。
ただ自分も〈東京03相談室〉で働いてみたいという気持ちもあります。特に夜に。
なんとなく孤独なだれかの悩みや相談に、ささやかなひと押しを。もしくは抱擁を。すてきなしごとではないですか。

東京の夜は明るい夜ですが、この小説のなかの夜は暗い夜に感じました。
暗い東京の夜にぽつぽつとある明かりが、ふわふわとすれ違い出会うような、それを静かに眺めていたような、すてきな夜を過ごしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?