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スーパーというミューズメントパークで欲望が抑えられない

「aotenちゃん、おばあちゃん、スーパー行くのが何より楽しいわ」

昔実家で同居していたおばあちゃんが良く言っていた言葉だ。
最近、そんなおばあちゃんの気持ちが良くわかる。

私はスーパーが大好きだ。正確に言うと、大型チェーン店のスーパーが好きだ。
最寄りの小さな地元密着型スーパーにはほとんど行かず、徒歩20分程のところにあるライフにわざわざ通っている。


先日姉からLINEで「このレシピ美味しいよ」と、『塩漬け豚とキャベツのポットロースト』のレシピが送られてきた。
姉は昔から料理やお菓子作りが上手で、幼い頃小学生の私に、田舎のスーパーの限られた食材でいろいろなものを作ってくれた。そして今は時々このようにレシピをシェアしてくれるのだ。

シンプルな材料で作る、とても美味しそうなレシピだ。
メインの“豚肩ブロック肉“の他、足りない食材を仕入れるため、早速ライフに行かねばならない。
大抵土日のいずれかに買い物へ行くのだが、はやる気持ちを抑えきれず、金曜日の夕方に向かった。

必要なものは“豚肩ブロック肉・粗塩・白ワイン“だ。

ワクワクしながらスーパーの自動扉をくぐり、入り口でショッピングカートを取って、中へと足を踏み入れる。
まず目の前に広がるのは、カラフルなフルーツコーナーだ。
キラキラと輝くパラダイスである。
この季節はみかんがセンターに選ばれているが、個人的には柿が推しメン。
でもまだ家にあるから今日は買わないぞ、と思いながらも気になってみかんの横にある柿のコーナーを覗いてみる。

すると“わけあり柿“と名前が付けられた柿たちが、1袋5個入りで超絶安く売られているではないか。

「ほら、あの人“わけあり“だから」

そんなヒソヒソ声に晒されながらも、真っ赤な顔で必死にこちらを見つめる柿たち(妄想)。
多少の傷がなんだ!いびつな形がなんだ!熟れすぎがなんだ!
買わない決意虚しく、速攻カートに入れてしまった。

そして足早にフルーツコーナーを抜けようとしたその時目に止まったのが、聞き慣れない名前の『メロゴールド』だ。
ん?メロン?違う、メロ?
グレープフルーツに似ているが、ライムグリーンのような不思議な色をしている。そして良くみると、ボテっとした形がグレープフルーツとは少し違うし、砂糖要らずの濃い甘さ、と書いてある。

ほな、グレープフルーツと違うかぁ。

帰って調べたところ、グレープフルーツとボンタンを勾配してできたフルーツらしい。酸味の強いグレープフルーツにボンタンの甘みを足して売りたいという煩悩の塊である事が判明した。

続いて野菜コーナーだ。
野菜は実家から送られてきたものが山のようにあるから必要ない!必要ない!なのに、『ほうれん草1束100円』が私を誘惑してくる。

高い日は190円程するのに、1束100円とは何て日だ…。
このチャンスを逃すものかと、衝動的にカートに入れてしまった。

次は鮮魚コーナーに突入する。
今日は鮮魚に用はない!!すぐさま突破しようとした矢先、美味しそうなまぐろの刺身コーナーが私を足止めさせる。

『バヌアツ産 びんちょうまぐろブロック』

まぐろおおおおおおお、なんと立派なまぐろおおおおおおおの塊!
バヌアツの荒波に揉まれながらたっぷりとした脂を蓄えたそれは、薄ピンク色にツヤツヤと輝いている。
平台型の冷蔵ケースには、所狭しとたくさんのまぐろブロックが陳列されていて、その量に圧倒されてしまう。大量陳列戦略だ。
そしてふと冷蔵ケースから視線を上げると、目の前の棚にはかの有名な木彫りの熊が“どや!“と言わんばかりの迫力で飾られていた。

いや、口に咥えてんの、シャケやけどな。

「この木彫りの熊ちょうどええやん。まぐろコーナーに飾っといて」
「わかりました!あっでも店長これ…シャケコーナーの方が良くないですか…?」
「何でや?」
「口に咥えてるのシャケやと思うんです」
「かまへんかまへん、誰もそんなん気にせえへんやろ」

このままではまぐろの塊をカゴに入れてしまうので、そんな経緯を妄想をして気を紛らわせてみる。

そして次は干物、白身魚、甲殻類、貝類…しかも半額セール祭りだ。
しまった、金曜日のこの時間はセール祭りなのか…!
全部買いたい、とそんな気持ちを抑えながら、誘惑に負けて手に取ってしまったのが『半額のジャコ』だ。大葉と一緒にしてふりかけにしたい欲望に駆られる。同じタイミングでそれを手に取った女性と一瞬目が合った。
何故か同志のような、戦友のような、そんな気持ちが湧いてくる。
これは、攻めておくべき食材ですよね、とそんな合意があった。(気がする)

興奮をコントロールしながら、ようやく肉コーナーにたどり着いた。

ここにきて、ようやく今日買うべき食材の1つ目が買える。
美味しそうな肉のブロックをまじまじと物色しながら、豚肩ロース500gをカゴに入れた。そういえば、豚の肩って、どこやろう。

後は塩と白ワインを入手せねばならない。

塩コーナーに行くと、様々なブランドの塩がびっしりと棚に並べられている。
ライフのプライベートブランド、味の素アジシオ、赤穂天塩やきしお、アルペンザルツ岩塩、食卓塩…どれもこれも魅力的である。
悩みに悩んだ結果、伯方の塩に決めた。
最終的に決め手となったのは、「は、か、た、の、塩!」というCMソングだ。パッケージを見るとどうしても頭から離れないあのソング。まんまと広告戦略にやられている。

白ワインは特にこだわりなく、安価なものをチョイスした。お酒を飲まないのでアルコールコーナーではバイタルが安定する。

これで買うべきものは全て揃ったが、このまま進むとスイーツコーナーにぶつかって座礁する事に気がついた。
欲望の船をコントロールし、レジへと向かおうとするが舵が切れず、そのままスイーツコーナーへ吸い寄せられてしまった。

真っ白のクリームに包まれた、まあるいそれ。
真っ黒のチョコレートに包まれた、しかくいそれ。
クリームとイチゴがたっぷり中に入った、ほそながいそれ。

こんな幸せそうな色とりどりのスイーツ、大型スーパーならではやん。
幼い頃、小さなスーパーでおばあちゃんが買ってきてくれた安っぽい生クリームのショートケーキが脳裏をよぎる。
最後の最後でこんなノスタルジックな気持ちになるとは思わなかった。危険だ。

レジを過ぎる頃、ようやく平常心を取り戻し、食材をバッグに詰めて店を出た。

今日もスーパーは楽しかった。
今日もライフは素敵だった。
今日もライフのポイントが溜まった。

欲望に翻弄されながら、食材を吟味するたびに沸き起こる感情。
ただ、食べるものを選んで買うだけなのに、それだけでワクワクする。


スーパーは私にとって毎週楽しめるアミューズメントパークなのだ。

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#伯方の塩 , #日記 , #エッセイ







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