あとがきのあとがき/雨月日記

https://note.com/aotasousuke/n/na94649095be3

あとがきのあとがき

 十年前にこれを書いてから十年が経った。当たり前のことだが、「十年前にこれを書いた」ということと「それから十年が経った」ということは、私の中で別々に大切なことなのだ。この十年の間に私の自称は「僕」から「私」になった。尾形亀之助が子に宛てて「事実、親と子は、一緒に歩けはせぬのだ」と言ってから数十年が経ったが、私は今も「僕」が生きていて、私がその「あとがき」の「あとがき」を書いていることを不思議に思う。「僕」は確かに死んでしまったのだろうが、「私」はこうして生きている。「事実一緒に歩けはせぬのだ」と言った亀之助の絶望を超えられた気がする。そのことに関しては、十年前にこの詩群を書き、私がこうしてそれを文章作品としてここに提示出来たこと―――、それらは、そのどちらが欠けても実現しなかったのだから―――、つまりは、あのとき「僕」が書き、「私」がこうして十年生きて、その「僕」が欠けても、「私」が欠けても、―――、あり得なかったのだから、私はこの二人の自分を讃えたいと思う。

何らかの作品を書き、その何年か後、「あとがき」の「あとがき」を書けずに、自決していく詩人の何と多いことか。

私はこの幸せを、一人でも多くの読者と、一人でも多くの詩人と、分かち合いたいと思う。

二〇二二年 七月五日
例年になく梅雨が早く明けた季節に

青田宗助

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