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女川フィーバーエンジェルス

宮城県牡鹿郡にある女川町は特別な思い入れがある。東日本大震災で甚大な被害を受けた地域で、震災直後の5月に現地で見た光景はいまも忘れることはない。震災から2ヶ月も経っていないこともあり、道路に車がようやく通れるようになった段階で、向かう道路の脇には延々と瓦礫が積み上げられ、女川町の丘の中腹には津波で押し上げられた電車が瓦礫とともに転がったままだった。

アスリートが募金活動の旗印に

震災当時、バスケットボール女子日本代表のキャプテンだった大神雄子選手、同じく男子代表の竹内公輔選手とともに、スポーツ界でも先駆けてファンドレイジング・サイト「Just Giving Japan」を通じて、募金活動「TEAM JAPAN バスケットボール 東日本大震災支援」をスタート。集まった募金は災害時の緊急即応チーム「CIVIC FORCE(シビックフォース)」の活動に充てた。立ち上げたのは、5日後の3月16日で目標額は311万。次々とトップ選手が賛同を表明してくれたことで目標額を上回り、バスケットボールに関わる人たちが一体となる活動になった。

両選手とは2010年に社会貢献活動の一環として、「High Five Program ~大神雄子・竹内公輔 ドリームプロジェクト~」と題して、クリニックを実施してこともあり、迅速なプロジェクト立ち上げにつながり、チャリティーグッズの収益も寄付することができた。

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女川フィーバーエンジェルスとの出会い

毎年3月下旬に開催される全国ミニバスケットボール大会という小学生の全国大会がある。2011年は震災の影響で中止。宮城県代表の女川フィーバーエンジェルスは大会どころではなかった。大会中止を受けて、大神雄子選手から何かチームにしてあげられることはないか、と動き出したものの震災直後だったため現地情報は少なく、何ができるのか手探り状態だった。

東北には当時bjリーグの仙台89ERSがあり、震災の影響で3月15日に全選手と契約解除することを発表。チーム活動は停止していたが、知り合いのフロントスタッフに相談すると、一緒に女川町に行く計画を組んでくれた。2011年5月3日に両選手に加えて、89ERSに所属していた高橋憲一選手(現アランマーレ・アドバイザリーコーチ)とスタッフと共に現地に向かった。仙台から向かう下道の両脇は瓦礫で溢れ、自衛隊の災害派遣車がまだたくさん走っていた。

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現地では避難生活でストレスを抱えている方々の為に何かできないか、と参加を希望する方々と芝生の上で身体のストレッチをして交流した。最初は選手たちも声をかけることに戸惑いながらだったが、同行したチアのメンバーが持ち前の笑顔で雰囲気を作ってくれた。

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その後、女川フィーバーエンジェルスを中心とした子供達を対象に女川第一中学校の校庭でボールを使った交流を実施。コーチによれば誰もが親族や知り合いを亡くしていると聞いていたので、少しでもバスケットボールに触れて楽しむ時間を過ごしてもらえればと、3選手が大きな声で盛り上げた。土のグランドだったため、とにかくバスケットボールに触れて、楽しんでもらう内容を選手達が工夫してくれた。体育館が避難所となっていたため、震災後に初めてボールに触れたという子供達も多く、子供達の笑顔が印象的だった。

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世界と戦う勇姿を見せる

大神選手は女川町の子供達の前で2回目の米国WNBA挑戦を発表した(過去にWNBAフェニックス・マーキュリーでプレー)。結果的にWNBAでロスターに残ることができなかったが、2011年夏にロンドン五輪の予選を兼ねた「第24回FIBA ASIA女子バスケットボール選手権 長崎/大村大会」に女川フィーバーエンジェルス関係者20名を招待する。大神選手が卒業旅行や修学旅行がなくなったと聞いて、世界と戦う姿を見てもらいたいという心意気で実現した。数百万円の旅費交通費は協賛金で賄いきれず大神選手が少なくない金額を負担したことはあまり知られていない。残念ながら大会は3位に終わり、ロンドン五輪の出場権を逃してしまった。

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成長の跡

女川フィーバーエンジェルスの子供達が成長して、女川中学校女子バスケ部の実話を元にした「女川中バスケ部 5人の夏」はNHKで2017年にアニメ化された。大神選手も本人役で出演している。

また、10年の月日が経ち、当時女川フィーバーエンジェルスに所属していた子供たちも大人になった。毎日新聞の記事(2020年2月15日付)によるとメンバーだった浜田さんは明成高校に進学してウインターカップに出場、高校生活を終えたとある。大神選手が与えた影響が大きかったことが記事からも伺える。

大神雄子さんは現在トヨタ自動車アンテロープスアシスタントコーチと3x3女子日本代表のアソシエイトコーチとして活躍。東京五輪で正式種目となった3人制バスケットボールで、3x3女子日本代表は出場権をかけて最終予選に挑む。竹内公輔選手は宇都宮ブレックスの中心選手として活躍、男子日本代表候補として、すでに出場権を獲得している東京五輪で活躍に期待がかかる。大きくなった女川町の子供達もどこかで応援しているはずだ。


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