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夜行バスで東京に向かうことが、唯一の希望だったあの頃
高校を卒業してもなお、私は地元に残っていた。
実家から大学に通い、これから必要になるであろう資金を貯めるべくバイトに明け暮れていた。
地元では周りの目を気にして、「男には興味がないサバサバしたボーイッシュな女」を演じていた。夢のキャンパスライフには程遠く、大学生活に楽しみが見出せなかったため必要最低限しか大学には行かなかった。
手術や男性ホルモン投与は、地元を離れてから始めようと決めていた。いちいちカミングアウトするのも億劫だったし、自分の過去を誰も知らない場所で、一から男としての人生をスタートさせる方が楽だと思ったから。
当時は前略プロフィール(今や平成の黒歴史なんて言われているみたいね笑)が流行しており、ネットでFTMの友人と知り合い情報共有していた。
その友人が東京に住んでいたこともあり、私は1人、夜行バスに乗って東京に出向いた。
初めて夜行バスで東京へ向かった時のことは、今でもはっきりと覚えている。
まどろみの中でイヤホンから聞こえる音楽、カーテンの隙間から見えた東京の街並み、朝焼けの美しさ。
夜行バスの朝は早い。東京駅に降り立った私は1人、早朝から開いている東京駅のマックで友人の到着を待った。
ネットで知り合った友人と初めて会うことにひどく緊張し、変な人だったらどうしよう(失礼)と心配していた。
友人と会うとその心配はすぐに消え去った。彼は朝早くから東京駅に迎えに来てくれて、初対面とは思えないくらい話が盛り上がり、楽しい時間を過ごした。
田舎者の私は都内の位置関係が分からなかったが友人の家から東京駅まではなかなか距離があり、東京駅の中にある沢山の店の中からマックに辿り着くのも大変だということを後から知り、改めて友人に感謝した。
彼は同い年で大学生だがガイドラインに沿って治療を始めており、声は低くなっていた。
治療の詳細を教えてもらったり、都内を案内してもらったりした。
彼と実際に会ったことで、自分の思い描いている未来が具体的に見えてきた気がした。
人との出会いが人生を好転させるのは間違いない。
あの時思い切って夜行バスに乗って友人に会いに行ってよかったと思っているし、この歳になっても思い切って行動できる自分でありたいと、今これを書いていて思った。
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